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足を労る様に触れた夜以降、深夜の訪問はプツリと途切れた。これまでは、2、3日おきには来ていたのに、既にあれから1週間以上が経っている。

日中の豪炎寺は、何らいつもと変わらずにサッカーに取り組んでいた。夜とは別人のクールな態度。
どうして来てくれないのかと、何度問い質そうかと思ったか知れない。けれど言えなかった。
昼間の豪炎寺は、本当に自分を親友のように扱っていて、きっと答えては貰えないと聞く前から分かっていて。

このまま、豪炎寺は何もなかった事にしたいのだろうか。

何度も考えてみた。最後の夜、何か気分を害する事をしてしまったのかもしれないし、ただただ従順に従う俺はつまらなくなった可能性もある。
飽きられたのかもしれない。
自分がそういった行為の積極性に欠けていている事は自覚している。
元々経験がない上に、プライドや羞恥心が先に立つ。それらが効かなくなった頃にはもう、身体は自分の思う通りには動かせなくて、後はただされるがままの人形も同然。
飽きて当然だ。

豪炎寺は、ただ元通りの生活に戻っただけかもしれない。けれど、俺はもう戻れそうになかった。
感触も温かさも、呼吸ひとつも忘れられない。
目や手を拘束されていた分、余計に身体に鮮明に刻みこまれてしまった。

何度も豪炎寺を呼び止め様とした。触って欲しくて、怪我でもしたらまた優しくしてくれるかもと、馬鹿な事も考えて。


そんな自分が惨めで仕方なかった。


天才なんて呼ばれていても結局はただの弱い人間なのだと、もう笑いしか出てこない。
何も出来ず、もう諦めてしまいたいと心が折れそうになっていた頃。
部活終わりに、豪炎寺がポンと俺の肩を叩いてひと言った。

「今日のプレー良かったな」

日常的な、横を通り過ぎる際のほんの一瞬の出来事で。
なのに満足な返事も出来なかった。

「そ、うか」

微かに微笑んでから、そのまま横を通り過ぎてゆく豪炎寺の背番号が、ゆらゆらと揺らいでいる。涙が滲んでいるのだと気付くのに時間がかかった。自分でも信じられない。

「嘘、だろう?」

肩を叩かれただけで。プレーを褒められただけで。



こんなに嬉しい。好きだ。切ない。苦しい。



感情がせめぎあって、どれもこれもが胸に痛い。
豪炎寺を諦めるなんて無理だ。ただ声をかけられただけで、こんなに気持ちがぐちゃぐちゃになる。このままじゃ、壊れてしまう。

シャワーを浴びて自室に戻り、早々にベッドへ潜りこむ。

決めた。
豪炎寺の気持ちを確かめる。本当に侵入者は豪炎寺だったのか、俺をどう思っているのか。



豪炎寺と同じ方法で。



ぎゅっと身体を抱き締めて、ただひたすらに深夜を待った。




(2017/03/12up)




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