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実際、行動を起こすまでは緊張して心臓がばくばくと鳴っていたが、豪炎寺の部屋に入ってしまえば事は順調に進んだ。
練習で疲れて眠る豪炎寺の、毛布から出ていた手をそっと纏める。横向きで寝ていて、両手が近かったのも幸いした。

豪炎寺の身体を跨ぎ、アイマスクを当てながらゴムの部分を後頭部へ回すため頭を持ち上げた。流石に気付かれたが、もう拘束も目隠しも完了しているので問題はなかった。

「……っな、に……?」

豪炎寺の困惑した声に少し笑ってしまう。自分もはじめはこうだったんだな。

纏めた手を上にやり、ベッドのパイプに固定しながら額に軽くキスを落とした。
声を出さずに身体に触れて、シャツの裾から手を忍び込ませる。
シャツを捲り上げ、胸の突起に指と舌で愛撫を施すと、豪炎寺が息を詰めるのが分かった。

「っ……やめ、てくれ」

「……」

拒絶の言葉は洩れてくるが、誰だ、とは聞かない。

気付いているのだろうか。

返事をせずに手で胸に刺激を与えながら、舌で身体をたどり肋骨を甘く噛む。臍の窪みに口づけて、腰骨の辺りに強く吸い付き痕を残した。

「……っ、やめてくれ………鬼道」

「!」

俺だと分かるのは、お前も同じ事をしたからだろう?視界と手の自由を奪い、身体に触れたから。やり方が同じだから。

「鬼道、恨んでいるのは、わかるっ……が」

恨んでいたなんて、ずいぶん昔の事だ。もう、そんな感情はない。

豪炎寺のスウェットと下着を一緒にずらし、既に反応している中心に舌で触れる。

「っ!?やめ、だめ…だ鬼道っ、はな……せ…っ」

口内に含み、括れを丁寧になぞると、先端からとろとろと溢れてくる。軽く吸うように口をすぼめると、豪炎寺の身体がビクンと跳ねた。

「く、っ……ぅ!」

感じてくれている。今までされるばかりで、1度も返した事がなかったから、こうして触れられる事が嬉しい。

「……は…ぁ、きど…」

気持ちよく、したい。自分にしてくれた様にたくさん。

「鬼道……、ゆる、してくれ……」

「!」

「あんな事をして、すまなかった…っ」

どうして謝る?俺はもう怒ってなんかいないし、責めている訳でもないのに。
少し強く先端を舌でつつけば、さらに硬く反応する豪炎寺に、心が満たされる。

ちゅ、ちゅ、と軽く口付けながら自分の後ろに手を伸ばす。自室で幾分か慣らしてきたそこは、もうやわらかくすぐに受け入れる事も可能なくらいだった。

豪炎寺に跨り、後ろに豪炎寺自身をあてがうと少しずつ腰を落とす。

「……ン」

声を我慢しながら、豪炎寺を見れば眉根を寄せて何かに耐えている様だった。

痛いのか?それとも気持ち良い?

何とか豪炎寺が感じる様に力を抜こうとする。
自分からこんな事をするのは初めてで、根元まで飲み込んだ後も暫くは動けなかった。

圧迫感に加えて初めての体位、自重も加わりいつもより深く違う場所に当たる感覚に、ぞくぞくと背筋が震える。

気持ち良い。
けれどこれじゃだめだ。今日は豪炎寺から、俺への本音を聞き出す為にしているのだから。

呼吸を軽く整えて浅く抜き挿しすると、豪炎寺から声が上がる。

「……っく、ぁ……あ」

本音を聞き出す目的もあるが、気持ち的には奉仕出来る事がもう嬉しかった。

豪炎寺に感じて欲しい。気持ち良くなって、達して欲しい。

「…っ……やめ…て、くれ」

まだそんな事を言うのか。あんなに俺を抱いたのに。もう俺の部屋に来ないのは、どうしてだ。

腰を揺するとなかの豪炎寺自身が質量を増す。ゆっくりとギリギリまで腰を上げたり、1番深くまで沈めたりすると、聞いたこともないような声が聞けた。

「ん、ぁ……!きど…う…っ」

「……っん」

自分の声を抑えるのはかなり苦しかったが、何とか堪えて律動を続ける。

もっとするから、俺への気持ちを聞かせて欲しい。
"好きだ"とか"欲しい"だとか、そんな短い言葉で良かったのだ。
けれど、豪炎寺の口から発せられたのは、決別の言葉だった。

「もう…2度としない、約束する、から……っ」

「!」

2度としない?何故?俺が好きなんじゃないのか……。

身体の動きがピタリと止まると、どうしたのかと訝し気な声をかけてくる。

「鬼道……?」

「………っ」

好かれていなかったら、俺はどうしたらいいのだろう。無理矢理抱かれて、顔も声も知らないのに恋して、今は上に乗っかりこんな事をしている。ただの変態だ、狂っている。

「……っ…」

涙がこぼれた。豪炎寺が俺をただの遊び程度に思っていたのだとしたら、なんて滑稽なんだろう。
もしかしたら豪炎寺は、本当にただ単に処理目的でしていたのかもしれない。
目隠しされ相手も分からないのに、自分から受け入れたりしてむしろおかしいと思ったに違いない。軽蔑されただろう。

「鬼道、どうした…?」

しゃくりあげるたび身体が揺れ、きっと泣いているのに気付かれた。

「………っく…、…ふ…ぅ…」

よく考えてみれば、中学生が合宿でほぼ毎日練習ばかり。我慢できずに性欲処理に手近な相手を選んでも不思議じゃない。

豪炎寺は俺が好きな訳じゃ、ない。きっと喋らないなら、誰でも良かった。

「鬼道、本当に大丈夫か?」


最後に1度だけ。


目の見えない豪炎寺の頬へ手を添え、そっと唇へ口づける。

「……っ!?」

驚きを隠せない豪炎寺を無視して、更に唇を深く合わせる。
思えば豪炎寺は唇には1度もキスしてくれなかった。もっと早く気付けば良かった。

軽く舌を絡めて、上唇を甘く噛んだり吸ったりする。最後に恋人みたいなキスをしたかった。豪炎寺が抵抗できないうちに。
ちゅっと音を立てて唇を離す。名残惜しくて、もっとしたくて、苦しい。

でも、もう2度としない。出来ない。

豪炎寺の上から腰をあげ、強引に銜え込んでいた性器を解放する。中途半端ですまないなと、申し訳なく思った。

「………っ、鬼道?」

ずるずるとベッドから降り、床に散らばる衣類を拾い身に付ける。
なんだか脚の力が抜けて、フラフラしてしまった。
ベッドに固定していた手を、僅かに緩める。10分もあれば自力で解けるだろう。

「鬼道?待て、どうした……」

「………」

何も答えず、ベッドに繋がれた豪炎寺をそのままに、部屋からそっと出た。

自室に戻ってドアを閉めた途端、今更身体がガタガタ震え始めた。膝から力が抜けドアに寄りかかってズルズルと座り込む。ぎゅっと自分を抱き締めても、震えは治まらなかった。


本当は、薄々気付いていた。


あの行為に愛なんてないと分かっていたけれど、気付かないフリをしていたのだ。

身体とは裏腹に、心は冷静だった。

あれは、夜中に起きた出来事は、全て夢だったんだと言い聞かせて。



声を殺して朝まで泣いた。



(2017/09/27up)




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