「――はい、今日はここまで。みんな、お疲れさん」

 テニス部の子全員の顔見渡して、俺は今日の活動の終わりを告げた。
 俺も俺の仕事があるから、練習を全部見るってワケにはいかんけど、残り時間30分は部活動に参加するように心掛けとって。その時間をつこて、部員のクセとか直した方がええとことかを俺は毎回しっかり見てた。
 それは俺自身テニスが好きなんと、中学・高校と共に部長をつとめた、その名残があるからやろな……。
 うちの学校はそこそこ強いってだけで、全国に行けるとかそんなレベルやないけど、和気あいあいとしとって楽しい部活やと思う。

「お疲れさまでしたっ!」

 全員が軽く頭を下げ、口を揃えてそう言い、各々仲のいい友人と言葉を交わしながら解散して行く。

 もはや定番化しとって、言わんでも分かっとるとは思うけど、部長の子に後は頼んだでて言うてから、俺は職員室に戻った。
 時刻は午後4時。

 今日は土曜で、授業が午前までやから部活が終わんのが早い。ホンマは部活にも午後から全部参加したかってんけど、そういうワケにもいかんで。俺は三年生の補習をやってた。
 30分前まで作ってた補習用プリントも、後もうちょっとで完成ってとこで、部長が部室の鍵返しにくる頃には出来てるやろう。
 そう予測した俺は、自分の机の前に移動して、椅子に腰掛けたら、キーボードを叩き出した。

 そん時視界の端に見えた俺の携帯。

 生徒に、携帯持ってくんのはええけど、学校では使うなって言うてるだけに、教師の俺が持ち歩くんはなんか気ぃ引けて(別にええんやけど)、いっつも職員室の机の上に置きっぱなしにしとる。

 その携帯の表示ランプがピカピカ光ってて、メールの受信を知らせとった。

 キリのええとこまで打って、誰やろうと思いながら俺は携帯を手にとり、画面を開く。送り主のメアドは、アドレス帳に登録されてへんもんで……見覚えのないそのメアドに、俺は顔をしかめた。
 間違いメールか? て思いつつ、エンターキー押して、

「……!」

 開いたメールに俺はびっくりした。

『メールでは久しぶりやな、白石』

 その文面から始まるメールの送り主は、今や俺の義弟となった元・友人、忍足謙也からのモンやった。

 友香里から俺のメアド教えてもろたて、自分が誰なんか名乗った後、続いて書いとって、

『時間ある時でええから電話して』

 と、最後には自分の電話番号が載せてあった。

 メールがあったんはついさっき。

 文面から深刻な話やないことは分かるけど、俺は携帯片手に職員室出た。
 それは多分、謙也からの連絡にびっくりしたんもあるけど……純粋に嬉しかったからやと思う。

 人気のない階段の踊り場に出て、俺は謙也の携番に電話を掛けた。
 コールが何回も鳴ってなかなか繋がらんから、しもた、仕事中やったかと切ろうとしたら、

『……白石か?』

 ちょうど繋がって、俺は携帯を耳に宛て直して、謙也と喋り出した。

「謙也、いきなりなんやねん。自分から連絡とか、いきなり過ぎてびっくりしたやんか」

 言葉とは裏腹に、俺の声は笑い混じりや。

『おー、白石っ! 堪忍堪忍。いやな、メールで詳しく説明しようかと思てんけど、なんや性格上出来んでな……電話してもうた方が早いと思て』

 謙也も謙也で声は弾んどって。
 俺との会話に、昔を感じとることは容易に想像出来た。俺やってそうやし。

「ははっ、変わってへんなぁ」

 イラチな性格の謙也は、メールよりも電話をするようなヤツやった。それは昔も今も、変わってへんみたいやなぁ。

「で、なんなん? 俺に何の用?」
『あー……えっとな、来週、友香里のヤツが友達と舞台見に行くとかで、東京行くんやんか。それも一泊二日で』

 別に俺は結婚してないし、そういうんはよう分からんけど、

「え……それってどうなん? 新婚早々旦那ほっといて、自分は遊びに行くって」

 身内だけについ口出ししてしもた。

『いや、俺は別にええねん。これは友香里はずっと楽しみにしとった舞台やし、一緒に行く友香里の友達もよう知っとる子やし』

 友香里を必死にフォローする謙也。
 俺かて自分の妹の悪口は言いたないけど、こんなこと聞かされたら、言わずにはおられへん。友香里の兄として、謙也に申し訳なかった。

「でもなぁ……」
『ホンマにええねんて』

 納得出来ひんけど、謙也がええって言うんやからこれ以上俺が口出しするワケにはいかへん。
 俺は黙ることにした。

『それでな、俺基本的に土曜は……昼まではあんねんけど、日曜は休みやねん。白石さえよかったらやねんけど、泊まりで遊びにこおへん? 友香里も白石やったらええて言うてくれてんねんけど……』

 そう、話を切り出した謙也。
 謙也が俺に連絡寄越してきた理由が、ここでようやく分かった。

『俺……去年まで研修中でめっちゃ忙しいて、白石とせっかく再会出来たのに、ロクに喋られへんかったから……その、色々喋りたいねん。……アカンかな?』

 確かにそうや。
 友香里から聞いた話やけど、俺の両親に挨拶しに来たあの日も、無理矢理時間作って謙也は来てくれたらしい。研修医いうんは俺らが思とる以上に忙しいらしく、謙也に会えんくて寂しいて、友香里のヤツが会う度に愚痴を零しとった。
 結婚式やって、一年後になったんは謙也が忙しかったからや。まぁ……純粋に研修期間がとれて、時間にゆとりが出来てからやないと無理やって話もあったんやけどな。
 せやな。
 よう考えてみたら最初に再会した時も、友香里を挟んでの会話やったから、二人でゆっくりでなんか話されへんかった。
 結婚式ん時も一言二言交わしただけやし。
 俺も、

「んー……ええよ」

 謙也と喋ってみたい。
 積もる話もあるし、謙也とゆっくり喋ってみたいてどっかで思とった。

『ホンマか!?』

 嬉しそうな謙也の声。
 そないに喜ぶことかと、俺はつい笑てしもた。

「うん。俺も謙也とゆっくり喋ってみたいし。全然ええよ」
『おう! いっぱい喋ろや白石! いやぁ……めっちゃ楽しみやわ俺!』
「そないに喜ぶことか」

 とか言いつつ、俺も嬉しいんやろな。
 さっきから頬が緩みっぱなしや。謙也も、俺と同じ状況やないやろか。

「じゃあ俺、まだ仕事中やし、また詳しいことはメール……やなくて、8時以降やったらだいたい空いとるから、電話で連絡してくれてもかまへんよ」

 このままいったら謙也と喋り続けてしまいそうな雰囲気やったけど、俺は今自分が置かれとる状況を思い出して、会話を切り上げることにした。

『え……マジか。忙しいのに、時間取らせてしもて……堪忍な』
「ええよええよ。謝らんといて。俺がしたくて電話したワケやし。それに今日は土曜やからそないに忙しないしな」
『白石て学校のセンセやった……あ、ええわ。おぉ、分かった。多分電話になる思うけど……詳しいことはまた連絡するわ』

 謙也はまだ喋りたかったみたいやけど、俺の状況を汲んでくれたらしく、電話を切れる流れにしてくれた。俺かてまだ喋りたいけど、そういうワケにはいかんからな……。

「連絡待ってるで。じゃあな謙也」
『またな白石。ホンマ……時間取らせてしもて堪忍やで』

 せやから謝らんでええて言うてんのに……。
 最後の最後でまた謝った謙也に、謙也らしさを感じて俺はにやけが止まらへん。

 携帯の通話を切って、俺はその顔のまんま、職員室に戻ろうと階段上がって廊下に出る。

 ――謙也に近付いたらアカンで。

 廊下を歩きながら、ふと……思い出した忍足くんの言葉。
 引っ掛かりはしたけど、言うてくれへんから意味が全然分からんで、結婚式が終わった後は気にもせんようになってた。

 俺は今、謙也に近付いとる。

 やからといって何かが起こりそうな雰囲気やないし、お互い、昔仲良かっただけに色々語りたいだけや。
 ただ、それだけのことや。
 それになんらかのデメリットがあるなんか、俺には到底思えんかった。

 職員室に戻ったら、俺があまりににやけとるもんやから、小指を立ててコレですか? と先輩教師に聞かれて、

「ちゃいますよ。昔の友人からです」

 と、俺は答えた。

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