リップスティック



朝練中、円堂が首をかしげながら話しかけてきた。

「鬼道。何かさ、豪炎寺いつもと雰囲気違わない?」

「確かにな。しかし、髪型や服装はいつもと何も変わらん様に見えるが…」

「何か…こう…、やらしい感じなんだよなあ」

「や、やらしい!?そうか…?」

言われてみると確かにそんな気もする。いつもより色気がある、みたいな。

「なんだろ、なーんか」

あんまり皆には見せたくないんだよなー、と続けながら円堂が微妙な顔をする。同感だ。


「豪炎寺ー!ちょっといいかー!?」

円堂が手を挙げて豪炎寺を呼ぶ。

「なんだ円堂。鬼道も」

「いや、豪炎寺今日なんかいつもと違うから気になってさ」

「違う?身体は特に異常はないが…フォーム崩れてたか?」

何と説明すればいいものか。豪炎寺も自覚がない様だ。円堂はというと、じっと豪炎寺を見つめている。

「……うーん…」

「おい…」

「………っあ、分かった!くちだ!」

「くち?…ああ、なるほど」

「何だ、2人して。俺には訳がわからない」

見つめられ続けて豪炎寺は居心地が悪そうだ。早く説明しろと目が言っている。


「豪炎寺、くちが女子みたいにピンクだ」


そう、いつもよりふっくらとして薄っすら赤い。つやつやしている。…やらしい。

「そうなのか?朝、口が乾燥していたのを夕香が気付いて、自分のリップを塗ってくれたんだ」

なるほど、色つきリップだったという訳だ。そのまま鏡を見ていないのだろう。しかし、随分嬉しそうに話すじゃないか。

「豪炎寺、鏡見て落としてこい」

取り敢えず、その顔で練習に出られると精神衛生上よくない。それにこんな顔の豪炎寺を皆に見せたくない。

「しかし夕香がせっかく…」

おまえは女子みたいと言われたのに、全然平気なのか…?呆れを通り越して感心する。

「豪炎寺が自分で取らないなら、俺達がキスして取ってやるけど?」

円堂……おまえは欲望に忠実すぎだ。

「…分かった。取ってくる」

最初からそう言えばいいものを。円堂は少し残念そうだが。



*



リップを落としに行く豪炎寺の背中を見つめながら円堂が

「今度3人のときに塗ってもらおうぜ!」

といい笑顔で言ってきた。円堂の提案はいつも思い付きが多く大体却下なのだが、その意見は採用だ、と思った。




END




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