飴と飴と……ムチ?
※白石キャラ崩壊。エクスタシーじゃなくて完璧にアホの子です。
「謙也ー、けんやぁー」
まさに『テケテケ』やんなぁ。
普通の人が――ちゅーか俺以外が見たらただイケメンが歩いてるってだけやろうけど、俺ビジョンで見たら、そりゃ、そりゃもう……歩いとるだけで白石はかわえぇんや!
俺に向かって、ちょっと小走りに駆けてくる様はまるでリス、や、ないにしろ小動物やなアレは。歩いとるだけで可愛いとか、それってもう犯罪やろ。
犯罪的にかわえぇ。
「けんやぁ―」
「どないしたん白石」
俺の胸に飛び込んできた白石をそっと抱きしめる。さわり心地のえぇ白石の髪を撫でながら、俺は何があったのかを聞いた。
そしたら白石は俺の目をじっと見つめてきて体をすっと離したから、俺も白石の腰に回してた手を離したら、
「さっきな、」
「うん」
「メニュー表めくってたらな、紙で指切ってしもてん……」
白石は紙で切ったらしい指を俺に見せてきた。きゅーんと小動物がするみたいに体を小さくさせる白石。
白石の綺麗な、人形みたいに整った人差し指から水滴と呼べるやろう程度の血が溢れてた。
白石以外のヤツやったら、たいしたことない言うて笑い飛ばすんやけど、白石相手やとそういう訳にはいかへん。
「し、白石……大丈夫か? 痛いか? チクチクする?」
オーバーアクションをとってまう。
別にふざけてなんかないし、至って俺は真面目に、ガチで白石を心配して言うとる。
コクリと頷く白石。
俺の頭は白石のことでいっぱいで、痛みを少しでも和らげとうて、白石の人差し指をくわえた。チューッと血を吸い上げたら、舌を這わせて傷口を舐める。
「白石……どない?」
指から口を離し、白石にそう聞いたら、
「謙也が舐めてくれたから治った!」
白石の周りに、一瞬花が見えた。
……は、間違いなく俺の気のせいやけど、周りに花が見えたと錯覚するぐらい、白石の笑顔は可愛らしかった。
アカン……癒される……。
「おおきに謙也」
俺はよかったなぁて言いながら、白石の頭を撫でた。
「――えぇ加減にせぇやっ!!」
……て、なんか聞こえたような気ぃするけど、外野は無視して、俺は白石の頭を撫で続けた。
昼休み。
食堂でユウジ、財前と一緒に、昼飯食てた時のことや。いつもは白石と一緒に食べるんやけど、生憎今日は白石は新聞部の会議で。クラスのヤツに混ぜてもらおかな?て思てたら、クラスにユウジが財前連れてやってきた。
なんやユウジも小春のヤツが生徒会とかで一人らしく、財前(先輩命令と称して無理矢理連れてこられたらしい)のヤツ連れて、俺を誘いにきたみたいや。
俺的にもちょうどよかったから、ユウジの誘いを受けた。
そんでやってきた食堂。
最高学年やからっちゅーことで、他学年を……別に追っ払ってはないけど、道を空けてくれて、混んでるにも関わらず俺らは席を手に入れることが出来た。
財前は弁当持ってきてたみたいやから、俺はあんパンやら焼きそばパンを購買で買うて、ユウジは親子丼の食券を買うて。並んでたユウジが、親子丼持って席に戻ってきたとこで、俺はパンの袋を破った。財前のヤツはもう食べとったけど……。
パンを口にしながら、何気ない会話を交わす。
最近のお笑いの話とか、財前が夢中になっとる初音……なんたらとか、あのお菓子が美味かったとか。
でもテニス部の話になった途端、話題は今日の朝練の出来事に移った。
「毎度のことやけど……お前、朝のアレなんやねん」
心底呆れたように口にするユウジ。
『アレ』……と言われても、俺とユウジは阿吽の呼吸って訳やないから分からへん。ま……白石が『アレ』って言うたら何のことは一発分かるけど。
「そっスわ。なんなんスかアレ」
財前も呆れ顔で『アレ』と言う。
何のことか分からんから俺が首を傾げたら、ユウジと財前にぎょっとされた。
「ちょ……っ、お前冗談はやめろや。朝の、お前と白石のやり取りに決まっとるやんけ」
言われて、俺はようやく気付いた。
「え、アレがどないしたん?」
「わっ、ユウジさん。こん人自覚ありませんよ」
心底驚いたように財前は言う。
意味が分からん。
一体何が問題や言うねん。
――男同士にも関わらず、俺と白石はお互いを恋愛対象とし見、付き合っとる。
俺らの関係は一般的に考えたらかなり異常やけど……テニス部の連中はそんなん全然気にせぇへんヤツばっかやから、部活中イチャつくこともある。
えぇ加減にせぇよと誰かに言われた気はするけど、そんなん毎度のことやし、今日に限っては白石怪我してたし……。
「謙也……お前、白石を甘やかしすぎやわ」
「は、」
「ユウジさんの言う通りっすわ」
俺が……白石を……?
「別に、そんな気ないけどなぁ……」
て言うたら、二人はテーブルに突っ伏した。ユウジに関しては親子丼の入れモンをずらして、場所まで作って盛大に突っ伏した。
あぁ……悲しき、大阪人のサガ。
ずっこけは、バッチリやらななぁ。校長のムアンギも常に求めとるし。
伏せた顔を上げながら、ユウジを言った。
「あんなぁ……ホンマ、えぇ加減にした方がええと思うで? 白石、お前と付き合い始めてからヘナヘナやんか」
「ヘナヘナ……」
「そっスわ。ヘナヘナですわ。やる時はやる人なんでまだ部長としての威厳はありますけど、こんままエスカレートしたら色々……厄介やと思いますよ」
素っ気なくそう言うた財前は、『いちごみるく』て書かれた紙パックの飲料をストローをくわえる。
「そんなんしゃあないやんか。白石がかわえぇんやもん……」
本日二度目のずっこけ。二人ともテーブルに突っ伏す。