調べました1



 白石の誕生日を三日前に控えた。
 白石と付き合い始めて早八ヶ月。去年のこの時期はまだ白石と付き合ってなかったから、部活の連中でサプライズパーティーを開いたりしたけど、今年はそうはいかん。白石の恋人として、誕生日にはなんかしたらな。白石が生まれてきて、俺と出会ってくれたことに単純に感謝しなアカンねん。

 でも……具体的に何したらえぇか分からん。
 プレゼントも何用意したらえぇか分からんし、何をしたら白石が喜んでくれるかも分からん。明確な答えがないんや。ここ数日、毎日それに頭を悩ませとるけど、いい答えは出てこおへん。

 せやから俺は、ある人物を頼ることにした。







「――あ、悪いんやけど、」

 三年である俺が、一年の教室が並ぶ棟に現れて、まだ入学して間もない新入生の子らはビビりまくりや。
 教室の扉んとこで話し掛けた女の子もかなりおどおどしてて、なんで私、最悪やみたいな顔してた。それに申し訳ないと思いつつ、俺はある人物を呼んでくれるようお願いしてみた。お願いした女の子はタタタと前の方の席に向かって、教卓のほぼ前に座るツインテールの女の子に話し掛ける。ツインテールの女の子は、俺の顔を見るや否やびっくりしたのは一瞬で、すごい怠そうな顔をした。その顔のまんまゆったりと立ち上がり、俺の方に近付いてくる。

「どないしてん、謙也くん」

 発せられた第一声がそれで、周りにおる他の子と明らかにちゃう。

 それもそうや。
 この子は白石の妹――白石 友香里ちゃんや。白石家に遊びに行く度に顔を付き合わせるモンやから、顔なじみどころか普通に会話する仲までになってた。しかも俺と白石の関係を知っとる。勘がえぇみたいで、俺と白石から流れる雰囲気で当ててしまいよった。

 まぁそのお陰でこうして呼び出したやけど。

 俺は友香里ちゃんを手招き、廊下に出てくれるよう合図を送る。友香里ちゃんは不思議そうな顔をしつつ素直に廊下に出てきてくれた。

「あんな、白石もうちょっとで誕生日やん? せやから白石が欲しがるようなモン……なんか分かる?」
「は?」

 ちょっと恥ずかしい話やから、友香里ちゃんにだけ聞こえるように、出来るだけ声を潜めて言うたら思いっきり顔を歪められた。
 聞こえへんかったんかなと思てもう一回言うたら、友香里ちゃんに聞こえとるわて怒られた。

「ちゃうて。そんなん、うちに聞くよりクーちゃんに直接聞いたらえぇやん」

 確かに。
 もっともらしい友香里ちゃんの意見に頷きかけるも、いやいやそれやったらわざわざ来たりせぇへんわと首を振る。

「いやな、せっかくの誕生日なんやから白石にサプライズを仕込みたいねん。なんかこういきなりおめでとう的な、びっくりするヤツを!」

 俺が熱心に語るも、見事な空振り三振で、友香里ちゃんはあからさまに面倒臭そうな顔をした。事実面倒臭いかもしれんけど。

「……なんでもえぇんちゃうん?」
「いやいやいやいや、そういうワケにはいかんて。なんせ、白石の誕生日なんやから!」

 段々声がデカなっとる。
 友香里ちゃんはしれーっと冷たい視線を俺に送ってきて、そのことに気付いた俺は、気を取り直す為に一度咳ばらいした。

「と、とりあえず……なんかえぇ案ない?」
「ないな」

 考える暇さえなく、友香里ちゃんは即答。俺は友香里ちゃんに期待してただけに、思わず凍りついた。
 友香里ちゃんはそんな俺を見て、はぁとため息をつく。

「あのな、クーちゃんは……謙也くんがくれるモンやったらなんでも喜ぶと思うで?」

 若干、呆れ気味に言う友香里ちゃん。
 俺はキョトンとなって、友香里ちゃんになんでて聞き返す。気付いとらんのかいと友香里ちゃんが毒づいたような気ぃしたけど、聞こえんフリした。

「……謙也くん、クーちゃんに消しゴムやったやろ?」
「え? まぁ……そんなこともあったような……」

 確か白石が消しゴム忘れた時(珍しいなと感じた)、俺は一個やったんや。消しゴムは好きで筆箱に最低三個は入れてるから一個消えたことでどうってことない。やるわて白石に渡したら、嬉しそうに笑たっけ……。やっぱ白石はかわえぇなぁ……やなくて、

「それがどないしたん?」

 肝心なんはこっちやんか、俺。

「クーちゃんな、謙也くんにもろた消しゴム使わんと大事に飾っとんねん、アホやろ?」
「……ホンマか?」

 そないな話、始めて聞いた。
 そう言われてみれば白石が俺のあげた消しゴムを使てるとこは見たことない。でもそないなことって……。嬉しさのあまり、俺は顔がニヤけんのを感じる。慌てて口元を手で覆い隠した。

「せやからなんでもえぇ思うで? 謙也くんがくれるモンやったら、クーちゃんなんでも喜ぶて」
「そ、そうかなぁ……」

 友香里ちゃんの言葉を疑うワケやないけど、嬉しいのをごまかす為俺はわざと惚けてみせる。

「そうやて。やから謙也くんが思うようなモンをやったらえぇねん。消しゴムは……飾るかもしれへんけど、いつも使えるモンとかどう?」
「いつも使える……」

 友香里ちゃんに言われたことを繰り返す。かなり印象に残る言葉やった。

「そ。とにかくなんでもえぇから、使えるモンをクーちゃんにやったらえぇねん」

 そこまで口にしたら友香里ちゃんはこの話は終わりと言わんばかりに手をポンと叩いて、

「ほな、これで。まぁ頑張ってや。応援しとるから」

 そんな言葉で締めくくって、教室に戻ろうとした。

「ちょ、ちょお待ってや!」

 友香里ちゃんの背中をぼんやりと見てた俺やけど、肝心なことを聞き忘れてたことに気付いてその腕を掴む。

「…何なん?」

 不機嫌マックスやないかい。

 せやけど俺は怯むことなく、友香里ちゃんにこう聞いた。

「ちなみに参考まででえぇんやけど、例えば……何がえぇと思う?」

 肝心なことを聞き忘れとる。
 具体的なプレゼント名を教えてもらいたいが為に、俺はわざわざ来たんや。
 曖昧な言葉に納得させられてどないすんねん。また悩むことになるぞ俺!

 友香里ちゃんは、果してそれがどういう意味なんかは分からへんけど、はぁとため息を吐いた後、

「……へ?」

 俺の肩を掴んで体を引き寄せ、耳元で、ひっそりと教えてくれた。

「――を、あげたらえぇんちゃう?」

 乱暴な手つきで俺から手を離し、ニコリと微笑む友香里ちゃん。

「そういうことやから」

 じゃ、と友香里ちゃんは爽やかに笑って、教室ん中入ってった。

「……マジかい」

 一人廊下に残された俺は、友香里ちゃんの言うたことを頭の中で反芻し、赤面する。
 そんなんプレゼントしたら、白石になんて思われへんやろか……。いや、思われる。確実になんか思われる。

 でもその単語を聞いた瞬間、俺にはそれしかないと思えた。






 そうして迎えた4月14日。
 日付が変わると同時に、白石に誕生日おめでとうメールを送って。そしたらすぐに白石からありがとうて返事がきて、ちょっとだけメールのやり取りをした後、俺はすぐに寝た。

 鞄の中にプレゼントが入ってんのをしっかり確かめてから。

 学校に行ったら行ったで、誰が流したんかは分からんけど、白石はクラスメートから次々におめでとうの言葉を浴びてた。
 女子の数人は、明らかに手作りと分かるお菓子を白石に渡してた。頬を赤らめてたことから下心があんのは間違いないやろう。前までやったら、嫉妬の炎に気が狂いそうになったけど、今はもう慣れたっちゅーか……白石は俺のモンやからっていう余裕が出来たんかな。なんとも思わへん。

 放課後、部活に出たらここでも白石は祝われてた。流石、我等がテニス部の部長ってトコやろか。一年生はつられてって感じやったけど、学年問わずおめでとうの言葉が飛び交う。
 去年同様、いつも頑張ってくれてる白石に、ささやかなプレゼントを渡して(もちろん割り勘やけど)、部室終わりに小春が持ってきた、お菓子として売られとるチョコのプチケーキをみんなで一つずつ食べた。

 部活メンバーとは部室で分かれて、俺は白石と一緒に帰り道を歩く。ていうても駅までやけどな。

 二人きりになった時点ですぐにでもプレゼントを渡したらよかったのに、白石が乗って帰る駅に着くまで、俺は全く切り出されへんかった。言い訳するなら、渡すタイミングが分からんかったんや。
 ギリギリまで引き延ばしてようやく、

「白石……コレ……」

 俺はプレゼントを渡すに至った。
 店員さんに恥ずかしい思いをしながらラッピングしてもらった代物や。
 それをおずおずと白石に差し出すと、

「え……ありがとうっ」

 綺麗にラッピングされたプレゼントを見て、幸せそうに笑った。

「うん……」

 プレゼントを受け取り、隅々まで眺める白石。手でプレゼントを軽く揉み、中の感触を確かめとる。
 そんな白石に俺が複雑な気持ちを抱いたんは言うまでもあらへん。

「俺な、謙也からはなんも貰われへんかもとか思てた」
「そ、そんなワケないやん……ちゃんと用意しとったわ」
「ふーん……それは嬉しいなぁ……」

 感嘆の声を漏らす白石。

 白石の様子と会話を流れ的にここで開けていいとか聞かれそうや。
 それは嫌や。断固拒否する。
 なんでか言うたら、プレゼントを見た白石の反応を見んのが恐い……というよりは恥ずかしいからや。見てられへん。変態やと思われる――多分。
 せやから俺は、

「あ、白石。今開けられたらその……恥ずかしいから、家帰ってから開けてもらえる……?」

 先手を打つことにした。
 白石は俺の言葉を特に疑うこともなく、うん、分かったと頷いてくれた。
 プレゼントを胸に抱え、なんなんやろうと白石は目を輝かせはしゃぐ。

「そんなえぇモンちゃうで。あんま期待せんとってな……」

 あまりに白石が嬉しそうにするもんやから、ホンマにアレでよかったんやろかと思い始めた。白石ぐらいになると気に入るかと思てコレにしたんや。
 でもやっぱり……ていう気持ちもあって、自然と視線を落とす形になる。足の先が見えた。
 そしたら白石はクスッと笑って、

「アホやなぁ。俺は謙也のくれるモンやったらなんでも嬉しいで? なんや全部、フィルターかかって見えてしまうんやわぁ」「……さ、さよか」

 俺が安心出来る、嬉しい言葉をあっさりくれた。
 どうやら、友香里ちゃんの言うた通りみたいやな。素っ気ない言葉で返してみたけど、内心嬉しいてしゃあなかった。

「じゃ、じゃあ白石、気ぃ付けてな」

 プレゼントも渡したし、もう帰ってもえぇやろう。

「おぉ。謙也、プレゼントありがとう」

 俺は適当に話を切って、白石と分かれた。白石にバイバイと手を振り、俺も帰路につく。

 一人になったら不思議と白石がプレゼントを開けるトコを想像してもて、顔から火ぃ出る程恥ずかしい。
 なるべくそのことを考えんようにしなから、俺は家路についた。









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