「――白石先輩!」

 結婚式の日。
 黒いスーツに身を包んで、式場に行ってみれば、ロビーんところで呼び止められて。おんのはメールが来たから知っとったけど、懐かしい声に自然と頬が緩む。
 受付で招待状見して、ご祝儀渡して名前書いたら、三年ぶりぐらいに会う後輩の元に俺は駆け寄った。

「久しぶりやなぁ、財前」

 懐かしい姿に今度は自然と笑みが零れる。
 定期的にメールでやりとりはしてたけど、懐かしい後輩の姿に俺は感嘆の言葉が漏れるばかりやった。

「お久しぶりです。いやぁ、まさか謙也さんの結婚式で、会えるとか思てもみませんでした」
「俺かてそうやわ。まさか自分の妹と謙也の結婚式で再会やなんて。ちゅーか自分……全然変わってへんな」

 最後に見た財前の姿とそんなに変わっとらんくて、俺はなんか嬉しかった。中学ん時につけてた五つのピアスも、形さえ違えどその耳の様子は変わらへん。
 確かこの前会うたんは、財前の成人祝いにユウジのヤツが元・四天宝寺テニス部で飲みに行こて誘た時やったやろか。ほとんどのヤツが参加してかなり盛り上がった。

「三年やそっとじゃ変わりませんよ。白石先輩こそ相変わらずのイケメンでビビりますわ。正直アンタみたいなんが教師やったら、女子生徒なんかは授業に集中出来んのとちゃいますか?」
「はは……みんなええ子やねんけどなぁ……」

 ホンマのことだけにはっきり言い返されへん。
 俺の仕事っちゅーんが、私立高校の専門は科学の理科教師やった。親と同じ薬剤師って道も考えたけど、俺は学校が好きで、その現場で働けたらなて思て、教師の道を選んだ。
 せやけど就任した学校が、女子生徒いわくそれまでシケメンの集まりやったらしく、自分で言うのもアレやけど俺みたいなイケメンは珍しいねんて。それでやたらと女子生徒に絡まれる。
 女の子は嫌いやないけど、無駄に絡まれるとこう……疲れるんやなぁ。
 みんな、ホンマにええ子らやねんけど。

「先生いうんはオサムちゃんみたいな中途半端なオッサンがちょうどええんですわ。白石先輩みたいなイケメンはホストになって稼いだ方が効率ええ思うけど」
「おいおい」

 相変わらずの毒舌やなぁって思たら怒る気なんかさらさら起きひん。まぁ冗談やって分かっとるから、怒る気なんか元々ないんやけど。

 そんな感じで、財前とお互いの近況を話し合っとったら、

「おーい、蔵ノ介〜、光〜」

 続々と、元・四天宝寺テニス部、レギュラー陣が集まり出した。

 やってきたんはユウジと小春。
 ユウジとはつい一ヶ月前に会うたばっかやけど、小春の方は久しぶりやった。

「うぉぉ、光ー、相変わらず頭ツンツンやなぁ」
「ユウジ先輩やめて下さいっ!」

 来るや否や、ユウジは財前の頭を触ろうとして、それを必死に財前は対抗する。
 財前には申し訳ないけど中学時代を思い出させるこの光景はめっちゃ微笑ましい。
「蔵リン、久しぶり」

 とりあえずそんな二人はほっとくことにして、俺は小春と話し出した。

「久しぶりやなぁ〜、小春」

 小春は眼鏡の奥でニコリと微笑む。

「ホント久しぶり。この前会ったんは……」
「確かユウジの誕生日ん時やで。忙しい言うてんのに、強引に飲みに駆り出された」
「あ、そうそう。そうだったわね。まさか次の再会が謙也くんの結婚式やなんて、思てもみなかったわ」

 みんな、普通そう思うわな……。
 25を間近に控えたええ年やし、俺の場合やと高校時代の友人が学生結婚したりして、『結婚』は身近なモンになっとるけど、中学時代の友人いうんはなんか特別なモンを感じる。それは違和感やったり、俺らそないな歳になったんかっていう実感やったり。
 まぁ俺からしてみれば、自分の妹の結婚の方が衝撃やねんけどな。

「しかもその相手が蔵リンの妹やなんて。人生、ホント何が起こるか分からないわねぇ」
「ホンマそれやで」

 はははと俺が笑えば、小春もつられたように笑みを漏らす。

「よう考えてみたら俺、謙也のアニキになってまうんやな」
「そういえば! 蔵リンの方が誕生日早いからそうなってまうわね。どう? 謙也くんみたいな弟がいきなり出来てしもた感想は?」

 自分から振った話題やけど、小春の質問に俺はちょっとだけ困った。

「んー……せやなぁ……。正直よう分からんわ。謙也とは全然連絡取り合ってなかったし……。再会してからも色々バタバタして、落ち着いて話せてないしなぁ…。まぁ、中学ん時があるし、友香里の選んだ相手やからええヤツやってのは分かるけどな」

 これが正直なところやった。
 謙也とは色々積もる話もあるしゆっくり話したいんやけど、やっぱり医者やからか忙しいみたいで、そないな時間は未だ訪れへん。

「あー……そやねぇ。謙也くん、高校に入ってから急に連絡取れんようになったもんねぇ」

 小春の言う通り、謙也は高校入学と同時に連絡があんま取れんようになった。謙也の入学した学校が、一年の時から予備校行ってへんと授業についていけへんと、噂の進学校やったから納得できるけど、それにしても送ったメールと電話のほとんどが音信不通やった。
 そんな調子やから段々謙也とは疎遠になってしもて……今に至る。中学ん時は一番仲良くて、親友と呼べるような間柄やったけど、時が経てばこんなもんや。
 そう思たらちょっと悲しい。

「せやから結婚式の招待状が送られてきた時は、もうビックリしたわ。ユウくんはともかく、アタシまで呼んでもらえるなんか思ってもみいひんかったから」

 俺らの中で、謙也と今に至るまで連絡を取り合ってたんはユウジだけやった。本人が言うてた話やけど、かなりしつこくしたら謙也はちゃんと返事してくれるらしい。そんで一方的にユウジが謙也にメール送ったりして、例えば財前の成人祝いや、自分の誕生日祝え企画なんかも誘たみたいやけど全部断られたて言うてた。付き合い悪いて、ブーブー俺に文句言うてたんは、いつのことやろか……。
 ユウジはなんやかんやで謙也の家押しかけたりして何度か会うたらしいけど、ユウジと俺を除いた、今日結婚式に呼ばれた元・テニス部レギュラー陣は数年ぶりに謙也に再会することになる。
 同窓会にも来おへんかったしな……。
 小春が不思議に思うんは当然やろう。
 せやけどそれにはちゃんと理由がある。

「そう思うて普通。なんや、片っ端から昔の知り合いに招待状送ってたみたいやし。二人で決めて、少しでも多くの人に祝ってほしいねんて」

 二人で話し合うて決めたらしいけど、二人の結婚式は神さんの前で愛を誓う神前結婚やなくて、最近流行りらしい人前結婚。式と披露宴が合体したみたいな形で、多くの人間を証人に愛を誓い合う。
 そんな理由があって、友香里がいろいろ飛び回ってたのは記憶に新しい。

「ええわ……そういうの。せやったら目一杯お祝しなくちゃダメね」

 小春の言葉に俺は頷く。

「――さっすが俺の小春っ! ええこと言うな!」

 そこでようやく、財前とじゃれあうのに飽きたらしいユウジが会話に入ってきた。
 ユウジは小春の肩を抱こうとしたみたいやけど、冷たくかわされてしもて、小春〜て嘆いとる。
 相変わらずやなぁて、俺は笑みが零れた。

「それやのに謙也のヤツ。前祝いしたるわ〜て、飲みに誘たったのに、断りよってからに……っ。俺の、そんで愛しい小春のっ、気持ちをなんやと思ってんねん!」

 フンッと鼻を鳴らして腕を組み、『小春』の部分を特に強調してユウジがそう口にすれば、

「……しゃあないでしょ、それは。謙也さんはユウジ先輩と違て、忙しいんですよ。なんせ医者やねんから。暇人のユウジ先輩とは違うんです」

 財前のうんざりしたような声がして。
 せっかくセットした頭をユウジによって崩され、乱れた髪を弄りながら、財前は誰が聞いても分かる嫌味を吐いた。
 小春があらあらと、二人の顔を交互に見る。

「光くーん、それはなんや? 俺が暇人やとでも言いたいんかー?」
「そう聞こえたんやったらそうとちゃいますか?」

 バチバチと二人の間に火花が散った。
 昔を思い出せて懐かしいけど、めでたい席ですることやない。

「はーい、そこまで。結婚式っちゅーめでたい席ですることやないやろ?」

 俺が間に入ってそう促したら、二人は互いの視線を合わせてプッて吹き出した。

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