過去を抉るかみきれ | ナノ



糸鋸刑事が連れてきた捜査官達が慌ただしく動く中、冥はいまだにボケをかます糸鋸刑事に鞭をふるっていた。生活感のただよう事務所、昨日にはもう誘拐されたとあらば、一昨日ほどになるのか。
デスクの上の飲みかけのコーヒー。誘拐された直前まで飲んでいたものなのだろうか?スプーンが虚しく浸かっている。
「糸鋸刑事、このコーヒー…」
「ああ、それならもう捜査官に調査をさせたッス!」
「結果は?」
「…睡眠薬が検出されたッス」
「は、早く報告なさい!」
何回目か分からない鞭がなった。
睡眠薬。カップにつけられたのか、コーヒーに入れられたのか。はたまたスプーンに塗られていたのか?どれにしろ、誘拐された場所はこの事務所になってくる。
それならば、犯人は成歩堂がコーヒーを口にする瞬間にこの場に立ち会っていたことになる。では、事務所に入れた人物は。その痕跡は、残されているのだろうか。
「糸鋸刑事、発見しました!」
「あっ!あったッスううぅぅぅ!」
糸鋸刑事の声が響き、私と冥はその方向へ向かう。どうやら決定的な証拠があったようだ。
ゴミ箱の前、糸鋸刑事はビニールに包まれた書類のようなものを見せてきた。名前と文章の走り書きが記されている。
「これは…成歩堂のメモ、か」
「弁護の依頼の走り書きと考えられるッス。…一昨日の日付の!」
「なんですって!」
「指紋と筆跡鑑定を急いで頂きたいッ!」
私は知っている。この几帳面な文字は成歩堂の筆跡だ、ということを。これではっきりした。…ロジックを組み立てるまででもない。
一昨日、成歩堂のもとに弁護の依頼がきた。その人物こそが犯人だ。睡眠薬を何らかの方法でコーヒーに入れた。そして眠った成歩堂を誘拐した…
その犯人が記された走り書き。名前は。

「これ…どこかで見たことあるッスねえ」
「この前の…」
「ニュースで見たわ。二ヶ月前、レイジが担当した事件で。確かこの名前は有罪になった人物の夫だったはずよ」
「復讐…そういうことか」私は自分の記憶をたどった。
二ヶ月の事件…やけに簡単な殺人事件だった。被告人は罪を認め、弁護人も刑を軽くすることを考えているだけの。
しかし最後の最後まで、被告人の夫は妻である被告人の罪を認めなかった。裁判はすぐに終わり、妻は留置所で亡くなった。…殺人で使わなかった、毒をしこんだロケット状のピアスを隠し持ち自殺したという。
「関与してる、わね。この事件」
「わめいていたな…『ベンゴシもケンジもみんな、殺してやる!何時か必ず復讐してやる…!』と」

「み、御剣検事ィ!新たなジジツッス!」
捜査官と何やら話していた糸鋸刑事がいきなり声をあげた。わなわなと手を震わせ、目をかっと見開いて。


「その時…二ヶ月前の事件に関与した人物が全員、行方不明になってるッス!弁護士も、裁判官も、証人も、係官までも!」