リトル・ガールズ・シンキング | ナノ



ガヤガヤと賑わう教室から抜け出して、誰も知らない私達だけの場所に向かう。曲がり角を越え、錆びた螺旋階段を駆け足で昇り、ギシギシうるさい支柱を蹴りあげ転げそうになりながらも目当てのドアが見えた。ドアノブに手をかけ思いきり押すと、広がるのは。澄みきった青い空と眼下の街、鮮やかな水色のショートヘア。

「遅いわよ、真宵」
「ごめんごめん!亜内先生に捕まっててさ」
「まあ、いいわ。食べましょうか」

トノサマンがプリントされたビニールシートを敷く。冥ちゃんは上品にスカートの裾を持ち上げて正座した。やっぱり冥ちゃんは私達中学三年生の中でも、大人の風格というものが出ている。何でも彼女の親は躾にとても厳しいらしい。隠れた親の愛、ですわね!と、感激です!と、目をキラキラさせた家族をふと思い出した。
冥ちゃんの昼食は豪華なサンドイッチ。私はいつもお弁当。いつも忙しいのに作ってくれる、大好きなそれの蓋を取る。

「いただきます!」
「…いただきます、」

真っ白なご飯をひとくち、口の中へ放り込んで。幸せの時。私とはみちゃんしか味わえない、少ししょっぱい卵焼きを頬張る。
―おいしい。

「真宵」
「ん、何?」
「アナタはご飯を食べる時、いつも幸せそうね」
「え、そう見える?なんか恥ずかしいなー…」

大切な人がいるんだ。
あ、恋愛感情とかじゃないよ?だけどさ。
毎日こうしてお弁当を作ってくれて、私達の面倒見てくれるの。だから、嬉しくて。

言おうとして―口を閉じる。口の中にふわりと広がる、ミートボールの甘い味がじわじわ染み込んでいく。
冥ちゃんはふっと微笑むとサンドイッチをふたくち食べた。その表情がまるで、とても幸せだ、と言わんばかりに緩む。…そっか。だから。

「冥ちゃん」
「何かしら」
「今、すごい幸せでしょ?」
「…そ、そう見えるかしら」
「うん!」


冥ちゃんは私と私の妹だけに喜怒哀楽の一番目を見せてくれる。それでも、たりない。
いつか、いつか。私の大切な人達にも見せてほしい。もっと幸せになれること、間違いなしだからね!




私を幸せにしてくれる、皆へ。