初詣




初詣なんて、ほとんど行った事がない。
いつも正月は、おせちを食べてお年玉をもらって、あとはテレビの特番を観ながらのんびりダラダラするだけだった。


*


「なぁ、初詣に行かないか?」

鬼道の部屋で3人揃って冬休みの宿題をしている時、唐突に豪炎寺が口を開いた。

「初詣って、お金投げて拝むやつ?」

「…まぁ、そうだ」

「初詣か、悪くないな」

鬼道が、赤ペンでキュっと俺のノートにバツを書きながら、楽しそうに答えている。

……ってその問題、間違ってた?

「円堂はどうだ。あまり気が乗らないか?」

「いや、友達同士で行った事ないから行ってみたい!」

「なら決まりだな」

微笑みながら鬼道が迷いなくバツを書く。

え、それも間違ってんの?

3人で話した結果、丁度都合が合ったので元旦に行く事になった。
1日を過ぎると鬼道が財閥のパーティーや新年の挨拶まわりなど、予定がビッシリ入っている為だ。

その日は、1月1日に初詣に行く約束をして、後は鬼道にたくさんバツを付けられた。


*


「……初詣ってスッゲーのな」

参拝客で埋め尽くされた神社の境内を見て、余りの人の多さに圧倒されてしまった。

「元旦ならこんなものだろう」

「ああ」

2人は平然としているから、これが普通なんだろう。人の波に押されて、何がなんだかわからない。
このままじゃ、迷子になる。中学生の迷子なんて恥ずかしすぎる。

「豪炎寺、鬼道っ!」

2人の腕を両手でガッシリ掴み、はぐれないよう引き寄せる。鬼道は突然掴まれて驚いた顔を、豪炎寺はやれやれといった表情だったけど、迷子よりは全然マシだ。



列は中々進まない。人でごった返した境内は、まるで満員電車の中にいるようだ。
これが当たり前だと言っていた2人も、時間が経つにつれて疲れが見える。少し混み具合に苛々しているのか、眉間に皺が寄っていた。


一緒にいるのに、そんな顔じゃもったいないな。


掴んでいた腕からスルリと下へ手を滑らせ、2人の手を緩く握った。指を絡める恋人繋ぎで。

「え、円堂っ…?」

「……えんどう?」

焦った顔で2人がこちらを見るから、へへっと笑って誤魔化す。
本当は人がいる所や外じゃしないって決めてるけど、こんなにぎゅうぎゅうなら誰にも気付かれない。

「だめか?」

指で手の甲を撫でたり、つんとつついたりする。

「──…っ!」

「……別に、構わない」

今年初めての我儘を、2人は頬を染めながらも許してくれた。

やっぱ、難しい顔より照れた顔の方が断然可愛いんだよな、と2人を見ながら。



恋人達の手を、キュッと掴み直した。





END



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