* 再開された口淫は先程よりなお深く、同時に根元も手で擦り上げられて快感が強く伝わる。 「あっ、ぁ……!」 解放された口からは、簡単に嬌声が上がった。 相手の唾液か自分の先走りかは分からないものが肌を伝う感触で、すでに後ろまで濡れていると分かってしまう。 不意に後孔に何かが当てられ、身体が硬直した。前回の痛みが一瞬にして甦る。 「い……っ、痛いのは…いや、だ」 怖い。またあの身体を引き裂かれるような激痛と圧迫感が与えられるのかと思うと、治まっていた震えがぶりかえす。 中心から口が離されたかと思うと、震える身体が更にぐんと深く折り曲げられた。 「ひ、ゃ……、あ…っ」 2つ折りにされた状態で、襲い来るであろう痛みを覚悟して目をギュッと瞑る。 けれど、触れてきたのは前よりも柔らかくて熱い何か。 控え目に、けれど明らかに中へ中へと動くそれが何なのかを察した途端、余りの現状に顔に熱が集まった。 「あ、やっ!……舌…でっ………、そんなと…こ…っ」 尖らせた舌は少しずつ、解すように孔内へと侵入してくる。今まで感じた事のない感覚が、思考まで溶かしてゆく。 痛くない。ひどく熱くて馬鹿みたいに気持ち良い。それに、優しい。 相手への警戒心が薄れて、未経験の快楽にぐいぐいと引き摺られる。 「ひっ、あぅ……、は…ぁ…んんっ」 声が、自分のとは思えないほど高く甘く響く。恥ずかしくて気持ち良くて、何だかもう泣きたい。 舌を抜き差しする時に鳴る水音だけで、前がピクリと反応してしまう。 こんなに感じ反応して、もう無理矢理されたのだとは言えなかった。合意の上だったと相手に言われても、反論できない。 「……も、う……っ、くち…離して…くれっ」 これ以上されたらおかしくなる。今まで培ってきた自分の何かが、壊れてばらばらになってしまいそうな気がして。 「ん、っく、……おね…がい…っ」 ちいさくうわごとの様に懇願すると、舌が離れ代わりのものが更に奥まで挿入される。 「…ひっ!?……ゃ、う…、あぁあ…っん!」 ゆび? 心の内を肯定するかの様にそれは内壁をぐるりとひと撫でする。ぞくぞくと背筋を這う痺れに、合わせて口淫も再開され前後からの刺激で一気に達しそうになる。 「ひぁっ、あ、んっ!…や、あぁ、イ…くから……もう…、も…抜い……っ」 じきに達すると告げれば、わざと更に促すように指の動きは早められる。 内壁の柔らかさを試す様に、奥の腹部側で指が内壁を何度も強く引っ掻いた。 「う、あ、ぁ…!」 前を責める口の動きも明らかに快感を高めようと、きつく吸い上げてくる。 「イ、ぁ……っ、や…ぁ、や、んぅ!──…っんぅ、ふ……ぁ!!」 視界が白く弾けて、上り詰めるという瞬間。思わず叫びそうになった口に、相手の指が入れられた。お陰で声は比較的抑えられたが、咄嗟の事で加減が出来ずかなり強く指を噛んでしまった。 大丈夫だろうか。 誰とも知れない、自分を犯した相手を気遣いながらも、薄れゆく意識には抗えなかった。 * 朝起きると、前回と同様に部屋や着衣に乱れはなかった。まるで何事もなかったかの様に部屋は普段のままで。 今回、あまり抵抗しなかったせいか、手首にも痕は殆ど残っていない。身体も痛みなどなくてホッとすると同時に、何故と思う。 どうして俺を抱かなかった? 大きなリスクを背負って部屋に侵入し、更にあそこまでしたなら、気を失った俺相手に最後までする事も出来た筈だ。 けれどこの身体の感じからいって、寝ている間に何かされている様子はない。 意味が、目的がわからない。 俺を辱める為に来たのなら尚更おかしいし、精神を貶める為だとしても、やはり何だかしっくりこない。 あの触れ方、まるで恋人に対するかのような気遣い。 本当に俺を好き、なのか。 ストーカーなら、あり得無くはないだろう。屈折した愛情表現かもしれない。 自分を好きなら、無理に傷つけられたりはもうしないだろうか。他の人に被害が及ばないなら、このまま報告しなくても良いだろうか? いつのまにか、もうあの顔も声も知らない侵入者の事を、怖れるどころか受け入れてしまっている自分がいた。 * 朝、食堂へ行けば豪炎寺がトレーを持ちにくそうにしている。見れば人差し指と中指にかけて軽く包帯が巻かれていた。 「豪炎寺、その手はどうした?」 「ああ、これか。ドアに指を軽く挟んだ」 問えば、痛そうな事をさらりと言う。 「だ、大丈夫なのか?」 「昨日、家に帰った時に挟んだんだが、フクさんが手当てをしてくれて」 少し大袈裟に巻かれた、と笑っている豪炎寺に呆れてしまう。 「お前はどこかぼんやりしているからな。気を付けろよ」 「ああ。プレーには問題ない」 頭も良いし運動神経もあるのに、豪炎寺はどこか抜けている。 2人で話しながら席に着くと、正面にいた円堂が相変わらずの笑顔で挨拶をしてくる。 「おはよ、鬼道!豪炎寺!」 豪炎寺と共に返事を返しながら、ふと円堂の左人差し指に絆創膏がグルグル巻かれているのが目に入る。 「お前もか」 「え?何が?」 「その手、怪我したのか?」 「ああ、朝起きたらなんかどっかに引っ掻けたらしくてさ、別にかすり傷なんだけど、血が出てから貼っといた」 「朝起きたらって、お前」 こちらは理由すら判然としない。 「俺、寝相悪いからなぁ」 「まったく、お前達はもう少し気を付けて日々過ごした方がいい」 エースストライカーとキャプテンがこれでは、色々と心配になってしまう。 「そんなに始終怪我してる訳じゃない」 「寝てる間になったんだから、しょーがないだろっ」 言い訳する2人は納得が行かないのか憮然としていたが、自覚を持って過ごせと嗜めると渋々頷いた。 世話の焼ける、けれど気の置けないチームメイト達と話しながら。 深夜のあれはまるで別世界での出来事だったのだと、無理矢理に意識から遠ざけた。 (2015/03/18up) ←→ |