※01/10(円豪の日)


特別な手




冬休みの宿題を一緒にする、という名目で豪炎寺の家に泊まりにきている。

豪炎寺のベッドに横になりながら漫画を読んでいると、ひょいと上から本を取られた。

「あっ!何するんだよ、豪炎寺」

「勉強、するんだろ?」

「これ読みおわったら…」

「だめだ。ほら、やるぞ」


豪炎寺は真面目だなぁ。


渋々起き上がると、鞄から宿題と筆記用具を取り出す。プリントをぺらぺら捲っていると、指先にシュッと嫌な感覚がした。

「……っつ!」

「どうした?」

「プリントで指切ったみたいだ……痛て…」

指先に、赤い玉がぷっくりと浮かんできている。ティッシュを貰おうと、豪炎寺の方を向くと、やけに焦った顔をしている。

「…っ大丈夫か?……いま、救急箱を持ってくるから…」

「そんな大したことないって。舐めとけば治るよ」

大袈裟だな、豪炎寺は。俺は夕香ちゃんと違うのに。

「駄目だ、ちゃんと手当てしないと…」

「豪炎寺?」

「……手、貸せ」

「大丈夫だって」

平気だと手を引こうとすると、少し力を込めて引っ張られ、パクンと指先を豪炎寺の口に含まれた。

「ご、豪炎寺っ…!?」

「……っ」

豪炎寺の口の中は熱くて、柔らかくて、すこし擽ったい。舌が少し掠めると傷の部分がピリッとした。


ドクンと心臓が鳴る。


「ごうえん、じっ…」

「……ん、……っ…」

ちゅっと指から口を離した豪炎寺の表情が、何だかやけに色っぽくて。

俺の顔を見て我に返った豪炎寺が、慌てて手を離ししどろもどろに言い訳をする。

「あ……っ血が、こぼれそうだったから…つい」

「それでも普通、人の指は舐めないだろ」

「す、すまない」

豪炎寺は恥ずかしいのか、真っ赤な顔で俯いて小さくなっている。
黒い瞳が、自分でもどうしてこんなことをしてしまったのかわからない、と困惑で揺れていた。

居たたまれない微妙な雰囲気の中、小さく震えた声が豪炎寺の口から洩れた。

「……なん、だ…」

「?」

「円堂の手は…特別…なんだ…」


特別?俺の手が?


「ゴールを守ってくれる……大事な、手だから…」

潤んだ瞳で俺の手を見つめる豪炎寺の眼差しが、とても熱くて。まるで俺の手に恋してるみたいな。


それなら。


豪炎寺の傍に行き、左脚をゆっくりと足首から上へたどる様に触る。

「!?…え、円堂っ?」

慌てている豪炎寺に構わず、脛から膝、太股へと撫で上げればピクンと身体が揺れる。

「や、やめてくれ…」

筋肉の付いた、無駄のないすらりとした脚。

「俺にとってはさ、豪炎寺の脚もスッゲー大事だよ。いつも点入れてくれて……、やっぱ守るだけじゃ勝てないし」


豪炎寺がいるから、安心して守れる。


そう、大切だ。
いつも力強くシュートを決めてくれる、豪炎寺の脚。普段の活躍を労う様にゆっくりと撫でさすると、焦った豪炎寺から再度、制止の声が上がった。

「……っ、ぁ……触っ…るな」

「豪炎寺だって、俺の指舐めたじゃん」

「……っそれ、は」

なんだか、変な気分だ。豪炎寺が…可愛いく見えるなんて。

「勉強…っ、しないと…」

「指、痛いからペン持てない」

適当な言い訳で豪炎寺の意見を却下し、距離をゆっくりと詰める。
頬に手を伸ばせば、弱々しく首を振りながらだめだと拒否された。何が、だめなんだ?


……あ、なんかこれ…ヤバい。


「………っ」

吸い寄せられる様に顔を寄せると、鼻がくっつくくらいの距離で、豪炎寺が堪えきれずに目を瞑った。睫毛が長くて、ちょっと震えている。


くち、柔らかそう。


唇に触れるまであともう少し、というところで。

突然、豪炎寺の携帯から着信音が鳴り響いた。


「「!!」」


2人揃ってビクンと身体が揺れる。ハッと正気に戻った豪炎寺が、俺を押しのけ慌てて携帯電話をとりに行った。

電話に出ている豪炎寺を見ながら、胸を押さえる。気付けば顔が熱い。心臓がバクバク、うるさいほど鳴っている。

何だこれ…試合の前だってこんなにならないのに。



豪炎寺に、キスするとこだった。



携帯で話している豪炎寺の顔も、まだ赤いままで。

この、胸の鼓動の理由はわからない。


けれど。


通話が終わったら今の続きしたいな、させてくれるかな?なんて事を、無意識に考えていた。





END






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