※ハロウィン

sweet




「どうしたんだ、それは」

円堂が紙袋にいっぱいのお菓子を嬉しそうに抱えている。
カラフルな包み紙のチョコレートや棒のついたキャンディ、中には煎餅やスナック菓子まであった。

「なんかさ、会うたび皆がお菓子くれるんだ。ハロウィンて良い日だよな〜!」

「そうか、良かったな」

お菓子が貰える行事、と捉えている様だ。あながち間違えてもいないので特にハロウィンについての詳しい説明はしなかった。
しかしこの量はさすが日本代表のキャプテンだと感心する。

「2人とも、おはよう」

豪炎寺も登校してきた。手にはやはり紙袋を持っている。中には可愛らしくラッピングされた箱がたくさん詰まっていた。

「来る途中で渡された」

こちらはイベントに便乗してプレゼントを渡された様だ。人気者は大変だな。

「鬼道も貰っただろう?」

「俺は普段から全て断っているからな。最近ではあまりそういった物は渡されない」

これだけ沢山貰っているなら必要なかったな…と、円堂と豪炎寺の為に持ってきたキャンディを鞄の奥へしまう。別に特別な物ではないし、朝に思い立ってコンビニで買っただけのものだ。

柄にもない事はするものではないな、と自嘲の笑みをこぼす。
わざわざ渡す必要もないだろうとそのまま鞄を机に掛けた。


*


放課後。部活が終わり着替えていると、風丸が軽く咳き込んでいる。

「大丈夫か?」

「ああ、ちょっと風邪気味なんだ…」

「!そうだ、ちょっと待ってろ」

鞄からキャンディの袋を取り出しパリッと開ける。中から一握り取り出して風丸に渡した。

「多少は喉も楽になるだろう」

「いいのか?」

ありがとう、と笑う風丸を見ながら少し安心した。良かった、役に立った。なんだか、手付かずのまま持ち帰るのは淋しいと思っていたから丁度良かった。



いつも通りに円堂と豪炎寺と3人で帰る。サッカーの話や家族の話をして、普段と変わらない下校風景だ。
ふと会話が途切れて円堂がこちらに笑いかけた。

「鬼道、いつくれるんだ?」

「ああ、もう待ちくたびれた」

豪炎寺もこちらを見る。突然、何の話だ。

「……何をだ?」

「くれないのか?」

「それは、都合良く解釈していいって事か?」

は?解釈?全く訳がわからない。主語が抜けている2人の会話についていけない。

「2人とも何を…」

「くれないって事はさ、されたいって事だよな!」

「そうなるな。今日は夕香の定期検診で、家に誰もいない。好都合だ」

どうして豪炎寺の家に誰も居ないと好都合なんだ…?
嫌な予感がする。

「じゃあ、豪炎寺の家に寄ってこう!」

まるで逃がさないというように2人にガッチリ両腕をホールドされる。連行されているみたいだ。

「…っ寄るのは構わないが、きちんと説明してくれ」

「鬼道、今日は何の日だ?」

何の日?豪炎寺に問われてハッとする。まさか。

「…今日は、ハロウィンだが……?」

すっかり忘れていた。というより、もう自分は関係ないと思っていた。
風丸にあげた時点で、もうあれは何の意味も持たないただの飴で。あの後みんなに全部配ったのだ。

「トリックオア…なんとか!」

「トリートだ、円堂」

「そう、トリート!なんだぜ、鬼道!」

お菓子くれなきゃイタズラするぞ、か。ハロウィンの決まり文句だな。


……イタズラ!?


「な、何するつもりだ…」

「もちろん、イタズラだ」

豪炎寺の澄ました顔が余計に不安を煽る。円堂は随分と楽しそうだ。

「豪炎寺、イタズラの詳細を…」

「取り敢えず、帰りは遅くなると家に電話したらどうだ?」

「!?」



甘いお菓子よりも、もっと甘い悪戯を。



Happy Halloween!







×
- ナノ -