1番近い場所に




鬼道との関係について考える。色々なパターンを想定してみたが、想いが通じる結果は導けなかった。

そもそも自分は男で、鬼道も男だ。
別に同性愛に偏見があるわけではないが、やはり上手くいく確立は低い様に思う。鬼道も差別するタイプではないだろうが、自分が当事者となれば抵抗もあるだろう。

更に、鬼道は鬼道財閥の跡取りとして養子に入っている。全力で跡取りの役目を全うするだろう。役目、それは仕事を継ぐ事と後継者を育てる事だ。義父に婚約者の1人や2人勧められてもおかしくない。そして鬼道は勧めを断れない様に思う。


そして、今の片想いの相手。話を聞く限り相当入れ込んでいる様だ。…ロングヘアの美人でサッカーも出来る、帝国にいると言っていた。
鬼道も彼女の為なら婚約者も断れるかもしれない。


正直、鬼道を想う気持ちでは誰にも負けてないと思う。けれど性別だけは自分ではどうしようもない。
鬼道が女だったら、俺が女だったら、と考えても虚しいだけだった。


…なら、もう自分の想いは可能性がない。


認めるのに時間がかかる結論だった。頭では分かっていても感情がついてこない。

目で追って、見つめて、チームメイトとのやり取りに嫉妬したり。喜ばせたくて、好かれたくて、でも困った顔が見たくて冷やかしたり。
鬼道の行動ひとつで、浮かれて、落ち込んでを繰り返す。


恋をする、という事がこんなに痛みを伴うとは思っていなかった。

鬼道以外を好きになる自分が想像出来ない。…幸せな自分も。

そして、決めた。

親友でいると。ずっと鬼道の隣にいるにはそれしかないと思った。

頼られて、真っ先に相談される様な。恋人に出来ない仕事の愚痴や、恋愛の悩み、惚気を聞く、そんな位置に。辛いときは俺の前で泣いて、弱い部分は自分にだけ見せて欲しい。



鬼道の1番近い場所に。



もう迷いはなかった。あんなに苦しかった恋愛相談も率先して聞いて、上手くいくように真剣にアドバイスした。
信頼して欲しい、こいつは頼りになると思われたい。

この先、鬼道に彼女が出来て、いつか結婚が決まって。その時、どうせ傷つくなら鬼道の傍がいい。

苦しくて辛い恋は、心の奥底にしまって。





胸を刺す痛みもきっとすぐに慣れると思った。








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