10
「そんで一個気づいてなぁ。あの女と結婚したら、俺は白石の義弟になれるんやてことに。白石の『家族』になれるんやてことに、気づいてしもてん。そうなったらより白石に近づける。大好きな白石に近づける。これ程嬉しいことはあらへんかったわ」
謙也が心底おかしそうに話すのを、俺はどこか他人事のように聞いてた。
――信じたない、数々の言葉。
俺も……姉ちゃんも、父さんも、母さんも、謙也のこと信用して、友香里を嫁に渡した。謙也がええヤツやて知ってたから、なにより友香里が謙也のことを好きで信頼しとったから、友香里を嫁に出したんや。
それやのに……
それやのに……
なんやねんコレは……っ。
俺なんかと会う為だけに謙也は……友香里を利用した言うんか?
「……ふざけんな」
ギリッと音が鳴るぐらい歯を強く噛み締め、俺は低い声を出した。
「謙也っ! お前ふざけんなやっ! 友香里は……友香里はお前のことがホンマに好きで、せやからお前と結婚したのに、それやのに……それやのにお前はぁっ!」
今、俺の目の前にいるこの男を、殴ってやりたい。
ガチャガチャと手錠が激しくなるだけで、俺の拳は謙也に届かない。それならば謙也の顔面を蹴ってやろうと脚を動かしたけど、謙也の力が思たよりも強うてそれも叶わへん。
やり場のない怒りは全部表情に出てくる。
怒りに顔を歪めた俺とは対照的に、謙也は嬉しそうに笑ってて。どこまでもその表情を崩さない謙也に、俺は余計腹が立った。
友香里のことは本当に利用していただけやと、口だけやなくて顔までが言うとる。
「要するに……俺はそんぐらい、白石を愛してるってことやねん」
「……っ!」
うっとりしたようにそう言うた謙也に、俺は寒気すら感じた。
俺はこないにも怒っとんのに、なんでコイツは……。
ホンマに……ホンマに俺のことが?
認めたない数々の言葉。
謙也の言動一つ一つがそれを真実にしていく。
「白石に近づいたら近づいたで、俺はもう……我慢出来んようになった。白石が好き。ホンマに好き。愛してる。でもどんだけ願っても、白石の代わりになる人間なんかおらへん。白石の妹すら、そうやなかった。せやったらもう、『本物』の白石を手に入れるしかないやんか……」
仕方ないんやと言わんばかりに眉を寄せて、謙也はそう言うて。
「好きやで白石……ホンマに好き」
「ちょ……っ!」
俺のワイシャツに謙也が手をかけたその瞬間、嫌な予感がした俺の考えは見事的中で、鮮やかにボタンが弾け飛んだ。
カツンと澄んだ音を立て、ボタンが床に転がり落ちる。
「謙也っ、お前っ!」
「……友香里のことなんか忘れてまうぐらい、ヨガらせたるわ」
ニタァと謙也は嫌らしく笑って、俺のシャツをたくし上げ、
「……っ!」
乳首に、俺の……乳首に舌を這わしよった。
「やめろやっ! この変態っ!」
唾が飛ぶぐらいの激しさで、俺は拒絶の言葉を叫んだ。
男の俺がヤられる。
あんま考えたないことやけど、この状況に置かれて、謙也に好きやと何回も言われて、『強姦』の一文字が浮かんだんは言うまでもなかった。
それを忘れられてたんは、友香里のことで頭に血が昇ってたからや。
「や、めろやっ! 謙也ぁっ!」
自分がどうなってしまうのか。
それを考えると恐ろしくて堪らなんかった。
さっきまで友香里のことで腹を立てとった言うのに、いざ自分に危険が及んだらこの通りや。
情けない。
けど、どうしようもあらへん。
本能が……嫌やと叫んでた。
「あぁ……夢にまで見た白石の乳首。めっちゃうまい……」
ベロペロと、まるで飴でも舐めるかのように謙也は舌を動かす。時折赤ん坊のように吸い付き、その光景が異様でしゃあない。
謙也の舌でベトベトになる俺の乳首。
気持ち悪い……。
嫌悪感をはっきり顔に出して、その舌から逃れとうて俺は身体をよじるけど、謙也の舌は俺の乳首から離れへん。
ようやく謙也の顔が離れた思たら、今度は、
「ちょ、謙也っ! ホンマにやめろや!」
ベルトを引き抜き、ファスナーを下ろして前を開いて。
「白石、暴れんといてや。今からええことしたるから……」
謙也に、やんわりとモノに触れられ、俺の顔は引き攣った。
「やめ……っ!」
俺の制止の言葉虚しく、謙也は無情にも下着ごとズボンを下ろした。
萎えた俺自身が、外気に晒される。
謙也は食い入るように俺自身を見とって、屈辱的な仕打ちに気を失いそうになった。
「白石のチンコ、めっちゃキレイ……」
「やめろや……ホンマにやめてぇや……」
最初の威勢はどこいってんって感じやけど、この先を考えたら、自分でもびっくりするぐらい情けない声しか出ぇへん。
涙目になりながら、俺は必死に訴えた。
でも……
「い、や……」
俺の願いは謙也には届かんかった。
謙也は俺のモノに軽くキスをした後、口の中に……それを含んだ。
「い、やぁ……いやや……っ」
謙也の頭が上下に揺れ動き、俺のモノを扱く。感じたらアカンのに、謙也の口に俺のモノは感じとった。
「嫌や嫌や言いもって、白石のココ……やらしい汁出しとんで?」
身体的にも、精神的にも、謙也は俺をいたぶっていく。