※01/14(円鬼の日)

touch




鬼道は、学校では友達として接したいと言った。
確かに皆には秘密で付き合ってるから、当たり前で。

だけど。

もっと傍に、近くに感じたいって思ってるのは俺だけなのか?


*


「鬼道、帰ろうぜ!」

鬼道の元まで走って抱き付こうとしたら、ひらりとかわされた。

付き合う前は、ぎゅってしたら「危ないぞ」と言いながらも笑って抱き留めてくれたのに。

恋人になった今では、一緒に帰る時も並んで歩くだけで、肩も組ませて貰えなくなっていた。

「鬼道、いま周りに誰もいないからさ」

「だから、何だ?」

「手、繋ごう」

「駄目だ」

いつ誰に見られるか分からないだろと、あっさり却下される。

「…でもっ」

「ほら、行くぞ」

「……うん」

誰も見てないのに、何で駄目なんだろう。好きだから、鬼道を直に感じたいのに。

ふわりと風で揺れる鬼道のマントをそっと掴むと、何故だか胸がぎゅうっと苦しくなった。


鬼道に、触れたい。


少し歩くのが遅くなった俺を、鬼道が気にして振り返る。

「円堂?」

俺の手がマントを掴んでいるのを見て、不思議そうに首を傾げている。

「どうした円堂、マントに何か…」

「………」

好きなのに、付き合ってるのに、マントの端を掴むくらいしか、鬼道と繋がっていられない事が切なくて。


恋人って、もっと近くてあったかいものだと思ってた。


一緒にいるのに、苦しい。


「円堂?どこか具合が悪いのか?」

「…ちがう…」

全然、ちがう。

「だ、大丈夫か?」

「……鬼道、俺のこと…好き…?」

感情が高ぶっているせいか、思ったより擦れた声が出た。

「突然、どうした?今はそんな事を言っている場合では…」

「もうやめよ」

これまで何度も思って、言おうとして、けれどギリギリでやめていた言葉がポロリとこぼれた。

「……やめる?」

「俺、鬼道の傍にいるの、苦しい……」

「……えん」

「一緒にいると、嬉しくて楽しくて、……辛いよ」

「!!」

「別れよう」

鬼道の目が驚きで見開かれる。

「な…にを…」

「俺、友達の方がいい。あの頃の方が、肩組んだり握手したり、何でも自然に出来てた」

今よりずっと親しかった。
恋人になってからは、不自然なくらい接触を避けられてる。

「…っ待て、円堂…っ」

焦っている鬼道なんて久しぶりに見た。少しは俺の事想ってくれてるのかな。でも。

「悪い、今日はもう帰るな、ごめん」

苦しい胸も、そろそろ限界だ。
帰ろうと踵を返すと、二の腕を掴まれた。ずいぶんと強い力にすこし眉を顰める。

「円堂、待ってくれっ」

「…何…?」

「嫌な訳じゃないんだ…っ、ただ学校では……落ち着かなくて」

「…俺達会うの、殆ど学校じゃん…」

「だから…、その」

歯切れの悪い言葉が鬼道らしくない。目を合わせず下の方ばかりに視線をやっている。

「良かったらこれから、家に寄らないか……?」

「え……」

突然の誘いに驚いた。鬼道の家なんて、ずいぶん行ってない。
予想外の提案に黙っていると、鬼道が不安そうにこちらを見る。

「何か…予定があるか?」

「…ない、けど。…でも……」

でも、それじゃ根本的には何も変わらない。
決めかねていると、少し困ったような表情の鬼道が聞いてくる。

「……学校では、出来る事に限りがあるだろう…?」

「…きどう?」

学校で出来ない事…って、それ…。

「…手を繋ぐなんて、円堂はそれで満足なのか?」

「!?」

さっきまでとは違う、少し熱っぽい瞳で鬼道が誘うように俺を見つめる。

「満足もなにも…だって鬼道、全然触らせてくれないし…っ」

「学校で触れない分も……たくさん、円堂の好きにしていい。だから…」

別れるなんて言わないでくれ、と甘く優しく諭される。

ズルい。こんなの、断れるはずない。

「っ……わかった。別れるのは、やめる…」

「…ああ、なら行くぞ」

「──…っ」

スイッチを切り替えたかのように普段通りに戻った鬼道に、少し納得がいかない。
上手く丸め込まれた気がする。結局、何も変わっていない。

「…鬼道、俺の事扱いやすいって思ってるだろ」

「まさか、そんな事はない」

なんだか悔しい。鬼道はいつも余裕があって、俺ばっかりが好きなんだ。

「……鬼道がもっと、俺の事好きになってくれればいいのに」

ため息混じりに呟いた途端、手をぎゅっと握られて。先を行く鬼道に手を引かれる。握られた手が熱い。

「…っ鬼道?」

前を向いたままの鬼道の耳が赤くなっている。独り言の様にこぼした、小さな声が聞こえた。

「………っもうこれ以上、好きになんてなれないっ…」

手を繋ぐというよりは、引っ張られる形だったけれど。

少しだけ譲歩してくれた鬼道の気持ちが、嬉しかった。





歯止めが効かなくなるから、学校では友達でいさせて





END






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