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 友香里が大学を卒業して、就職先の企業に勤めて出して早一年。この生活に落ち着いてきた頃、結婚を考えとる人がおるって言い出した。
 当然おとんとおかんはびっくりして、大学生になってから一人暮らしを始めた俺んとこにも電話してきて。友香里もそんな歳になったんかと感心しつつ、相手がどんな男なんか気になった俺は、その相手が挨拶に来るらしい日にわざわざ実家に戻った。
 そんでリビングのソファー。友香里の隣に座って、向かいに座るおとんとおかんと楽しそうに話しとるその男に、俺は仰天する。

「けんや……?」

 そう。
 その男は……俺の中学ん時の同級生、忍足 謙也やった。
 もちろん俺とおんなじでコイツも歳とっとるワケやから、その顔は随分大人になっとって、中学ん時とちごてその髪の色も落ち着いとった。

「久しぶりやな白石」

 せやけど、柔らかく微笑む太陽みたいな笑顔は全然変わっとらんくて、中学時代を俺に思い出させた。

「クーちゃんびっくりした? うちな、謙也くんとずっと付き合っとてん」

 弾むような友香里の一言で、びっくりし過ぎて停止した俺の思考が回復する。
 つまり、これはそう。
 友香里が結婚したいっていう相手は……謙也やったんや。

「まさかなぁ、友香里の言うとった相手が謙也くんやったなんてなぁ」

 友香里は結婚したい相手のことについては一切話さんくて、実際会うてみた今日まで、名前も年齢も何の仕事しとんのかとかも全然分からんかった。
 せやからおとんは、変な頭した、ちゃらけた男やったら絶対許さんとか言うてたクセに、謙也やと分かった途端にこの調子や。

 はははと朗らかに笑う。

 中学ん時、俺と一番仲良かったワケやから、よう家にも呼んで、おとんもおかんもその存在を知っとった。
 その上謙也はこの春から大学病院で医者として勤め始めるみたいで、収入から見て、友香里の結婚相手としては文句なしやろう。
 俺やって、それは変わらへん。
 高校になってからは、進路先がバラバラで連絡を取り合うようなこともなくなったけど、コイツがええヤツやってことはよう知ってるつもりや。
 友香里、良かったなぁ……て思いながら、俺も空いてるとこに座って会話に混じって、一番気になった二人の出会いについてとか色々聞いてみた。

 友香里は心底嬉しそうに話す。
 なんでも二人の付き合いは、かれこれ五年になるそうや。結構長いな……。
 大学受験を控えた友香里が図書館で勉強しとったら、謙也がその図書館に本を返しにやってきて……そこで知り合うたらしい。
 声を掛けてきたんは謙也の方。
 俺の妹ってことで覚えとったみたいで。
 友香里の方は俺の友達にしては珍しい金髪の派手な人、ぐらいの認識しかなかったみたいやけどな。
 そんで友香里が受験を控えてると知るや否や、有り難いことに、国立大学医学部の男が(家庭教師やったら一回5000円コースやで)無料で勉強教えてくれるて言うてくれたそうや。
 友香里は当然、最初断った。
 でも謙也のヤツが、

『俺も友香里ちゃんの兄貴には、高校受験時世話なってん。せやからそのお礼……ぐらいに思てくれてええから』

 そないなこと言うて。
 友香里もそれやったら……と、承諾したらしい。
 それからや。
 二人が週にいっぺん(※一回の意)、図書館で会うようになったんは。
 始めは先生と生徒の関係みたいやったけど、だんだんそれは親密なモンになってきて……半年後ぐらいには友香里が告って(流石白石家の女。肉食系やわ)恋人と呼べる関係になったそうや。勉強嫌いの友香里の成績が急に伸びてきたんはこういう理由があってんなぁ……。あんま気に留めへんかったけど、今更ながら納得やわ。

 ちゅーか、話聞いてたらめっちゃ俺のお陰やん。
 友香里と謙也が出会えたんも。
 友香里が大学に合格出来たんも。ぶっちゃけ言うたら、希望してた最初の大学より、大分偏差値上のとこにしたもんな。

 そのこと言うたら、

「大学合格出来たんはうちの頑張りと、謙也くんが解りやすく教えてくれたお陰やもん! クーちゃんのお陰なんかやない」

 と、ハッキリそう言われてしもた。
 まぁそりゃ、そうやろな……。
 ねーて笑いながら、謙也の腕をとってベッタリとする友香里を見て、一年前、彼女と自然消滅して以来独り身の俺は、ほんのちょっと羨ましかったりして。
 同時にホンマにラブラブなんやなと微笑ましかったりして。
 結局最後は、友香里よかったなぁて思った。

 その後もなんやかんや喋って、話は最終的に大分それてしもたけど、友香里と謙也の結婚は認められたようやった。
 二十三で結婚とか早いんちゃうとか思たけど、医者っちゅー安定した職業についとる謙也にやったら、人間としてもよう出来てる謙也にやったら、おとんもおかんも渡してもえぇと思ったんやろなぁ……。
 俺かてそうやし。
 せっかくやから新しい家族水入らずで話した方がええやろ思て、俺はお先に失礼した。帰ったら早速、姉ちゃんに報告や。今か今かと待ち構えたらしい姉ちゃんは電話掛けたらすぐに出て、俺は今日のことを包み隠さず姉ちゃんに話した。

 姉ちゃんは三年前に結婚したけど、結婚相手と反りが合わず、その一年後に離婚。幸い子供は出来ひんかったから、現在は絶賛一人を満喫中で、もう結婚はええとか言うとる。

 そんな姉ちゃんやから、結婚に失敗しとるバツイチ女やから、友香里のことめっちゃ心配しとったのに、相手が謙也やて分かった途端、おとんと同じ調子や……。
 俺の友達やからって、みんな信用し過ぎやろ。まぁ、嬉しかったりするけどな。

 ――そんなこんなで。

 俺んとこに来るより先に謙也の両親とこには、もう話に行っとったみたいで。数週間後には俺の両親と謙也の両親が、感じのええ和食の店で会うて、色々喋ったりして親睦を深め合ったみたいで……。
 両家の仲は良好。
 まぁやっぱし、俺と謙也を通じておかん同士は結構仲良かったしな。ホンマに……俺のお陰やないのコレ。

 トントン拍子に話は進んで、その一年後ぐらいに、友香里と謙也は――めでたく結婚した。





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