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放課後、早速廊下で鬼道の後ろ姿を見つけて声をかける。

「鬼道、話が……」

「何だ」

振り向いた鬼道の表情に、ビクリとする。一瞬こちらを確認して、苦しそうな顔を。

「は、話…が」

「ケンカはもういいのか?」

「その事…で、……少し…」

怒って、る?いや、辛そうな…。

「俺もちょうど話がしたかった。少し移動するか」

「……あ、ああ」

人気のない空き教室に2人で入り、内側から鍵を掛ける。

「鬼道、…その…」

まずは一方的にケンカなどと言って距離を置いた事を謝らなければ、そして──

「もうやめてくれ」

「え…」

鬼道からひどく重苦しい声が発せられ、驚いて顔を上げる。

「もう、いいだろう?ハッキリ言ってくれないか」

「…な、に」

「俺と別れたいんだろう?」


別れる?鬼道と?


そんな事思ってない。ただ本音が聞きたくて、本当にちょっとしたケンカのつもりだったのに。

「もう、こんな気持ちのままでいるのは辛いんだ」

「きど、う?」

「頼む」

鬼道は眉間に皺を寄せて、険しい表情をしている。
固く握られた拳が微かに震えていて、鬼道の本気が伝わってきた。

俺が、嫌いになったのか?

怒っているならまだしも、嫌われたなら取り返しがつかない。

「ケンカしたいとか言って、俺が勝手な事をしたから…か?」

声が震える。

何より、"別れる"と鬼道の口から出た事が堪らなく悲しかった。別れてもいい、仕方がない、と思われたのだ。

どうしていいのか分からない。こんなに好きだと、再確認したばかりなのに。


「すまな、かっ……」


不意に、ぼろぼろと涙が溢れて自分でも驚いたが、拭う事すら出来なかった。
許しを請う以外、何も思い付かないなんて我ながら情けない。

「ご、豪炎寺っ?」

突然泣き出した俺に鬼道が酷く動揺して、ハンカチを手渡そうとしてくれている。
優しい。でも優しいばっかりじゃ嫌だ。

「……鬼道と、したい」

「え…?」

「何で……何もしてくれない?俺に魅力がないからか?男、だから…っ」

「…っ、何…を」

鬼道は俺が好きで、だから告白してくれたんじゃないのか。恋人として、自分は何か足りていないのだろうか?

つい、鬼道を見ていられなくて俯いてしまう。

「………好きなら、きちんと求めて欲しかった。何もしてくれないのは、もしかしたら俺のせいなのかも…しれない、が…」

それならそうと言ってくれたら、出来る事なら何でもしたのに。

「ケンカしただけで、嫌いになったのか?別れたい…程……」

「ち、違う!それは…」

別れたくない、嫌だ。きちんとした恋人になりたい。

「俺はもっと、鬼道と一緒に…いたい…」

「!」

鬼道にそっと手を伸ばす。
嫌われているかもしれないと思うと、制服の裾を掴むのが精一杯で手には触れられなかった。

下を向いたまま、震える声で打ち明ける。

まだ間に合うなら。
少しでも可能性が残っているなら。


「身体に触って…欲しい…」


顔が熱い。けれど伝えると決めたのだ。

「色々されたい…し、ちゃんと鬼道のものにして欲しい……っ」

「……っ!」

勇気を振り絞り思い切って伝えた途端、急に引き寄せられ、切羽詰まった表情の鬼道に問われる。

「今すぐでもいいか?」

「今?いい、が…ここ教室だぞ…」

「ああ、分かってる」

予想外の展開に驚いて、ろくな返事も出来ない。

スッとゴーグルを外し首に掛ける鬼道に、酷くドキドキする。

「豪炎寺、先に言っておくが……多分優しく出来ない」

「別に、構わない…」

思ったまま答えれば、すぐに唇を塞がれた。
普段の鬼道とは違い、少し荒々しく触れる、初めてのキス。

「……ん…」

「口開けろ」

言う通りに薄く口を開くと、するりと舌が挿し入れられる。探る様にゆっくりと動くのがもどかしい。

「……ぁ、きど…もっと……」


激しくても、平気。


気持ちが伝わったのか、どんどん深くなるキスに、疼く身体も触れて欲しくなって。

鬼道の手を自分の身体に導けば、忙しなく制服のボタンを外される。肌が外気に晒されて、一瞬身体が竦んでしまった。

キスと愛撫で息が上がった頃、唇を離し鼻先がくっ付く程の至近距離で鬼道が聞いてきた。

「そういえば、何でケンカなんかしたかったんだ?」

こっちが一方的に距離を取ったので、鬼道はケンカ自体よく分からなかった様だ。

「もっと、鬼道の事知りたかったんだ」

「で、何か分かったのか?」

「鬼道の事じゃないが、色々…気付いた」

「例えばどんな事だ?」

興味深そうに先を促され、やや恥ずかしく思いながらも続ける。

「鬼道が好き…で、傍にいないと寂しい。それに……こういう事されたいっ…て思った」

「こういう事?」

鬼道が悪戯っぽく笑いながら、聞き返してくる。からかう様な口調が何故だか愛しくて、口元が緩んでしまった。

「これからする事…だ」

「そうか」

身体に這わされた手が性急に動いて、それが嬉しい。いつもはそっと、一瞬触れるだけだった。

繰り返しキスをしながら、教室の机の上に座らされる。

これから始まる行為に、不安よりも大きな期待からぞくりと背筋が震えた。






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