※結婚ブレイク(24歳設定)

first name



3人一緒に暮らすようになってからまだ日の浅い、とある日曜の午後。
円堂の要請で、居間で家族会議が行われていた。

「おかしいと思うんだ」

「何がだ?」

難しい顔をした円堂の主語のない発言に、鬼道が不思議そうに返している。

「名前」

「名前?名前がどうしたんだ、円堂」

「それ!結婚したのに、何で下の名前で呼んでくれないんだよ」

「……ああ」

確かにそれはそうかもしれない。円堂の言葉になるほどなと俺も頷く。

「俺はこれからは、鬼道の事は有人、豪炎寺の事は修也って呼ぶ。だから2人も俺の事、守って呼んでくれよ」

「まあ、夫婦だし当然だな。……守」

「だろ?修也」

円堂を名前で呼ぶのは何だか擽ったくて、でも少し嬉しい。

「これ、慣れるまでは恥ずかしいな」

「そっかあ?………有人、どうした?」

先程から黙っている鬼道を不思議に思い、覗き込むようにした円堂がフイと顔を背けられている。
鬼道は人一倍甘え下手だから、羞恥心も手伝ってすぐには呼べないだろうなと思った。

「お、俺は呼ばん…っ」

「何でだよ、有人」

「今更、呼び名なんてどうでもいいだろうっ!」

案の定、少し頬を赤らめながら言い放ち視線を逸らす鬼道を見て、円堂に誤解のないよう補足を入れた。

「守、有人は恥ずかしがり屋だから、すぐには名前で呼べない」

「なっ…、恥ずかしくなんかない!ただ、今更呼び方を変える必要性を感じないだけだ」

鬼道をフォローしようとしたのに、返って逆効果だったみたいだ。完全にムキになってしまった。
うーん、と少し考える様にしていた円堂が、ふと真面目な顔で問い掛ける。

「……有人って呼ばれるの、嫌か?」

「別に、嫌な訳じゃ…」

「なら、俺と修也は『有人』って呼ぶから、有人は俺達を今迄通り呼んでくれよ。それでいいだろ?」

「……え…」

うん、無理強いは良くないもんな!と頷いている円堂に、少し淋しそうな視線を向けた後、鬼道が小さく頷いた。

「……あぁ、そうする」

鬼道の気持ちが手に取る様にわかる。


名前で呼びたい、でも恥ずかしい。


突っぱねてしまったけれど、本当は名前で呼びたいのだ。
自分だけ名字で呼ぶなんて、まるで他人みたいじゃないかと思っているだろう。

「ダメだ、有人も名前で呼ぶべきだ」

少し強引なくらいが、鬼道にはちょうど良い。

「豪炎寺?」

俺の発言に少し驚いている鬼道の傍により、耳元で小さく囁く。

「円堂を俺に取られてもいいのか?」

「!?……そん、な」

もちろんそんなつもりはないけれど、鬼道の少し寂しがりな性格を踏まえて、わざと煽る。

「有人がそのつもりなら、俺は遠慮しない」

「……し、しかし」

「いいんだな?」

するりと鬼道から離れると円堂の傍に行く。隣に腰掛けると、ソファーが少し軋んだ。

「守……」

「ん?なんだ修也」

円堂に少し甘えるように寄り掛かる。傍にある手を取り、軽く握ればギュッと返してくれる。

「名前、呼ぶ練習させてくれ。……守」

「ん」

「…まもる…」

肩に頬をあて擦り寄ると、円堂が嬉しそうに笑った。

「修也、なんか今日は甘えん坊だな」

「…ん、…まもる…」

「修也?」

キスする様に首に手を回して引き寄せると、それを見た鬼道が少しびくんと揺れた。
本当に鬼道は意地っ張りだ。そんな不安で泣きそうな顔をしているクセに、まだ我慢している。

仕方がない。

「守、…有人も」

円堂の耳元に唇を寄せて、有人も一緒に、と強請れば分かってると頷かれる。

「有人もこっち来いよ」

「……っでも」

「いいからさ、な?」

グンと円堂に手を引かれ、強引に横に座らされた鬼道は俯いたままだ。
鬼道の頭を撫でながら引き寄せて、少し眉を下げた円堂が口を開く。

「有人、俺やっぱ名前で呼んで欲しい」

「…でも」

「そんなに抵抗があるのか?」

恥ずかしいだけにしては強情な鬼道を見れば、顔が真っ赤で。


「……っ、名前で呼ぶ…なんて、……夜…みたいじゃないか…っ」


ああ、だからそんなに拒んでいたのか。


確かに、ベッドの中でだけはお互いいつも名前で呼んでいた。名前で呼ぶとそれを思い出してしまい、恥ずかしいという事なのだろう。

「思い出すから嫌なのか?」

「っ…」

少しからかう様に問えば、更に顔を赤く染めて鬼道が口篭る。
ずいぶんと可愛らしい理由で抵抗していたんだな。

「いいじゃん、有人。思い出しながら呼んでくれよ」

普段より少し悪戯っぽく、目を細めて笑う円堂に鬼道が言葉を詰まらせている。
もう陥落するのも時間の問題だ。

「昨日の夜とか、有人可愛いかったぞ?」

「……言う…な…っ」

「すっごい、声とか全然抑えられなくてさ」

すぐ泣いちゃうし、と続ける円堂を見上げる鬼道の瞳が熱く潤んでいる。思い出してしまったのだろう。

「…ぁ……っ、まも…る…やめっ」

「そうそう」

「………、まもるっ」

「うん」

1度呼んでしまえば、もう恥ずかしいも何もない。
鬼道と2人で何度も円堂の名前を呼んだ。呼んでいるうちに互いにスキンシップが増え、次第にそれは熱を帯びて。
すこし濃密な雰囲気のなか、円堂に縋りついた鬼道が小さく呟いた。

「……まもる…、…したい…」

「!!」

「俺も…したい」

円堂の手に指を絡めながら、鬼道の意見に同意する。
こんな明るいうちからなんて、どれだけ俺達は円堂に夢中なのだろう。
だめか?と見上げて問えば、

「もちろん、いいに決まってんだろ!」

と、ぱぁっとあの太陽の様な笑顔で返された。

有人も修也も早く早く!と急かされて、あぁ、夢中なのはお互い様なんだな、と胸があたたかくなる。

幸せな気持ちと甘い期待を胸に、鬼道と共に円堂に手を引かれてベッドルームへ向かった。




しあわせな、結婚生活




END



相互記念に書かせて頂きました!くじら様のみお持ち帰りフリーです。

結婚ブレイク、書くの楽しかったです!
ちゃんと鬼→円←豪になってるでしょうか?円堂すきすきな2人、可愛いです。

相互、ありがとうございましたー!これからも、どうぞよろしくお願いします!




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