*



豪炎寺は可愛い。

冷静に見えて嫉妬深く、サッカーとは打って変わって感情を抑えられない不器用さが愛おしい。

「そんなに心配か?大体お前だっていつも告白されているだろう」

そう、自分なんかより豪炎寺の方がモテるのだ。呼び出しなんて良くある事だろうに、どうしてここまで嫉妬されたのか。

「俺は鬼道と付き合い始めてからは全部断わっている」

「俺だってそうだ」

「でも、昼休み中ずっと2人っきりだったんだろう?」

それはまあ、そうだが。

「呼び出されたんだ、仕方がないだろう」

「俺なら行かない」

やや拗ねたような口調は俺の前でだけ見せるもので、場違いにも少し嬉しい。

「行かない?手紙で呼び出されてもか?」

「行かない」

「無視するなんて可哀想じゃないか?悪い噂が立つぞ」

「こっちの予定も聞かずに勝手に呼び出す方が悪い。それに──」

不意に真剣に見つめられて、ドキリと胸が鳴ってしまう。

「鬼道以外にどう思われても構わない」

真摯な瞳に、どれだけ想われているのか改めて知る。

「お前は手紙で呼び出されても行かないから俺にも行くな、と言う事か」

「違う」

「違うのか?」

「行って欲しくはないが、それは鬼道の自由だ。ただ──」

「ただ?」

豪炎寺は言葉を詰まらせ視線をおとすと、暫く迷った末、小さな声で呟いた。



「鬼道にも同じくらい想われたい」



同じくらい?

「俺ばっかりが好きみたいで不安、なんだ」

「不安…」

「俺だけが騒いで取り乱して、正しい判断が出来なくなって…だから」

ああ、豪炎寺は気付いていないのだ。こんなにも自分は豪炎寺を想っているのに。

「分かった。これからはもっと気持ちを伝えて、お前が不安にならないよう気を付ける」

俯いたままの豪炎寺を抱き寄せ、言い聞かせるように愛を囁きながら昼休みの事を思い出す。




ひとつ年上の可愛いらしい彼女が、お願いと震える声で手渡してきた手紙。豪炎寺くんへ、と書かれたその手紙はとっくに処分した。
正しい判断が出来なくなっているのは自分の方だ。豪炎寺に誰も近づけたくない。

こんな自分を知ったら豪炎寺は軽蔑するだろうか?

想われている自覚のない最愛の人を抱き締めながら、そんな事を思った。




END

(2013/05/08 up)




- ナノ -