* 夜中、そっと瞳を覆われた感触で目が覚めた。手は既に緩くだが纏められている。 「……来てくれたんだな」 優しく、時折、擽るように頭を撫でる感触が気持ち良い。 「なぁ、お前は俺が好きなのか?好きだからこんな事するのか」 聞いても当然返事はなく、スルスルと衣服を脱がされる。もう手馴れたものだ。 シャツを上まで肌蹴られ、ちゅっと胸に吸い付かれ声が洩れた。空いている突起も指で刺激を与える様に捏ねられる。 生暖かい感触と、生々しい音に身体がすぐに反応を示し始める。 「……ん…、はぁ…」 目が見えなくても全て思い描く事が出来る。豪炎寺の整った爪、意外と長い睫毛に薄い唇。たまに胸元を擽る感触も、きっとあの綺麗な色素の薄い髪だ。 今までぼんやりとしか形を捉えられなかった相手が豪炎寺だと分かった途端、やけに全てがリアルに感じる。 想像出来てしまうのだ。触り方も、息遣いも、きっと今しているであろう表情も。 「あ、ぅ!……やぁ……」 わざと焦らすように胸ばかり集中的にされて、もどかしくて腰が揺れる。もう胸を弄られただけでこんなになってしまう程、慣らされてしまった。 「……もっと、したの方…っ」 遠まわしな言い方では足りなかったのか、唇を指でなぞられる。もっと、きちんと言ってとばかりに舌に触られた。 「ふ…ぁ、胸ばっかりじゃなくて、ちゃんと…触って欲しい…っ」 口内から指を抜かれて、こめかみにやわらかい感触がする。キス、された。 下着を脱がされ、脚から抜き取られる。と、突然身体に触れ続けていた手が離れた。豪炎寺は身動きすらしていないのか、しんと静まり返った部屋には空気の動く気配すら感じられない。けれど、なにかを感じる。これは─── 「ッ…やめ…!」 鼓動が早まって頬が熱くなる。視線が。視線を感じる。 顔に、肩に、胸に、腰に。さらに下にも。 ぞくり、と背中が疼いた。 見られている。 ただ黙って見られているだけだというのに、恥ずかしくて居た堪れない。 「あ、見てない…で…、早く…してくれ」 視線を感じるだけで、自分の中心が反応していくのが分かる。 まだ触られてもいないのに、見られているだけで感じてこんなになって。どうかしているとしか思えない。 羞恥でつい力が篭って、つま先でシーツをキュッと掴んでしまう。 暗い中、次はどこを触られるのか、どんな風にしてくれるのかと期待と緊張が更に性感を高める。 つい、相手の服が膝を掠めただけで、声が出てしまった。 「……っ…ンぅ!」 それに気がついたのか、指で膝をツンとつつかれて、次第に爪先でゆっくり円を描くようにその範囲が広げられる。 膝から、脛へとどんどん感触は下りて、足首辺りで一旦止んだ。 その頃にはもう息が上がってしまって、ただされるがままになっていて。 「は、っ…、も…擽ったい……からっ」 ただの戯れくらいに思っていたら、不意に膝から下が持ち上げられた。足首も支えられ身動きが取れない。 「っ!?……なに…っ、や……あっ」 踝に触れたそれは濡れてあたたかく、指とは全く違うもので。 舌、だ。 「や、め……」 シャワーに入ったとはいえ、人に足を舐められる事には抵抗があった。けれど、なんとか足を引っ込めようと動かしても動かせない様に膝から下はしっかりと押さえられてしまっている。 「やめてくれ…、足、なんてっ、離し……あ、っん」 甘く噛まれて、抵抗も満足に出来ない。強く吸われたり撫でられたりしながらも、足を取られたこの態勢は、まるで童話のシンデレラだなと思ったりした。 ボンヤリして気を抜いていた所に、突然足の親指が暖かい粘膜に包まれて、身体が跳ねた。 舌先が指の付け根をくすぐり、口は何度かきつめに吸いながら前後に動かされて。 これはまるで。 「あ、ぁ!そ、れ……っ」 口淫を模した動きに、混乱と快感で泣きそうになる。足がこんなに敏感に感じるなんて、自分でも知らなかった。 「ど、してっ……足、ばっか…り…」 今までされた事のない行為に声が上ずる。足なんて、これまで殆ど触れなかったのに。 全ての指を一通り愛撫した後、唇は甲に移った。啄む様に口づけながら、足首をするする撫でられる。 恭しく慎重に、少し優し過ぎる仕草に、ようやくわかった。 今、まさにガラスの靴の様に大切に触れられているのは、怪我をしている左足で。 労ってくれていたのだ。 早く良くなるように、治りますように、と。 「……っ!大丈夫……だから…」 どうしよう、泣きそうだ。豪炎寺が、好きだ。 もしかしたら、豪炎寺はただ怪我の部分が気になっただけかもしれない。気紛れな、前戯の一環の可能性だってある。 けれど、もう止められない。好きで好きで、仕方ない。 「っ、すき…だ…」 ピタリと豪炎寺の動きが止まった。けれど口からは気持ちが溢れてしまって。誤魔化す様に言葉を足す。 「それ…すき…っ」 気付かれただろうか? 迷惑かもしれない、引かれたかもしれない。でも、言わずにはいられなかった。 「……して、っ…」 もう、我慢できない。 豪炎寺が欲しい。 手が使えないし足も押さえられているから、もう言葉でしか伝えられない。 「ぜんぶっ……好きにしていい…から…」 手が自由なら抱き締めるのに。引き寄せて、キスして、俺からだって色々するのに。 「もう、挿れて…ほし、気持ち良く…なりたい…っ」 足を支えていた手がそっと離れ、内腿をより開くように押さえる。待ち望んでいた場所に熱があてがわれた。 少しずつ、割り開くように進められる腰に、ぞくぞくとした震えが止まらない。 まだ満足に慣らしていないそこは、いつもより少しキツくて、なのに信じられないくらい良い。 「すごいっ、アっ、あ!い、い……っ…」 ぎちぎちで、熱くて、痛いくらいなのに。それ以上に、いやそれらも含めて気持ち良く感じてしまう。 「…ああ…ッ、は…ぁ、んぅ」 痛みすら気持ち良いなんて、自分はどこかおかしくなってしまっている。される事全部が嬉しい、受け入れたい。 「もっと……っ、もっとして欲しっ…」 脳が溶ける。豪炎寺が動くたび刺激が腰から響き頭の中まで浸食してくる様に、何も考えられない。 好きな相手を自覚しただけでこんなになるなら、想いが通じたらどうなってしまうのか見当もつかない。 「あっ、あ…っ!ンァ、あぁ、は、っ!」 声が抑えられない。自分とは思えない様な声が次々溢れて、 「や…、ぁ………っ、こんな…されたらっ、しんじゃ…っ」 咄嗟に言いかけた言葉に自分自身驚いた。「死んじゃう」とか、なんて陳腐な台詞だろう。 けれど、明らかに中のものが大きくなるのを感じて。 豪炎寺もちょっとは興奮してくれてるだろうか?なら、嬉しい。 だめだ、もう気持ちが止められない。 豪炎寺にも想われたい。付き合って欲しい、恋人になりたい。夜中だけじゃなくて、いつも傍にいて欲しい。こうしている今だって、顔が見たい、触りたい。 欲望が胸の中で渦巻いて、苦しくて、切なくて、嗚咽が洩れた。 「………あっ、…っんぅ…っ、く」 豪炎寺に、愛されたい。 激しく突き上げられる快感で、身体中力が入らなくなって。 「…ひ……、あ、…───…ッ」 激しく揺さ振られながら霞む思考の中で、こんな自分は本当に狂っている、きっともう普通には戻れない、と思った。 (2016/04/26up) ←→ |