宝月茜の背徳精神 | ナノ




つらいつらいつらいつらいつらい。胸が痛い。かなしい。あたしは何を。かりんとうの袋がぐしゃあと言った。うるさい!ばりばりと騒々しい音をたてて手を突っ込み、撹拌されたかりんとうをひっつかみ貪る。バラバラになってこぼれて、あたしの足もとには蟻が群がっていた。彼はこういうふうにしてじわじわと、存在を蝕まれていったのだろうか。何も気付けなかったという罪に背徳を覚え、あああ、そうつぶやく。妙に大人の言葉をつらぬきお姉ちゃんを見てきたあたしには本当の意味を知らない。
背徳なんて。
つらいだけだ。あたしのお姉ちゃんは彼のおかげで救われた。あたしも同時に救われた。たくさんの人を救って、彼は罠にはまって、手のひら返しみたいにみんなが彼をけなした。つらくてしかたなかった。あたしはただ信じていた。それなのに。かりんとうを手放す日がこない、カガクの力を自由に使える日がこない。夜明けが平等にこない。彼にはついに来ることなく、そう、彼が死んでしまったから、誰にもあげることができなくなった。手の平が添加物まみれ。下品にも舐めとる。あたしにはそうすることしかできない。泣きわめいてる赤い弁護士に、あたしは何もできない。

警察に捜索願が提出されたのはクリスマスの夜。
赤いサンタの代わりに、スーツと目が赤い弁護士と茫然としているじゃらじゃら検事が、あたしを見てあたしの好きな人の名前を言って、予想もしていない、一番言ってほしくないことを言った。

「成歩堂さんが、みぬきちゃんが……行方、不明に」
かりんとうが握りつぶされたのは、その10秒後だった。