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鬼道が出て行ってから、着替えもせずに暫く考える。

どうしてこうなったのだろう。
昨日の夜、空白の時間に何があったのだろうか。

ずっと好きだった鬼道を前に、酔いに任せてつい口を滑らせた可能性は大いにある。想いを告げたのだとしたら。

鬼道は当然断っただろう。自分達は昨日まで愛情などないただの友人関係で、しかも同性からの告白なんて普通受け入れる筈がない。

断られたら自分はどうするだろうか。酔っていた事も考慮すると、あられもない姿を曝したりしたかもしれない。泣いて、必死で頼んで、縋って。



イタリアへ帰るまでの2週間の間だけでいいから付き合って欲しい、と。



普段の鬼道なら、やはり断るだろう。けれど、昨夜は鬼道もかなり飲んでいた様に思う。酔いが判断力を狂わせたりはよくある事だ。

2週間だけと強く頼まれ、しかも中学からの友人の必死な様子に、優しい鬼道は断れなかったのではないか。

男相手に普通勃たないだろうが、まあ試してやってもいいか……くらいの気持ちにはなったのかもしれない。

昨夜の鬼道の言葉を、羞恥に苛まれながらも思い出す。

『すごく好い』
『可愛いな』

これはきっと、"思ったより"と前に付くのだろう。

男なのに"思ったより"好かった、可愛いく感じた。

だから、2週間くらいなら付き合ってもいいとそう判断したのだとしたら、あの態度にも納得出来る。

もちろんこれは仮説に過ぎない。

アルコールが入ってお互いにそんな雰囲気になったのかもしれないし、無理に自分が誘ったのかもしれない。
けれど、朝の鬼道の様子には気まずさなんて微塵もなく、完全に恋人のようだった。

甘やかしたり、優しくしたり。やはり、最初の案が1番しっくりくる気がする。

どうだったにせよ、鬼道は2週間は会ってくれる様だった。はっきりと、抱きたいとも言われた。



期間限定で構わない。



本来なら、即断られて拒絶される願いが、2週間だけでも叶うのだから。

ベッドから降りようと身体を動かすと、痛みが響いてビクンと揺れてしまう。

好きな男に抱かれた代償は随分と大きい。明日の円堂の結婚式までには何とかしなければと、腰をさすりながら溜息をついた。



*



円堂の結婚式は盛大に執り行われた。

元々知り合いが多いせいもあり、かなりの人数がいたように思う。
殆どは見知った顔で、一度はサッカーで戦った事のある奴ばかりだった。

やはりというか当然の如く、鬼道は隣の席だった。軽く挨拶をしたあとは特別先日の夜について触れる事もなく、当たり障りのない会話をした。

懐かしいメンバーと昔話に花を咲かせている間も、ずっと隣の鬼道が気になる。
鬼道は向こう隣の不動と親しげに話していた。羨ましいと無意識に思ってしまう自分が恥ずかしい。


嫉妬するとか、まるで本当の恋人気取りだ。


鬼道への意識を断ち切るように、皆との会話に集中する。

写真を撮りましょう!と強請る虎丸にぎゅうぎゅう抱き付かれ、僕もと吹雪に引き寄せられて。

ああ、虎丸や吹雪には触られても全然平気なのに、これが鬼道だったらきっとドキドキするんだろうな……と、また心の片隅で鬼道を想った。



披露宴が終わり、2次会も3次会も皆で大騒ぎして。

お開きになったのは、ちょうど日付が変わった頃だった。

バラバラと家路につく皆を見ながら、自分もタクシーを拾おうと思っていると、ポンと後ろから肩を叩かれた。

「豪炎寺」

「……っ!」

振り向けば、少し酔っているのか頬に赤みのさした鬼道がいた。

「俺の部屋で、もう少し飲まないか」

細められた紅い瞳が、弧を描く唇が、何だか艶めいていて。魅入られた様に、つい頷いてしまった。





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