※バレンタイン(豪鬼) 欲しい 豪炎寺は普段からストイックで生真面目で、だから紳士的な印象が強い。口数も少なく黙々と練習もこなすので、勝手にそんなイメージを持っていた。 しかし恋人として付き合ってみると、ずいぶんと積極的な事に驚く。 身体に触りたがる。 最初は向かいに座って居た筈なのに、いつの間にか隣に来て、最終的には後ろからすっぽりと抱き込まれていたりする。 こちらがしている事を遮ったりはしないので、構って欲しいのではなく、ただくっついていたいのだろう。 元々スキンシップが苦手で至近距離に最初のうちは動揺もしたが、慣れとは恐ろしいもので次第に勉強したり本を読んでいるときは気にならなくなっていた。 今日もサッカー雑誌を読んでいたら、後ろからいつものように抱きすくめられた。 「豪炎寺?」 一応雑誌から視線を外し名前を呼んでみるが、特に反応はないので用はないのだと判断する。 そのまま雑誌を読み続けていると、豪炎寺の手がスルスルと動きはじめた。 少し擽ったくて、けれど別に嫌な訳でもない。何も言わずにやりたいようにさせていると、手はゆっくりと身体を辿り始めた。 二の腕を確かめるように触ったり、背を撫でたり。 穏やかで優しい愛撫が繰り返されるうち、だんだん雑誌に集中出来なくなってきた。 少しずつ大胆になる手は腹筋を確かめたり太股の弾力を楽しんだりしていて、こちらの気なんかお構い無しだ。 次第にそれは意味ありげな触れ方に変わり、心臓がドキドキする。 「………」 やめて欲しいと言いづらい。求められた訳でもないのに拒絶したら、逆に何だか自意識過剰じゃないだろうか。ただ触れているだけだと言われたら、それまでだ。 平気を装い、読んでもいない雑誌をぱらりと捲る。 ふと、服の首元をずらされ、何をすると問う暇もなかった。 ちゅうっ、と首筋に口付けられ、そのまま甘く食まれる。 「──…っ」 手はいつの間にか布越しではなく直に肌に触れていた。肩甲骨を撫でる指先の感触をありありと感じる。 いつもは直になんて触れず、やんわりと抱き締めてくるだけなのに。 「ご、豪炎寺…?」 「何だ」 答えながらも手の動きは止まない。 「雑誌に集中できない…」 遠回しに何とか止めてもらおうとした時、豪炎寺の手が胸を掠めて身体が揺れた。 「…っ、触り過ぎ……だ」 「別に鬼道の邪魔はしていないだろう」 確かに、視界を遮られた訳でも腕を押さえられた訳でもない。雑誌を読むのに支障はない……けれど。 「落ち、着かない」 手の動きに翻弄され、声が途切れる。 豪炎寺の手の感触をやけに意識してしまい、ぞくりと背筋が震えて完全にページを捲る手が止まってしまった。 「鬼道ともあろう者が、この程度で集中できないのか?」 「……そんな、こと」 冗談めかした声が恨めしい。動悸は治まらないし顔も身体も熱くて、胸がきゅっとする。 「鬼道、耳が赤い」 ぱくりと耳たぶを噛まれて、もう堪えられなかった。 「豪炎寺……っ、もうやめてくれ」 「何故だ?」 耳のすぐ傍からする声にさえ、ついビクリと反応して肩が揺れた。 「だから、雑誌が読めないと言ってるだろう……っ」 豪炎寺にも聞こえてしまうんじゃないかというくらい、心臓の音が身体中に響く。 手が服の中から出ていくのにホッと胸を撫で下ろすと、わざと低い声で耳元に囁かれた。 「雑誌なんか読んでない癖に」 かあっと顔が熱く火照り、恥ずかしさで死にたくなった。 「よっ、読んでいる!」 咄嗟に言い返すと、肩越しに伸びてきた手が雑誌の端をトンと示す。 「通販のページになってる」 「!」 クスクスと笑う豪炎寺に向き直り、睨んでも悪怯れもしない。 「意地が悪いな」 皆の前ではクールぶってる癖に、2人きりだとこの態度。 「鬼道が悪い」 「俺が?何の事だ」 豪炎寺の少し拗ねたような様子が気になる。俺が何をしたというのだろうか。 「鬼道がチョコレートをくれないから」 「は?チョコレート……?」 「いつくれるのかと待っていたが、そんな素振り全く見せない」 「バレンタインのか?あれは女子が好きな相手に告白するイベントだろう」 「くれないのか?」 呆れたように言えば、納得できないとばかりに返してくる。 「そんなに欲しいのか」 「ああ。でも用意してないんだろう?ならこれでいい」 反論する隙もなくぎゅっと抱き締められ、掠めるようにキスされた。 「い、きなりっ…」 「チョコの代わりだ、良いだろう?」 「──…仕方がないな」 頬をすり、と撫でられて思わず目を閉じて。 啄むようなキスを鼻先に受け止めながら、鞄の中のチョコレートはもう少し後で出そう、と思った。 happy valentine's Day !!! END (2013/02/15 up) ←→ |