大切な




約束の当日。

帝国学園に着くと、門の前に佐久間と源田が立っていた。よく見ると源田の後ろに不動もいる。
こちらに気付いた佐久間が、手を振りながら声をかけてくれた。

「久し振りだな、鬼道!」

「ああ、出迎えすまないな。ありがとう」

「まったくだぜ、面倒くせェ」

「こら不動!」

佐久間も源田も、もちろん不動も元気そうでなによりだ。

歩きながら最近の出来事などを互いに話す。不動が横から口を挟むたびに、佐久間から怒られたり、源田に注意されていて微笑ましい。
不動が帝国学園に馴染めているか少し心配していたが、取り越し苦労だったようだ。


今日の集まりは、帝国学園の一室をサッカー部が利用許可を得て借りている形の様だ。外の店よりも、懐かしい帝国学園の方がいいだろうという皆の気遣いが嬉しかった。


「皆、鬼道を連れて来たぞ」


源田の一声で、懐かしい面々が振り向く。

「鬼道さん!」

「久しぶりだな、皆」

辺見を始め、皆が次々に声をあげた。本当に懐かしい。
俺の到着と共に用意された飲み物やお菓子が開けられている所を見ると、俺を待っててくれた様だった。

皆は、少しの違和感もなく帝国時代と同じ様に接し、新しい必殺技や帝国学園の近況を話してくれた。その都度ジュースを注がれたり、お菓子を勧められたりする。
本当に何も変わってない。久しぶりだというのに、空気で受け入れられているのが感じられ、嬉しさから思わず笑みがこぼれた。



佐久間と不動と最近出来たスポーツ用品店の話をしていると、源田がやけにごついカメラを持ってこちらに来た。
俺達3人をみてカメラを構える。

「元日本代表が丁度揃ってるな。せっかくだ、撮るから並んでくれ」

カメラを向けられると、ひょいと不動が横によけた。

「俺はパス」

相変わらずだなと苦笑すれば、佐久間が思い出した様に言う。

「そういえば鬼道と2人で写真を撮るの、初めてじゃないか?」

「……確かにそうかもしれん。あの頃は写真を撮る余裕なんてなかったからな」

帝国学園時代は本当に、ただ影山総帥に言われるままに毎日練習していた。
チームメイトとのコミュニケーションなんて二の次で、必殺技さえできればいいとさえ思っていた。

「ホント、1日中サッカーばっかりしてたな」

思い出しているのか、やや上を向きながらしみじみと佐久間が呟く。
こうしてあの頃の事を懐かしめるのは、今が幸せだからだ。

「まぁ、それは今も変わらんが…」

「雷門には究極のサッカー馬鹿がいるしな」

確かに、と2人で円堂を思い出しクスクス笑っていると、予告なく源田がシャッターを押した。まばゆいフラッシュに咎める視線を向ければ、いい表情だったから、と悪びれもせずに写真を手渡される。ポラロイドだったのか。

浮き出てきた写真を、戻ってきた不動が横から覗き込んで、やけに楽しそうに笑った。

「佐久間、これお前完全に女じゃねェの?眼帯がチャームポイントです、ってか?」

「何だと!?」

ああ、佐久間に女発言は禁句だ不動。気にしてるんだ、マズいぞ。

「鬼道くんの前だからっていい子ぶってんなよ」

言うだけ言って不動はスルリと逃げた。少し目の据わった佐久間が、間髪入れずに追いかける。

「不動、殺す」

佐久間の小さくやや本気な呟きを聞いて不動が心配になったが、まぁ仲が良くてなによりだ。

普段あまり自分から話さない不動も、イナズマジャパンで同じチームだった佐久間には心を許しているのだろう。……かなりわかりづらいが。


手の中に残された写真は、確かに2人ともとても楽しそうに笑い合っている。
俺も佐久間も、お互いこんな表情が出来るようになるなんて、昔は思いもしなかった。


俺達は、変わった。


この写真は明日にでも雷門の皆に見せてやろう。円堂辺りは、帝国と試合組むと言い出しそうだ。
持ち帰るのに折れたり曲がったりしない様に、手近にあった手帳に大切に挟んだ。

結局、不動は佐久間に捕まり羽交い締めにされたまま、写真を撮られていた。佐久間を女扱いした者の憐れな末路だ。

今日の写真の殆どはデジカメで撮られている。
写真は後で郵送してくれるというので、それも今度雷門の皆に見せようと思った。


*


久し振りに帝国学園に来れて本当に良かったと思う。
皆に会うまでは少しだけ不安もあったが、それは杞憂に終わった。
帰りも全員で見えなくなるまで手を振ってくれる。まぁ、不動だけは腕組みしていたが。

雷門とはまた違う、しかし大切な存在。自分にはこんなにたくさんの仲間がいる。



家までの距離を、あたたかくて幸せな気持ちに満たされながら、ゆっくりと歩いて帰った。



苦しい恋の事を考えずに済んだ、久しぶりに穏やかな1日だった。








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