※10/01(豪円の日)


鈍感




円堂の事が好きだ。


色々悩んだ末に、ずっと傍にいたいと伝えたら、いいぜ!と笑顔で返された。違う、好きなんだと言ったら、勿論俺も大好きだ!と即答された。

悉く告白に失敗して、もう円堂には行動で示すしか無いという結論に至った。


*


円堂の部屋のドアをノックすると、すぐに返事が返ってくる。入っていいぞ、の声でドアを開けた。

「豪炎寺、どうしたんだ?」

「円堂に大事な話がある」

今日こそはと決意を固めて来た。断られるのも、嫌われるのも覚悟の上だ。
ベッドに腰掛けると隣に座った円堂から話す様に促される。

「…前に俺が、傍に居たいって言ったの覚えてるか?」

「ああ!」

「好きだと言ったのは?」

「勿論、覚えてるに決まってるだろ!すっげー嬉しかったぜ!」

ニコニコと屈託なく笑う円堂が眩しい。
そんな笑顔をされたら、今のままでもいいかと思ってしまう。

「意味、わかってるか?」

「意味?一緒に居たいくらい好きだって事だろ?」

「友達としてじゃない、こういう意味だ」


キョトンとした円堂の肩を掴み引き寄せて唇に触れる。軽く、一瞬だけ掠めるように。
顔を離すと円堂の目が驚きで丸くなっていた。

「…すまない。嫌だったか?」

「…これキス、だよな?」

「ああ」

さすがにキスの意味はわかるようだ。

「女子にするやつ、じゃないのか?」

「俺はお前にしたい」

顔が熱い。多分赤くなっているだろう。目を合わせられないまま話を続ける。

「俺、男だけど…?」

「知ってる。でも好きなんだ…自分じゃどうしようもない」

「でも…胸ないし、可愛くもないし」

「関係ない、いつの間にか好きになってたんだ。……頼む、嫌ならハッキリ言ってくれ」

この困惑した反応からも駄目なのはほぼ確実だ。けれど円堂の口からハッキリ言って貰えたら、この気持ちも諦めがつくと思った。

「き、急にそんな事言われても…わかんないよ」

「もし俺に気を遣ってるなら、やめてくれ…。嫌いと言われた方がまだ楽だ」

いや、寧ろ嫌いと言われたい。その為に来た様なものだ。

「だって、そんな突然…!」

「円堂自身の気持ちだろう?」

円堂はううっと唸って考え込んでいる。
嫌い、と言うだけで済むのに、何をそんなに考えているんだろう。


「わかった!…ならもっかいしてくれよ」

「何をだ?」

「キスに決まってるだろ!さっきのじゃ、いきなりでわかんないよ!」

「本気か?」

驚いた。同性からのキスが気持ち悪くはないのだろうか。

「本気だ…ちゃんとしろよ、こっちもちゃんと考えるから!」

「…目を閉じろ」

円堂なりに真剣に答えを出そうとしてくれているのが伝わってくる。
そんな円堂が好きだ。

頬に触れると緊張しているのか、身体がビクッと揺れた。少し顔を傾けて唇を合わせる。さっきより長く、少しだけ深く。

ちゅ、というリップ音と共に唇を離すと円堂が薄く目を開いて泣きそうな声で呟いた。

「…っもういっかい」

「…まだ、わからないか?」

「わかんない…っ」

赤く染まった頬に煽られて、そのまま何度も口付けた。唇を離すたびに円堂の口から「まだ」とか「もっと」とか言われてどうしようもない気持ちになる。


「…円堂っ」

「…は…ぁ」

「まだ、か?」

円堂の瞳はとろんと潤み、唇は赤く息が荒い。これ以上したら止まれなくなる。

「わからない…けど、嫌じゃない」

「円堂は……ひどいな」

もう、円堂の擦れた声も唇の熱さも、全部忘れる事なんて出来ない。なのに拒絶の言葉すらくれないなんて。


「ごめん、でも多分…好き…だと思う」

「!?…本当か?」

絶対に拒否されると思っていた。…少しは期待してもいいのだろうか。

「ああ。気持ち良かったし、何か…心臓がぎゅってなった」

「じゃあ」

「うーん…でもハッキリとはわかんないから、ちょっと他の人で試してくる!」


…試す?


「他の奴ともしてみて比べれば分かるよな、きっと!ちょっと俺、鬼道のとこ行ってくる!」

言った途端に部屋から出ようと立ち上がる。

「ちょ…っ、待て円堂!それは駄目だ!おい!」





随分と純粋で鈍感な奴を好きになってしまったものだと、これからの事が不安になった。



END





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