罪と罰




罰だと思った。


豪炎寺が好きな事を隠し、居もしない相手との恋愛相談をして散々付き合わせた。豪炎寺は、あんなに真剣に答えてくれていたのに。

一緒にいたい、ただそれだけの為に騙し続けた。

好きだという気持ちは伝えられないから、ただ傍に居たかった。

だが、ばれた。
気持ちを知られてしまった。

どこから、何故知られてしまったのかは皆目検討がつかなかった。

生徒手帳に挟んでいた写真は、豪炎寺に手帳を拾われた翌日には抜いて、部屋の引き出しの中にしまっている。

もしかしたら、自分では気付かない視線や仕草で感じとられてしまったのかもしれない。慎重に行動しているつもりだったが、完璧とは言い切れなかった。

映画に行った時など、かなり自分でも浮かれていたのを思い出す。あの時だろうか。

気持ち悪いと思っただろう。まさか自分が同性から、しかも親しくしている相手から恋愛対象として見られていたなんて、きっと誰でも不快に思う。

あんな傍で、ずっと親友ぶって、騙して。写真なんて持ち歩いて。


俺を雷門に誘った事すら、後悔しているかもしれない。


最近の豪炎寺のシュートの不調も、明らかに自分のせいだろう。あんなにサッカーが好きな豪炎寺が、俺のせいでサッカーができないなんて。

豪炎寺が、好きだ。
豪炎寺のサッカーが、好きだ。

なのに、自分の存在が全部駄目にする。
自信に満ちたプレイも、優しい笑顔も、もしかしたら雷門のチームワークすらも。

考えただけで身体が震える。一番大切で失いたくないものが、自分のせいで駄目になってしまうかもしれない。


しかも、何も解決する方法がない。


学校を辞めるには、当然義父さんの許可がいる。
そもそも、我儘を言って雷門に転校させて貰ったのだ。もうこれ以上迷惑をかけられない。

部活を退部するにしても、春奈や皆に心配をかけるだろう。豪炎寺だって責任を感じてしまうかもしれない。

この気持ちを無くして、豪炎寺が許してくれるなら。普通の友人に戻れるならそれが1番なのだ。


けれど。


どんなに強く願っても、豪炎寺を想うこの気持ちは無くせない。自分でも、どうしようもなかった。


気持ちは、意志では変えられない。


いっそ記憶を消したかった。



*



引き出しの中から写真を取り出す。

きっと豪炎寺は迷惑している。自分の写真を所持されているだなんて、気持ち悪い、捨てて欲しいと思っている筈だ。

写真も、貰ったストラップも処分して、もう全部捨てたからと豪炎寺に伝えて。
何なら、もう豪炎寺の事は好きじゃないと嘘をついてもいい。

嫌悪感を少しでも和らげて、早くいつものサッカーをさせてあげたかった。

写真を両手で持ち、力を込める。細かく千切って捨てようと思った。

「……っ…」


出来ない。


破れない。


好きな人の写真すら処分できない自分が情けない。自然と涙がこぼれた。


豪炎寺が、好きだ。


破れない。


「………っう…、…っ」

望みのない相手をこんなに好きになってしまって、この先一体どうしたらいいのだろう。

今後一生、誰も好きになれそうにない。



前に、進めない。



「……っ、ご…えん…じっ…」

好きになって、嫌な思いをさせた事を謝りたい。そして、出来る事なら。

豪炎寺を嫌いになるくらい、ひどく傷つけられたい。

もういっその事、罵ったり殴ったりしてくれないだろうか。
でなければもう…この気持ちに一生縛られてしまう気がした。



嫌いに、させて欲しい。



最後に、写真とストラップを返して謝ろう。
豪炎寺が酷い言葉の1つもくれたら、この気持ちも少しは冷めるかもしれない。

本当に最後だからと。
震える指先でメールを打つ。
貰った携帯のストラップが、ボタンを押す度ゆらゆらと揺れて切なかった。





送信ボタンを押した後も指は暫く震えたままで、すぐにストラップを外すことは出来なかった。








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