手枷と足枷と首枷と少しの狂気 | ナノ



体の節々が痛い。固い床で寝ていたからしょうがないものだろう。疲れ切った心と体に追い打ちをかけるように、簡素すぎる食事が放り込まれる。
「起きましたか、成歩堂弁護士」
「…ああ」
「ご飯、ちゃんと食べて下さいね?死んだ駒は使い物になりませんから…」
どこからともなく響き渡る、デジタル音で偽装された声。まっ白い部屋の真ん中で溜息を吐く。…どこもかしこも脱出する手がかりが見つからない。
携帯は壊され、さらに僕の首と手首と足首についた頑丈そうな枷がこの部屋から出られないという事実を示している。どうしているんだろう、どこにいるんだろう。助けて、御剣。浮かぶ顔に苦笑する。僕をここに閉じ込めた犯人は御剣玲侍に復讐をする、と主張していて、そのために僕を誘拐したらしい。僕と御剣の関係を知っているのかはともかく。御剣は無事だろうか。僕のせいで苦しんでいないだろうか。
正直僕はいつ発狂してもおかしくない。どこを見てもまっ白な部屋と、行動を制限する枷と、いつも身につけているスーツの息苦しさに参ってしまいそうだ。誘拐された、と聞かされた時はパニックになって泣き叫んでしまった。まだ、死にたくない。御剣と一緒に居たい。とにかく、怖い。
「弁護士センセイ」
「っ!!…な、何です?」
「お客さん、いれちゃってもいいですか?」
「お、お客…?」
その直後、ガタン!と、何かが勢いよく開いた。…天井が落とし穴みたいに開いて、何かが落ちてきた。鈍い音をたてた塊。とても、重そうな…。
爆発物だったらどうしよう。警戒して少し触ってみる。黒いビニール袋に包まれた得体のしれない何かは、ちょっと暖かく、柔らかい。
「なんだ…これ…ッ!」
つついた衝撃か、縛ってある所から何かが流れ落ちてきた。黒いビニールを背景に白い床に落ちた液体は、…戦慄するほど、赤い。
「まさか、まさか!」
噎せ返りそうな血のにおい。袋を開けると、丸いものが転がり落ちてきた。赤で濡れているそれを引っつかむ。吐きそうだ。

「う、うわああああああああああああああああ!!」

すでにこと切れた血濡れの瞳はどこかで見た事のある女性のもので、ごろりと転がり出た首に張り付いた顔は。
わらって、いた。