突然日常変異の日 | ナノ


海外から訪れた客人と久々に会話をしていた矢先、真っ青な顔をした糸鋸刑事が盛大な音を立て執務室に現れた。タイホくんの着ぐるみと封筒をその手にたたえて。…勤務中、とは思えないが…
「たたたた、大変ッス御剣検事いだっ!」
ぴしりと音をたてる鞭。見事に額にクリーンヒットしたそれを操るのは、帰国したての天才検事狩魔冥。
「何の用、ヒゲ」
「静かにしてもらいたいものだが…」
「ち、違うッス!こんなものが…警視庁に!」
差し出された茶色い封筒。差出人も宛名も書いていない、その中身はただの紙切れ。冥の顔が怪訝に歪み、それを私の手から奪う。広げられた紙の文面を読み、冥の顔がまた歪む。
「何も書いてないじゃない」
「そうなのか?糸鋸刑事」
「こ、この眼鏡をかけるッス。ルミノール反応が発見されたッスから」
手渡された赤いレンズの眼鏡。いつぞやの…宝月茜がかけていたものとあまり変わらない、ルミノール反応を見るための器具だ。血が染み込んでいたというのか?いや、そんな訳がない。
「紙じゃなくて、封筒の裏側…薄い金属が張ってあるッス。そこに反応が」
「うム…確かに」
パッと冥によって赤い眼鏡が奪われて、それをかけ裏側の金属をまじまじと見つめ…瞬間、目が見開かれた。
「ヒゲ、これは…!」
「まて、私にもかせ」
冥が動揺するのは滅多にない。よほど重要なことが書かれていたのだろう、封筒と眼鏡を受け取り調べてみる。

「な…!!」


『ミツルギレイジへ復讐ヲ
 弁護士は預かった』


目の前が真っ暗になったような絶望が通り抜けて、青く光る文字に目が眩んだ。ペン先で書かれた血文字。…私に、復讐。弁護士の誘拐。意味するのは一つ。

「今朝、御剣検事と関わりの深い弁護士に警察が向かったッスが…」
「まさか、そんな…ヒゲ、嘘でしょう」



「成歩堂弁護士が行方不明になった…ッス」
「念のためこの血液のDNA鑑定をしてみたッスが、…まだ確実なデータは出てないスけど」
「成歩堂弁護士のものと考えて間違いないそうッス」



がたん。
足の力が抜け、膝を床に打ち付けた。ああ、何てことだ。私のせいで大事な親友が。傷つけられている、犯罪にまきこまれている。ちがう、ちがう…私の愛する大事な恋人が!

「…っはぁ、バカなッ!」
「落ち着きなさいレイジ!…ヒゲ、捜査状況は?」
「何の手掛かりも無いッス…」
「全力をあげて調べなさい!来月の給料査定、どうなってもよろしくて?」
「わ、わわ分かったッスうう!」

ばたばたとまた大きな音をたて出ていく刑事の気配さえも感じ取れない。みっともなくがたがた震えだす体が憎らしい。
両肩を掴まれ、揺すられ意識が覚醒する。
「冥」
「私たちもいきましょう。…成歩堂龍一は死なせない。私に初めて屈辱を与えたオトコ…絶対に!」
パシン!
年下の彼女に鞭打たれ頭が冷えていく。そうだ、そうとも。今私に出来ることは只一つ。残らず調べあげ、犯人を断罪することだ。

「さあ、行くわよ!」