願い事は 気付いたら見知らぬ部屋にいて、目の前には円堂によく似た大人が驚いた顔をしていた。 * いつも身体を重ねた後、円堂は言う。 『ずっと一緒にいような!俺、絶対豪炎寺を幸せにするからさ』 それを聞く度に、ずっと一緒に居られる筈はない、いつかは別れてしまうのに、と心の片隅で思っていた。 円堂は、自分などが縛り付けて良いような人間ではない。もっと正しい、より幸せになる道が別にあると痛いほど分かっていた。 けれど同時に、もし叶うならそれは本当に幸せな事だろうとも思う。 きっと、自分は死ぬまで円堂の事が好きだろうから。 * 「…豪炎寺、大丈夫か?」 ごめんな、と円堂が心配そうに眉を下げている。 明日の練習に響くから嫌だと言った俺を、半ば強引にベッドに引き込んで、無理をさせた事を気に病んでいる様だ。 「もういい、大丈夫だ」 しゅんと肩を落としている円堂に手を伸ばして、優しく頬を撫でる。 身体的には辛かったが、精神的には満たされていた。激しく求められるのは、愛されているからだ。 頬を撫でる手が気持ち良いのか、目を細めながらも気遣うように円堂が聞いてくる。 「でも身体、痛いだろ?」 「平気だ…そんなにやわじゃない」 女じゃあるまいし、との言葉は飲み込んだ。 円堂のセックスは技巧より感情が先行している。 性に目覚めたばかりの中学生は、自分の快感を求めるばかりで相手を慮る余裕がない。時には中に出されたり、加減なく突かれたりしたが、それでも別に構わなかった。 不意に頬へ伸ばしていた手を掴まれ、力強く引き寄せられる。ぎゅっと胸元に抱き込まれれば、円堂の匂いに包まれてひどく安心した。 肩に顔を埋めている円堂が喋ると、息が当たって擽ったい。 「俺、豪炎寺の事すっげぇ好き。一緒にこうしていられたら、他に何も要らない」 何も要らない、なんて。 元より、円堂はどんなに小さなものひとつだって、その大きな手で全部余さず掬い取る、そんな性格なのに。俺ひとりだって捨てられないのに。 「サッカーもか?」 わざと比べられないであろう対象を意地悪く引き合いに出せば、うーんと唸った後、神妙な顔で返してきた。 「やっぱ……サッカーはいる」 視線を合わせて互いにクスリと微笑む。目蓋や鼻に口付けられて、お返しとばかりにキスをして。 円堂とじゃれ合っているこの時間が、何より好きだった。 「そのミサンガ、綺麗だな。豪炎寺にすごく似合う」 「夕香が作ってくれたんだ」 笑いながら、円堂が俺の手元へ視線をやる。左手に結われた赤とオレンジのミサンガ。 手首に添って揺れるそれを撫でながら、大切な妹を思う。 「うん、豪炎寺は赤って感じだよなー!カッコいいし、綺麗だし」 「円堂はオレンジだな。やはりバンダナの影響もあるが、太陽みたいな明るいイメージだ」 俺の赤と、円堂のオレンジ。 ミサンガが、より愛しく感じる。赤とオレンジは、自分にとって特別な色になりそうだ。 円堂が興味深そうにミサンガをつついたり、揺らしたりしている。 「これ、どんな願い事してるんだ?」 「特に何もしてない。別に、現状で満足しているからな」 「ふーん、豪炎寺は欲がないなぁ」 欲なら、ある。 ただ叶う筈がないから、願わないだけだ。 円堂の肩にコツンと額を寄せて目をぎゅっと閉じると、円堂はやさしく何度も頭を撫で、いい夢が見れますよーに、と囁いてくれた。 もし叶うならば、一生なんて言わないからせめて10年後も一緒に。 絶対幸せにする、と言ってくれた円堂を信じたい。そんな未来なら見てみたい。 円堂の腕の中で微睡みながら、幸せで少し切ない願いを思い浮かべて眠りについた。 ←→ ×
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