伝えられない




部室で皆で着替えている時、女子の好みの話題になった。

円堂は当然のように、サッカーが好きな奴!と何故か自慢気に答えていた。染岡は可愛さ重視、壁山は料理の腕前、と皆それぞれ好みが違って面白い。好みの話から豪炎寺に話題が移る。

「豪炎寺はモテるし、選び放題だな。羨ましい」

「先週も告白されてたの、俺見たでヤンス」

「全部断ってるみたいだけど、豪炎寺はどんな子が好きなの?」

着替え終わった豪炎寺はいつものポーカーフェイスで質問に答えている。

「特に好み…はないな。あえて言うなら、好きになった相手が好みだ」

「「か、カッコいい…!」」

確かにカッコいいが、それじゃ参考にならない。こっちはもっと具体的な情報が欲しいのだ。

「鬼道はどんな子が好きなんだよ?」

「!?」


いきなり自分に話がきた事で動揺してしまった。ち、注目されている。豪炎寺もこちらを見ている。

「お、俺は…」

豪炎寺が好きなのだ、女子の好みなんて考えたこともない。しかし、ここは上手く切り抜けなければ。女子と言えば…

「髪の長い子…」

「あ〜、いいよなロングヘア。サラサラで可愛いよなー!」

「風に吹かれた時とか最高だよな!」

上手く乗り切れた様だ。そのまま話はロングヘアから自分達の髪型の話へと変わっていった。着替え終わると各々部室から出て帰っていく。もう、残っているのは自分と豪炎寺だけだ。豪炎寺は随分前に着替えは終わっていたし、何か話でもあるのだろうか。

「豪炎寺、なにか話があるのか?」

「……さっきの話だが」

「さっき?」

静かな部室に2人きり。陽も傾いてきている。少し鼓動が早まった。豪炎寺が目を反らしたまま続ける。

「鬼道の好きな奴…は、お前と同じクラスなのか?」

好きな人…の話か。確かに写真も見せていないし、聞かれなかったから話さなかったが気になっていたんだろう。

同じクラスだとロングヘアと合わせて特定されてしまうかもしれない。

「いや、帝国学園の生徒だ」

「……どんな感じの子なんだ?」

どんな…と聞かれてもな。目の前に居るんだが。まあ、伝える事は出来ないけれど。

「目は切れ長で、顔は綺麗だ…と思う。よく喋るタイプではない」

「面食いなんだな」

「…かもな。後輩の面倒見がよくて、慕われている。だが、悩み事を自分1人で抱え込む傾向がある」

「…他には?」

「…曲がった事が嫌いで、たまに口より先に手がでる」

「ちょっとこわいな」

そんな事言っているが、お前の事だぞ。正確には手ではなくボールだが。

「サッカーが上手くて、でも不器用なところもあって」

「サッカーしてるのか?」

「!…ああ」

不味い、調子に乗って話しすぎた。だが女子だってサッカーはするし別におかしくはない筈だ。

「後はないのか?」

「も、もういいだろう!」

「最後に…1番どこに惹かれたんだ?」

「……っ目が、笑った時の目が…すごく優しいんだ…」

物凄く恥ずかしい。本人の前で、気付かれていないとはいえこんな…。豪炎寺の目をまともに見れない。

「鬼道、すごくその子の事が好きなんだな」

「なっ、…おまえが言わせたんだろう!」

「照れるなよ。………うまくいくといいな」

「……っ、ああ…そうだな…」



うまくいく可能性なんてない。0だ。とっくに分かっている。だから嘘をついた。友達でもいいから、少しでも長く豪炎寺の傍に居る為に。








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