役目




「あ、っん……ん」

前に座る円堂にキスをされながら、後ろに座る豪炎寺に身体を触られる。

夫だの妻だの言っているうちに腕をとられて、なし崩しに今に至っていた。

「……もう時間が…っ、あ……」

「集中しろ、鬼道」

「ちゃんと間に合うって…だから、な?」

衣服の上から触れていた豪炎寺の手がベルトに掛かり、外される金属音で正気に戻った。

「…っ、だめだ!豪炎寺、やめろ…何考えてるっ」

「鬼道、いいから」

宥めるように円堂が囁き、言葉を遮る様に唇を押し付けられる。
このままではキスで誤魔化されてしまう。

「……っ、2人ともやめてくれ!」

「鬼道?」

「…どうした?」

2人の動きがピタリと止まった。大きな声を出したせいか、少し驚いた顔をしている。

「本当にいい加減にしてくれっ、嫌だと言っているだろう!」

どうしてこんな場所で、時間もないのに。午後の授業の準備だってあるのだ。
困った様に円堂が眉を下げて呟く。

「だって…」

「だってじゃない!」

「鬼道、そんなに嫌だったか?」

後ろから豪炎寺が聞いてくる。ここはキツめに言っておかなければ。

「嫌だと何度も言っただろう!」

「……そうか」

豪炎寺は何か考える様に黙り込んでしまった。円堂は少し哀しそうな顔をしている。…言い過ぎただろうか?

「鬼道が嫌なら、仕方ないな。……円堂」

ふと、豪炎寺の手が円堂の腕を掴み引き寄せる。俺を間に挟んだまま、2人が唇を合わせた。

「なっ…!?」

自分の肩口で繰り広げられるキスに、逃れようにも身動きが取れない。

「……ッ、……ん…」

「ご…えん…じ……っ」

2人の甘い声と唇の合わさる音がちゅ、と耳元で聞こえて、心臓がどくんと鳴った。

「…やめ…っ」

確かに自分がやめて欲しいと言ったのだ。けれどこんな。

こちらの思いとは裏腹に、キスは次第に深くなる。

自分勝手だとわかってる…でも、胸の奥が切ない。



2人だけで、しないで。



「…ん…っ…、鬼道?」

「…っ、ど…した?」

やっと唇を離した豪炎寺が、こちらの様子に気が付いた。やや呼吸の乱れた円堂も声をかけてくる。

「何で、こんな事……」

つい、小さく呟きが洩れてしまった。非難めいた声の響きに一瞬驚いた豪炎寺が、困った様に説明しはじめる。

「…いや、鬼道がしたくないなら、俺がするべきだと思っただけだ」

「……意味がよく、わからない…」

「夫を喜ばすのも、妻の役目だろう?」

……まだ夫婦の話をしてるのか?俺に当て付けた訳ではなく、妻の役目を果たしたという事か。

「鬼道、まださっきの怒ってるのか…?」

心配そうにこちらを窺いながら円堂が聞いてくる。
そんな情けない表情をするな。

「……っ…今は駄目だ…」

「ん?」

「鬼道?」

「…放課後……2人とも、よ、喜ばす…から…っ」

こんな事を言うのは恥ずかしい。顔が熱い。でも…。



2人共、夫のように大切な存在だから。



「…部室で、待ってろ!……っ俺はもう…教室に戻るっ」

「え?」

「鬼道っ?」

2人の返事は聞かずに、屋上から降りる階段へと足早に向かう。

放課後、どうしたものかとぐるぐる頭を悩ませながら。




午後の授業は全く集中出来そうになかった。




Happy 11/22 day!!!





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