深くなる嘘




部活の練習後、携帯にメールがきているのに気が付いた。こんな時間帯に誰からだろう。

確認すると源田からで、帝国サッカー部の皆で集まるので来ないか?というものだ。
時間差で佐久間と不動からも同様のメールが届いている。
提示された日に予定もないため、了承の旨を返信する。

懐かしい面々を思い浮べると自然と顔が綻んだ。みんな、元気にしているだろうか。


携帯を閉じて着替えをしていると、円堂から声をかけられた。

「お?鬼道、何か嬉しそうだな!」

「!…そ、そうか?」

円堂はたまに鋭い。週末、帝国の皆と会う事になったと説明する。

「帝国学園か、いいなー!あいつら元気にしてるかな?」

「何か伝言があるなら伝えるが」

「じゃあ…サッカーやろうぜ!って言っといてくれ!」

「円堂は相変わらずだな…」

「そうか?」

そんな話をしていると豪炎寺が部室に入ってきた。皆に軽く声をかけながらこちらに来る。ふと何かに気付いた様に俺を見た。

「お疲れ。…鬼道、何か良い事でもあったのか?」

「!?」

開口一番に聞かれた。そんなに顔に出ているのか?かなり恥ずかしい。

「週末、帝国に行くんだって。いいよなー」

「帝国学園に?」

「サッカー部の皆と会って来るんだよな!」

俺の代わりに円堂が楽しそうに説明する。

「ああ、かなり久しぶりだし楽しみだ。豪炎寺も伝言があれば……豪炎寺?」

「あ、いや。俺は特に伝言はない」

「そうか?」

一瞬、豪炎寺の表情が曇ったように見えたが…気のせいか。

「佐久間や不動にもよろしくな!」

「ああ」

少し離れた所で風丸が、ラーメン食べて帰るやつまだいるか?と最終確認をしている。

「あっ風丸、俺も食べて帰るー!じゃあな、鬼道、豪炎寺、また明日!」

手を振りながら円堂は走って部室を出て行った。他の部員達も挨拶を終えると円堂の後に続く。
最終的に俺と豪炎寺だけが残ってしまった。

「全く、忙しい奴らだな」

閉じたドアから視線を豪炎寺に移して話し掛ける。

「…ああ…」

「…豪炎寺?」

返事はしているがうわの空だ。少し躊躇したが、肩に触れてもう一度聞く。

「豪炎寺?具合でも悪いのか?」

「!…あ……いや、何でも、ない」

フイとあからさまに顔を背けられた。少しショックだ。もしかして気付かないうちに、何かしてしまったのだろうか?

「豪炎寺、…俺が…何か…」

「いや違う、なんでもない。悪いな、考え事をしていたんだ」

「あ、いや…」

すまない、と申し訳なさそうに少し眉を下げて言われた。もう、いつもの豪炎寺だ。考え事をしていただけか…我ながら少し気にしすぎだな。


「…週末、楽しんで来いよ。好きな子に会えるといいな」

「え?…あ、ああ」

そうだ、好きな人が帝国学園にいる、という設定だった。危ない、すっかり忘れていた。

「学校が違うとなかなか会えないだろう。せっかくの機会だし、告白したり……しないのか?」

豪炎寺の口から告白を勧められると、ズキズキと心臓の辺りが痛んだ。苦しい。
好きなのはお前なんだと、言えたらどんなにか良いだろう。

「いや、まだそんなつもりは…」

「まだ、か。そんな事を言っていたら誰かにとられるぞ?」

鬼道は恋愛に関しては本当に奥手だな、と冷やかしながら微笑む顔にすら、思わず見惚れてしまう。

…奥手どころか、永遠にこの気持ちは伝えられないのに。


豪炎寺に嘘をつくのはやはり心苦しい。こうして応援してくれるので尚更だ。
でも2人きりの時にだけ、豪炎寺はこの話題に触れてくる。それが特別な秘密みたいで、少し嬉しかった。



豪炎寺と秘密を共有するために、豪炎寺を騙し続けている。



こんな事を続けていたら、いつか報いを受けるだろうな、とぼんやりと思った。







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