cake




鬼道と豪炎寺が言い争っている。2人がムキになる姿が珍しくて、止めるのも忘れて見入ってしまった。


「だいたい、何故お前はこんなとこだけ強情なんだ!普段はあまり喋りもしないくせに!」

「それとこれとは関係ないだろう!鬼道こそ、いい加減折れたらどうだ」

きっかけはホントどうでもいい事で、俺なんかはあまり聞いてすらいなかった。取り敢えず、こんな大声出すような事じゃない。

けど。

面白い。2人とも些細な事でそんなに怒って、落ち着いていてもやっぱり俺と同じ中学生なんだよな、と実感する。
じっと観察してみると、色々と気付く事もあって楽しい。

豪炎寺の冷えたオーラにはゾクッとするが、怒ってても何だか品がある。
鬼道は身振りがいつもより大きい上に、顔が整っている分迫力が増していた。


……美人同士のケンカって、なんかスゴいな。


感心して見ていると、いよいよ白熱してきたのか今にも手が出そうな勢いだ。
そろそろ止めた方が良さそうだと、控え目に声をかける。

「まぁまぁ、2人とも少し落ち着けよ」


「「うるさいっ」」


2人にギッと睨まれた。普段うるさいなんて、どちらにも言われた事がない。


これは手が付けられない。


確か、詳しくはわからないがクリスマスの事で揉めていた筈だ。仕方がない。

「なら、俺クリスマスは2人と会わない」

「……え…」

「…円堂…?」

鬼道と豪炎寺の動きがぴたりと止まり、驚いたような表情でこちらを向く。一応声は届くみたいだ。

「そんな、ケンカするくらいならクリスマスに会わない。楽しくないし、嫌だ」

「あ……」

「…っ…」

わざとツンとそっぽを向き、怒ったフリをする。
2人とも、何だかんだでクリスマスを楽しみにしてるのは知ってる。だからこそ、こんな真剣になってるんだろうし。

「……え、円堂?」

「……怒ったのか…?」

鬼道が上ずった声で俺を呼び、豪炎寺が伺う様に聞いてくる。
見るからに焦っている2人をもう少し見たくて、さらに意地悪く続けた。

「今年は、クリスマス3人別々だな」

「「!?」」

「……あーあ、クリスマス暇になったし、皆誘ってサッカーでもするかな」

「「………」」

あ、言い過ぎたか?
2人が見るからに落ち込んで、しゅんとしてしまった。

小さく呟く声がする。

「すまん…円堂」

「…悪かった」

「謝る相手が違うだろ?」

お互いに謝るようにと暗に示すと、いつもなら素直に聞く2人が微妙な顔をしている。

「しかしっ」

「……」

そこまでなるなんて、一体何が原因だろう。そんな大事な事なのか?


「だって…円堂はイチゴのケーキが1番好きだろう?」


暫く考えた後、豪炎寺が同意を求める様に聞いてくる。


ケーキ?


「!?…そうなのか?俺はこの間、円堂がテレビを見て、チョコレートケーキが食べたいと言っていたから、てっきり…」

鬼道が驚いた様な表情をこちらに向ける。


え、俺?


「……鬼道、お前はどっちが食べたいんだ」

鬼道の反応に、確認するように豪炎寺が問う。

「個人的にはイチゴだが、円堂が好きな方がいいと思って…」

「……なるほどな」

表情を緩めた豪炎寺が、納得した様に頷く。鬼道も察したのか、平静を取り戻して腕を組んでいた。

「豪炎寺はイチゴのケーキが好きなのか?」

「どちらかといえばチョコレートの方が好きだが、別にケーキにそんなに執着がないからどちらでも構わない」


……ってことは、2人とも自分が好きじゃない方のケーキを、俺の為に選ぼうとしてケンカになったって事か?


それって…すごい、何か……っ


「なら…円堂に聞くか」

「ああ、円堂が食べたい方にしよう」

さっきは悪かったと、ふわりと笑い合う2人が、とてもいとおしい。


抱き締めたい。すごい、今すぐ。


「ふたりともっ」

「「?」」

「大好きだ!」

2人に思い切り抱きつくと、勢いがつきすぎてバランスが崩れた。2人が慌てて支えてくれる。

「円堂っ?」

「突然どうした?」

驚いている鬼道も、不思議そうにしている豪炎寺も、本当に大好きで。

「ケーキ、2こ買おう!」

鬼道の好きなイチゴのやつと、豪炎寺が好きなチョコのやつ。

「そんなに食べきれないだろう」

「円堂は欲張りだな」

少し呆れたように鬼道に言われて、豪炎寺にはクスクス笑われる。

「どっちも好きなんだからいいだろ?」


鬼道も豪炎寺も、どっちも好きなんだから。


「仕方がないな」

「…余ったら夕香にお土産に持って帰っていいか?」

「そうだな、春奈の分も残るだろうか?」

腕の中でケーキの配分について楽しそうに話す2人を、あたたかくて幸せな気持ちで眺めながら、クリスマスを待ち遠しく思った。




好きな人と、好きなケーキを。




Sweet christmas !





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