どないしたん?て俺が聞いたら、二人とも今度は顔を見合わせて、

「いや、なんかな……」
「中学ん時を思い出して……ちょっと、きましたわ」

 ユウジと財前は、それぞれそう言うた。

 そういえば俺は、テニス部の部長やったから、他の部員達を率いていかなアカンワケで。仲裁役とか、部活中無駄話してたら注意する役とか進んでしてた。
 ――みんな、ちょっとしたところに、昔を感じて懐かしがる。
 俺とおんなじこと考えてるみたいで、なんかこう、やっぱり昔の仲間てええなって思った。

「せやな! 蔵ノ介の言う通り、今することやないな」
「まぁ……今日は大目にみますわ」

 さっきまでの険悪ムードはどこいってん――て、ツッコミたくなるぐらい二人とも笑顔で。俺はなんや嬉しなった。

「にしても中学ん時の蔵ノ介はアレやったな」

 クククと笑いを堪えたような声を漏らしながらユウジは喋る。

「部長としては最高やったけど、決め台詞に『エクスタシー』とか……っ」
「ちょ……っ!」

 一番、触れられたない俺の過去を口にした。

「あん時もなんやコイツて思たけど、今考えてみてもめっちゃ変態やんな」
「変態以外のなにモンでもありませんでした。俺、体験の時、部長の『エクスタシー』始めて聞いて、マジで入部考えましたもん」

 あぁ、ホンマさっきまで喧嘩しかけてたんはなんやってん。絶妙なコンビネーションで、二人して言いたい放題……。
 毎回……毎回や。
 毎回テニス部の仲間に会う度に、俺は自分の中学時代をネタにされる。
 しゃあないとは思ってる。
 俺自身、アレは黒歴史と断言出来るからや。
 エクスタシーて……。
 当時の俺は、『絶頂』を意味するこの英単語がめっちゃかっこええ思ってて、気分がええ時、よう使ってた。
 今考えてみたら、顔から火ぃ出る程恥ずかしい台詞やんな。
 分かっとる。
 自分でそう思てるからこそ、他人に言われんのはめっちゃ恥ずかしいて、あんま話題にしてほしない。

「二人とも。蔵リン虐めたったらかわいそうやない」
「せやけど小春〜、小春やって思てたやろ〜」
「まぁ……ちょっとだけやったら……」

 お前らかて相当酷かったやないか、このホモカップル!

「歩く猥褻物でしたよね、ホンマ」

 何言うとんねん、お前、厨二病みたいなモンやったやないか。

 そんで極めつけは、

「んん〜〜っ、エクスタシィ〜」

 ユウジが俺の真似して大爆笑が起こる。
 そんなんちゃうし!――て、言いたいけど、俺……こんなんやったよなて、似てる気するから怒られへん。

「ちょー、ホンマ堪忍してぇやっ!」

 それぐらいしか言えんくて、俺は引き攣った笑みを浮かべながら、早くこの話題が終わってくれることを祈った。
 ちゅーか、はよ終われ。
 そんな俺の願いが届いたんか、

「――おお、白石ー、ユウジー、小春ー、財ぜーん」

 健二郎と銀が来て、全員の注意がそっちに向いた。

「健二郎っ、銀っ! 久しぶりやなぁ!」

 一番の現況やったユウジの関心が思いっきり逸れてくれて、めっちゃ有り難い。

「久しぶりやなぁ、ユウジ」

 ぱちんとええ音立てて、二人はハイタッチする。そんなキャラやないのに、銀も流れでユウジとハイタッチしとった。

「皆はん、元気そうでなにより」

 銀が俺ら全員の顔を見渡して、頬を緩ませる。

「それは先輩もでしょ」

 財前の言葉に、俺ら全員せやせやと賛同した。
 やっぱり、昔の仲間の元気な姿見れるってのはえぇな。……ついでに俺への注意も逸れたしな。



 ――小石川と銀が来て、人数増えた分盛り上がって、俺らは喋った。
 最近あったこと、自分の仕事のこと、それから……中学ん時の思い出話。

 そん中で、

「そういえば、千歳と金ちゃんから手紙預かっとるで」

 今日、この場に来られへんかった千歳と金ちゃんの話題になった。

 千歳は中学卒業と同時に九州帰って、故郷の熊本で高校進学した。サボり魔で名高ったアイツが高校卒業したって聞いた時は、心底びっくりして、本人に思わず電話したぐらいや。で、そのまま大学には行かんと就職。
 今日は仕事の関係上、どうしても結婚式に間に合わんらしい。

「千歳、右目の視力、大分ようなってるらしいわ。この前会うた時、そないなこと言うてた」

 手紙を持った健二郎が、俺らにそう言うて。千歳と一番連絡取り合ってんのが健二郎で、今回の手紙も直接預かってきたようや。

 そんで、

「金ちゃん……よう頑張ってるよな」

 俺らの中で一番のテニスの出来た、金ちゃんは、今プロとして海外行っとる。

 青学のこし……やなくて、越前くんと一緒に頑張ってるみたいや。
 俺ら全員、趣味程度にはするけどテニスを辞めてしもて。だからこそ、テニスで頑張ってる金ちゃんの存在はめっちゃ嬉しい。

 健二郎が見せてくれた、金ちゃんの、謙也への手紙を目にして俺は言葉を漏らした。

 『謙也へ』って書かれた字は相変わらず汚のうて。せやけど一生懸命書かれた、元気いっぱいな金ちゃんの字やった。

 この場におらん千歳と金ちゃんの分まで、俺らはこの結婚を祝ったらなアカン。
 二人の手紙を目の当たりにして、俺らは改めてそう感じた。

 しみじみとした気分になったところで、
「――ほな、そろそろいこか」

 時間も頃合いやし、俺らは結婚式の行われる大ホールに移動を始めた。

 開始より大分前に集まってこうやって喋っとったワケやねんけど、ロビーには謙也と友香里の招待客がいつの間にかようさん集まっとって、ガヤガヤしとった。
 移動しながら知ってるヤツおらんかなと周りを見渡しとったら、見覚えのある姿に遭遇して。

「すまん、先いっといて。俺ちょっと挨拶行ってくる」

 ユウジのおおーて声がしたと同時に、俺はみんなから離れてその人物に駆け寄った。

 丸眼鏡にもっさりとした髪型……。

「忍足くんっ!」

 間違いない。
 謙也の従兄弟の、忍足侑士くんやった。

 向こうも声掛けたら俺に気づいてくれたんか、歩き出してた足止めてくれて、俺と忍足くんは向かい合う形になる。

「白石、蔵ノ介か……」
「そうそう! その白石っ。覚えてくれてたんやな」

 直接会ったんは数える程しかないのに、覚えてくれてたことに俺は素直に喜んだ。

「そりゃ、な……嫌でも思い出すわ。なんせ謙也の嫁さんの、アニキやねんからな」「せやな」

 俺かてなんも知ってる人やから声掛けたワケやない。かなり遠いけど一応親戚……になるんかな? 俺はともかく、友香里はこれから世話になるかもしれんから挨拶しとこうと思た。
 なんせ謙也がいっつも電話してるような相手やったから。

「忍足くんは、謙也が友香里と付き合っとること知っとったんか?」
「まぁ……一週間にいっぺんは電話しとるし」

 やっぱり電話は今でもしとったんか。
 流石血縁者ってとこか。連絡なかなか取れんからて止めてしもた俺とはちゃうわ。

「まさか結婚までいくとは思ってなかったけどな……」
「なんや、謙也に先越されて悔しいんか? 自分らお互いんことライバル視してたもんな」
「ちゃうわ」

 俺が茶化せば、忍足くんははっきりとした口調で否定した。
 ズレた眼鏡を指でくぃっと直して、忍足くんは俺をじっと見つめる。眼鏡越しにはっきりと写るその瞳に、俺はドキリとした。

「なに? 俺の顔になんかついとる?」
「いや……謙也がここまで『白石』に執着しとるとは思わんかったわ」
「は……? どういうこと?」

 言ってる意味が分からんくて俺は聞き返したけど、忍足くんは答えてくれんかった。
 俺から視線を一端外して、忍足くんはズレた眼鏡を……て、言うよりは、気持ちを落ち着かせるみたいに、指で持ち上げた。
 そういえば昔謙也が、

『アイツ、いっつもポーカーフェイス気取っとるから何考えとるかよう分からんねん』

 とか言うてた気がする。
 もしかして、今めちゃくちゃ動揺しとんのやろか? やとしたら……なんで?

「……白石」
「えっ、なに?」

 考え事しとったから上手いこと反応出来んで、俺は少し裏返った声が出た。

「結婚……上手いこといくと思うか?」
「……は?」

 誰と誰の結婚こと言うとるんか、そんな野暮なこと、聞く必要はあらへん。
 せやけど質問の意図が分からへん。

「そんなん……上手いこといくに決まっとるやろ? そりゃ何年先どないなってるか分からんけど、二人はお互い好き合って結婚するんやから……」
「……そうなって欲しいわな」

 さっきの質問もそうやったけど、忍足くんの口ぶりはまるで、二人の結婚は上手くいかんと言っているよいな、そんな気がしてしゃあなかった。

「ちょっ、忍足くんやめてぇや。今日する話とちゃうやろ。不謹慎やで」
「謙也は……彼女と、結婚するべきやなかった」

 流石の俺も、妹の友香里のこと言われたら、黙っとくワケにはいかん。

「……そりゃどういうことや? 友香里が謙也の相手として、相応しないて言いたいんか?」

 自分の失言に気付いたらしい忍足くんは、弾かれたように俺の顔を見た。




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