王泥喜法介と×××××の別離 | ナノ



走った。走って走って走って肺が潰れそうになって必死に酸素を貪る。途中で牙琉響也に会った気がしたがそんなことも考えられない、と王泥喜は走る。目指すは裁判所を抜け少し行った所のロシア料理店。重く沈んだ気持ちとは裏腹に、街は幸せな灯りで満たされていた。疑う余地はない。クリスマスだからだ。
『本日休業』とかかれた札が揺れる。クリスマスという稼ぎ時に休業とは随分思いきった事をするなとは思うが、彼には関係なかった。開けようとするが鍵がかかっていたので、ドン!と拳でガラスを叩く。「成歩堂さん!みぬきちゃん!」反応はない。当たり前だ。

二人は死んだのだ。王泥喜はどうしても信じられなかった。事務所がすっからかんで、成歩堂の自宅にも手がかりは何もなくて、裁判所や検事局…思いつく場所は全て訪れた。勿論見つけられるハズもなく、最後の希望がここ、ボルハチだったのだ。…警察に捜索願いを出さなければ。しかし、それは王泥喜には無理な事だった。握りしめた紙が乾いた音を発した。

『成歩堂龍一と魔術師の娘を殺害した。警察に連絡したら犠牲者を増やす。王泥喜法介弁護士と牙琉響也検事に罰を。』

牙琉響也にも届いたのだろうか。兎に角、背後からかすかに聞こえる彼の声に応えたくない。クリスマスの18時、王泥喜法介は独り絶望した。