マンネリズム



 マンネリ。正式名称マンネリズム。

 それは『一定の技法や形式を反復慣用し、固定した型にはまって独創性と新鮮さを失うようになる傾向』……とのこと。
 ものごと全てに当てはまりそうなこの現象は、もちろん『セックス』にも起こり得る。
 自分で言うのもなんやけど、俺は白石一筋でAVの女の子には全く興味あらへん。せやから、別にエロい画像を見たかったとか、動画を見たかったとかそんなんやない。
 ただ……体位とか、どうしたらもっと感じてくれるんかとか、そういうことに少し興味湧いて、ネット検索をかけてみただけや。
 そしたら性行為とは何かを語るサイト見つけて、好奇心から……本当に些細な好奇心から、そのページを読み始めたんが全てのきっかけやった。

『お互いがお互いを想っていても、セックスがマンネリ化し過ぎると、セックスレスになる恐れがあります』

 ……なんてことが、『セックスレス』の項目に書いてあって。まぁ結婚して子供のできた夫婦に多いらしいけど、完璧に当て嵌まらへんことはない。

 俺が、白石に飽きることなんてないからこれが起こらへんことは自信もって言える。

 せやけど……白石は?
 白石が俺に飽きてたらどないする?

 そんな不安に駆られながらスクロールしていったら、『セックスレスの防ぎ方』みたいな項目があって、思わず押してもた。

 飛んだページは、所謂アダルトグッズと呼ばれるシロモンの紹介やった。

『これらの商品を駆使して、快適なセックスライフを送ってみましょう!』

 アホなキャッチフレーズに引かれて、俺は効能や使い方にていて真剣に読んどった。

 そんでその文章に大分躍らされ、結果……

「どうしよかな……コレ」

 俺は注文してしもた。
 言うても、通販なんかしたことないから、『俺、ネットめっちゃ出来ますから』オーラを常日頃から出しとるテニス部の後輩――財前に不服やけど頼んだ。せやけど生意気を売りにしとるこの後輩は、俺にあらいざらいの事情を話させたのにも関わらず面倒臭いとぶつぶつ言って、なんやかんやでコイツしか頼める奴がいないから、善哉一週間おごるからということで話をうった。……ホンマ生意気やでコイツ。

 その話をしたんが一週間前の話で、昨日届いたらしく、財前は今日それを持ってきてくれた。

『例のヤツ、持ってきたんスけど……』

 そう言うて話を切り出した財前に、そんなモン学校に持ってくんなや! とせっかく持ってきてくれたコイツにめっちゃ失礼なこと思てしもたけど、箱に入ったまんまで、しかも商品名が化粧品かなんかの名前になっとってその考えは一気に吹き飛んだ。
 財前いわく、こういう商品はご家族の目とか気にする人の為に、商品名を偽って送ってくれるらしい。せやないとやりませんよ、と財前はぼやいていた。

 そんで今、部活やって白石と何食わぬ顔して一緒に帰って、自分の部屋でその箱を開けて中身を確認した訳なんやけど……実物を目の当たりにして、なんでこんなモン買ってしもたんやろと思った。

 俺が買(こ)うたんはアナル用のバイブ。値段的に手頃やったんと、ハードなプレイが楽しめるとかなんとか書いてたから……これにした。
 クリア、パープル、ブルーと三色あって、なんか色的に綺麗やったからパープルにしたんやけど、実物見てみると、形状だけでもエロいのになんかエロさ増しとる気がして、普通にクリアの方がよかったなと今更ながら思った。

 箱から取り出したバイブを机の上置いて、それを眺めながら俺はため息を吐く。今冷静になって考えてみたら、俺が読んだあのサイトは、リンク貼ってたことから考えて、不安にさせて通販させるんが目的やったんやなと思わずにはいられへんかった。

 せやけど不安なって、買うてしもたんは間違いなく俺や。それに白石のエロい姿想像して、ええかもと思てしもたんも事実なんや。
 なんやかんや思てても、やっぱり俺はコイツを使いたいらしい。

 問題なんはどうやってコイツを使うかや。白石に了承取ろう思て、事情を説明しようにも事情が事情なだけに恥ずかしゅうて言いづらいし……。
 ヤってる最中に黙って使うんもアリやけど、白石の機嫌損なうかもしれへんし……。

 どないしたもんやろか……。

 考えとる内に眠なってきた俺は、風呂入った後すぐ寝てしもた。






 翌日。電話の着信知らせるメロディがけたたましく鳴って、俺の目は覚めた。
 部活も引退して朝もはよ起きんでええから、休みの日は昼近くまで寝んのが定番になっとった。

 ……人が気持ちよぉ寝てたゆうのになんやねん。

 睡眠妨害されて不機嫌にならん人間がこの世におるやろか。

 布団に入ったまんま俺はベットサイドに置いとる携帯に手を伸ばし、サブディスプレイに写し出されとる名前見て、目が覚める思いやった。

 ――白石。
 そこに写し出されとんのは紛れも無い、白石の名前やった。

 これで他のヤツやったら愛想のない返事したかもしれへんけど、白石相手やったら話は別や。
 俺はベットから起き上がり、慌てて電話に出た。

「ど、どないしたん白――」
『どないしたんやあらへんわボケっ!』

 声の感じから白石が怒っとるんが嫌でも分かる。

『お前が昨日、新しいゲーム買うたから遊ぼて誘た癖になんでピンポン鳴らしても出えへんねん! ありえへんやろっ!』
 ベットから下りて、慌てて部屋の窓開けてみたら、家の玄関とこに携帯持った白石がおった。
 ――そういうたら昨日、家族が朝から出掛けておらんから、白石を……家に誘た。
 もうそんな時間なんっ! て、時計見てみたら11時過ぎとって、確か白石誘たんが11時やった筈やから……結構待たせとることになる。アラーム、セットした筈やのに、それにも気付かんぐらい爆睡しとったらしい。

「すまん白石っ! めっちゃ寝てしもてたっ!」

 白石の姿見たら直接言わなあかん思て、携帯あんのに俺は窓から叫んどった。
 俺に気付いた白石が上向いて俺んこと見て、

「そない思うんやったらはよ下りて来いっ!」

 近所迷惑やなって思うぐらいの声で怒鳴った。
 寝間着やとか髪がボサボサやとかいつもは気にすんのに、そんなんも気にしてられんで、俺は部屋から飛び出すとダッシュで玄関の鍵を開けに行った。

 扉の外におる白石は不機嫌そのもんで、めっちゃ怒ってます的なオーラを周囲に滲ませとった。

「えー……し、白石……ホンマごめんな……」

 どないやって白石の機嫌直そて考えたけど、俺が悪いんやから結局謝ることしか出来んで。申し訳なさから、自然と頭が下がってくる。
 帰るとか言うやろか……そんなこと思いながら白石の返答待ってたら、プッて吹き出す声が聞こえて。

「自分……どんだけ急いでてん。髪、ボサボサやで」

 顔を上げてみたら、笑顔の白石と目が合った。さっき窓から見えた顔とは全然ちゃう顔しとる。

「え? ……あぁ、せやな。……めっちゃ急いでたから……」

 予想外過ぎる白石の対応に、俺はついていけんでちょっと戸惑った。自分の髪に手持ってって、脱色で傷んだ髪を意味なく弄る。そしたら今度、白石は吹き出しただけやなくてクスクスと笑い声立てた。

「――自分、俺に帰られるとか思てビビってたんか?」

 それがおさまった思たら、そんなこと言われて。
 めっちゃ図星やった。

「そりゃ腹立つけど怒っててもしゃあないし。せっかく来たんやから、楽しいしたいやん。――それに……こんなダサいカッコの謙也、滅多に見れるモンやないしな」

 こないに笑われるんやったら、時間がないにしても着替えたり髪ぐらいセットしとけばよかったて思た。せやけどそんなことしてたら、『髪直してる暇あったらさっさと開けに来いやっ!』と逆に怒られそうである。今でも不機嫌やった可能性がこっちの方が高い。

「と、とりあえず入りやっ! 寒いやろっ!」

 恥ずかしいんをごまかすみたいに、俺はドアを全開にして、白石に入るよう促した。

「言われんでも入るて。その為に来たんやからな」

 言いながら白石は俺ん家に入って、俺しかおらんのに律儀にお邪魔しますて言うてた。
 白石と一緒に自分の部屋戻ろう思たけど、起きたばっかやし顔洗いたいな思て、

「白石、悪いけど俺の部屋先行って待っといて。顔洗(あろ)たら、すぐ行くから」
「お、分かった」

 白石と分かれて俺は洗面所に行った。

 冬に水っちゅーのはキツすぎるから、お湯にしてから顔を洗う。棚からタオル取って、顔を拭きながら部屋に行った。

「白石ー、お待た……」

 部屋に入った瞬間、目に飛び込んできたんは白石やけど、その白石が手にしてるモン見て俺は血の気が引くんを感じた。直ぐさま白石からそれを取り上げようとしたけど、簡単に返してくれる訳がなく。

「ふーん……謙也、こんなんに興味あったんや……」

 白石は手にしてるモン――俺が買うたバイブを隅から隅までバッチリ見とった。
 机の上に出しっぱなしやったんを、うっかり忘れて白石をあげてもた。昨日、しもてから寝たらよかった……とか後悔しても遅い。完全に俺の失態や。

「し、白石っ! ちゃうねんっ!」

 ――何が『ちゃうねん』や俺。
 思わず口走ってしもた言葉に、俺は自分でツッコミを入れた。
 興味がなかったらわざわざ買う筈ないのに、ホンマ何言っとうねん。

「せやったら……何で買うたん?」

 白石がそう聞くんは当然や。
 俺が白石の立場やったら間違いなく聞く。

「え、えーっと……そ、それはなぁ……」

 簡単に答えれるもんやったら、『ちゃう』なんか言わんとあっさり答えとる。
 ええ言い訳はないもんかと、俺は考えてみるが、白石にバイブを凝視されてる中で平常心でいられる訳がない。

 あかん、めっちゃ恥ずかしい……。

「もしかして謙也、自分でコレ……使おうとした?」
「は……?」

 ……眠気も吹っ飛ぶとはまさにこのことやろか。
 白石にバイブを指差されて言われた言葉に、俺は顔を真っ赤にして必死に否定した。

「ちゃうに決まっとるやろっ! なんで俺が使わなあかんねんっ! 訳分からんわっ!」
「ええねんで否定せんでも。慣らす為に使ったんやろ? 謙也が望むんやったら俺が突っ込んだるから」

 満面の笑みでそう言われ、俺は白石ならやりかねへんと嫌でも思てしもた。
 そんで分かった。
 白石は……俺がなんでこれを買うたんかきっと分かっとる。分かってて聞いとるんや。その証拠にめっちゃ意地の悪い顔しとる。

 これは正直に話した方が良さそうや……。まぁコイツの存在がバレた時点で、この結末は逃れられんかった気ぃするが。







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