凝り固まった復讐の意 | ナノ



ガタン、
どさっ。
どさっ。


白い床に黒い斑点が出来るように。
増えていく、客。目眩がするほど強烈な血の臭いが、開いた天井から落とされるたび弾けていく。どうもこうもない。一刻もはやくこの空間から逃げたい。
幸いなのか、落ちてくる死体からは腐臭はせず―つまり、殺されたてだった。体温がまだ冷えきっていないのか、触ると暖かい。だけどもうビニールを開けるつもりはない。待っているのはどうせ、もっときつい血の臭いと首で真っ二つになった人間だけだ。
「どうですか?綺麗でしょう」
張本人の声は心なしか上ずっていた。興奮しているのか、それとも自分の行いに酔いしれているのか。どちらにしろ狂気の沙汰ではない。逆に此方の方が冷静になってくる。
「何の為に、こんな」
「決まっているでしょう!…成歩堂弁護士。もうすぐ貴方も、」
「脅しは無駄だ。」
怖い。とんでもなく怖い。自分の首が飛ぶなんて考えたくもない。
よく声が震えなかったものだ。弁護士で良かった。

「へえ…そうくるんですねえ」
「…?」
「いいでしょう。こっちには手段がありますので」

言わなきゃ良かった、あんなこと…。
ガチャガチャと焦りを煽る枷の音、外れそうで外れない足枷に冷や汗が落ちた。天井が閉じていく。
電気が消えたのか、部屋が真っ暗になった。
「…さようなら、成歩堂弁護士。もっと仲良くなれたのにね」
「お前は誰っ…!!んんん!」
口に押し付けられた布ようなものから伝わる薬品の臭い。犯人が前にいるのはわかっているのに、体が動かない。顔も何も見えない。視界にノイズがかかる。クロロホルムか、

「おやすみなさい」
「…!……っ」

眠気に似たような感覚が脳髄を駆け抜けていく。
足の力が抜けて僕は膝をついた。体が、重い。駄目だ、寝てしまったら。殺される。
御剣、たすけて、たすけ


「…ゲーム、オーバー…」


やっと聞こえた犯人の声とともに、僕は下がる瞼を止められなくて。
ぱたり、自分の涙が落ちたような気がした。