※10/14 (豪鬼) ゆっくり 秋も深まった少し肌寒い休日の午後。豪炎寺と一緒にサッカーの試合を観ている。 先週から付き合い始めたばかりの豪炎寺を部屋に招いてのテレビ観戦は正直かなり緊張する。 しかも部屋に2人きり。 もしかしたら恋人らしいことを求められたりする…かもしれない。キス、とかそれ以上とか。心の準備が全く出来ていなかった。 そもそも求められる、なんて考えている時点で意識しすぎている気がする。豪炎寺はそんな事思ってないかもしれないのだ。 これじゃあ逆に期待しているみたいだと思う。自分は期待…しているのだろうか。 飲み物とスナック菓子をテーブルに用意して、不自然じゃない程度に距離をあけて豪炎寺の右側に座る。 「好きに食べて構わない」 「ああ、ありがとう」 視線はテレビに向けていても、意識が隣にいってしまい試合の内容が頭に入ってこない。 たまに話しかけられるが、その都度焦って短い相槌しか打てなかった。 ドキドキして、落ち着かなくて、無意識に腕を組んだり放したりを繰り返してしまう。息苦しくて居たたまれない。 室温は適温を保っている筈なのに、暑くて仕方なかった。 こんなに挙動不審な自分は豪炎寺にどう映っているだろうか。 * 鬼道の部屋は思った通りシンプルだった。大きなテレビにサッカーの試合が鮮やかに映し出されている。芝の緑が目に眩しい。 試合を観てるフリをしながら、隣に座る鬼道にこっそり視線を移す。まっすぐ画面を見つめる瞳は今は隠されていない。ゴーグルは2人きりの時は外してくれる様だ。 恋人同士になってからも今日まで何1つ以前と変わらなかった。いや、変えなかった。ゆっくりでいい、今はただ気持ちを受け入れてくれた事が嬉しいと思っていた。 けれど。 今日の鬼道は随分緊張している様だ。少し離れて隣に座ったり、話しかけても素っ気なかったり、一度も俺と目を合わせようとしない。 そんなにあからさまに警戒されたら、さすがに傷つく。 鬼道はソワソワと腕を組んだりソファーに投げ出したりしている。腕組みが解かれた隙を逃さず、そっと手に触れた。 「……っ」 鬼道は微かに息を詰めたが視線は相変わらず試合に向けたままだ。 痛いほどこちらを意識している癖に、視線もくれない鬼道を少し寂しく感じる。もっとその赤い瞳を見せて欲しい。 触れた手をゆっくりと撫で、親指の爪から指の関節、付け根までなぞる。続けて人差し指も同じ様に。 全ての指を辿ると手を下へ滑り込ませて軽く握る。指を絡ませたり掌を爪で掠めたりすると鬼道の手が少し揺れた。吐く息がやや震えている。 「……は…」 指と指の間が特に弱い様で、触れる度に力が入るのがわかる。 頬を赤く染め我慢する様に口を噛み締めているが、やはり視線は逸らされている。 暫く緩やかな愛撫を続けると、小さく声が洩れた。 「……っ…ぁ」 「……」 「ご…豪炎寺…、もう擽ったい…から」 放してくれ、と潤んだ瞳を向けられた。ようやくこっちを見た。 「鬼道が無視するからだろう」 「試合を…観ていただけだ…」 弱々しい声。きっと試合内容なんて覚えていないだろう。 「…それにしては顔が赤いな」 「…っ!そんな事は…」 「頼むから、そんなに構えないでくれ。せっかく一緒にいるのに…少し寂しい」 本音で話せば申し訳なさそうな顔をする。寂しい、が効いた様だ。 「すまん…意識してしまって…」 「いつも通りにしてくれ」 「しかし…その、恋人な訳だから…」 「何もしない、約束する」 「あ、ああ…」 安堵と落胆が入り交じった微妙な顔の鬼道を見ながら、今日のところはな、と心の中で付け足した。 ゆっくり、まずは指先から慣らして。 END ←→ |