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「し、白石っ! 大丈夫か!?」
流れに逆ろうて、謙也は人を掻き分け俺んとこにやってきてくれた。
「けん、やぁ……」
なんで謙也がここにおんのんとか、そんなんどうでもよくて。謙也が、そこにおってくれるだけで心底安心出来た。
謙也は俺の姿を見て、何されたんか察したみたいで、
「あの……後ろにおったオッサンかっ!?」
本気で怒ってた。
俺が想像してた通り、謙也は今にも殴りかかってまいそうな勢いや。想像通り、このままほっといたら殴りにいってくれるかもしれへん。
でも、えぇ。
「謙也……もうえぇよ」
俺は謙也の服の裾を引っ張って、謙也を止めた。
「でもなっ、白石っ!」
「……は、恥ずかしいから。騒ぎにしたない……っ」
謙也が俺の為に怒ってくれるだけで俺は充分やった。それに男の俺が痴漢にあったやなんて、恥ずかしいて言いたない。
唇を噛み締めて、羞恥に堪える。
謙也はそれ以上なんも言わんで、黙って俺を見た後、さりげない動作ですっかり硬くなってしまった俺のモンをパンツの中にしまい、チャックまでご丁寧に閉めてくれた。
そしたら次の瞬間、
「――すんません、降ります!」
俺の手を引いて、閉まりかけてた扉を駆け抜けた……ちゅーよりは、無理矢理出ようとして開けてもろたて感じやろか。
走った時に股が擦れて、かなりヤバい。
「け、謙也……っ」
苦しい声を俺はあげるけど、謙也は完璧無視。
人波を掻き分け、俺の手を引き、謙也は走り続ける。
そうやって辿り着いた先は――トイレ。
「えっ、ちょ……っ」
この時点で察しのついた俺は焦った声を漏らすけど、謙也はやっぱり無視で。
体の不自由な人の為に設けられた、独立した大きめの個室に入った。
「……白石、辛いやろ?」
俺を半ば強引に押し入れ、扉を閉めると同時に発せられた言葉。
辛いけど。確かに辛いけど、俺は嘘ついて首を横に振る。
やってこんなとこで……。
「そんなこと言うて……足動いとんで」
謙也に指摘されて、俺の顔は熱くなる。
「辛いんやろ? あのおっさんにヤられて」
謙也に股間を触られて、体はびくんと跳ねた。体は正直て言うところか……。
「俺が楽にしたるから……」
こんなとこでヤったら、誰かにバレるかも知れへん。密室で声が響くから、外に聞こえるかもしれへん。ホンマにこのトイレを必要としてる人の為の、妨げになるかもしれへん。
リスクはいっぱいある。
リスクは……
「謙也ぁ……」
でも俺は、甘ったるい声を出して謙也にしがみついた。
謙也に耳元で囁かれたら……もう逆らわれへん。
「ホンマ白石は淫乱やなぁ……」
俺を蔑む、謙也の言葉も気にならへん。
邪魔やから、謙也は俺の鞄と自身の鞄をトイレの床に投げるようにはなって。
俺は下着ごとズボンを膝までずらされて、蓋を閉めた便器の上に座らされた。ひんやりとした便器の感触に俺は眉をひそめたけど、体はすごく熱い。解放したくて、うずうずしとって、痛いぐらいや。
トイレの床なんか汚いのに、謙也は構わず床に膝をついて。
俺はゆっくり股を開いて、トイレなんかよりもっと汚いモン、謙也は俺のモンを口に含んだ。
「――にしても白石に痴漢するとか、ホンマ許されへんわっ!」
怒りをあらわにする謙也。
そんな謙也の言葉が嬉しいて、俺はこっそり微笑んだ。
――謙也に口でイカされた後、当然の如くせれでは済まんで、汚いトイレの床で俺らは何発かヤった。
中の空気を察してくれたんか、偶然なんか……長時間トイレの中に入っとっても、トイレのドアが叩かれることはなかった。
その後、一人でも大丈夫や言うたのに謙也は家まで送ってくれる言うて。何度か、『ええって』『やるって』のアホみたいな繰り返しをして、結局俺は謙也の言葉に甘えることにした。
電車賃余分に払うハメになんのに、アホやなぁ……とか思いつつ、俺は謙也の優しさがめちゃくちゃ嬉しい。
今はもう電車からは降りて、俺の家までの道を二人で歩いとる。俺の体に気ぃ使て、俺の分の鞄も持ってくれた。
「今度あったらぶっ飛ばしたるっ!」
拳を握りしめる謙也。
勇ましくて頼りがいはあるけど、本気でされたら困るな……。
――謙也があの電車に乗ってたんはホンマに偶然みたいや。謙也もこの線を、模試を受ける学校の為に使てたみたいで、ようさん人の入ってきたまさにあの駅で乗り換えで入ってきたらしい。
同じ車両の、おんなじ時間帯に乗ったってのが、もうホンマ偶然やんな。
謙也が乗ってくれてたお陰であの痴漢も追い出せたし、一人で処理するハメになってたかもしれんのを、セックスという形で処理してくれた。……ごっつい恥ずかしかったけど。
横に並んで、ニコニコしながら謙也の話を聞いてた俺やけど、謙也の表情が何かを考えるように、一瞬曇ったんを見逃さんかった。
「どないした?」
「ん?」
「なんか、考えてなかった?」
俺がそう聞けば、謙也はうーん……と唸り声を出して、言うか言うまいか悩んでたみたいやけど、
「あんな、」
出だしはそれで、謙也は口を開いた。
「白石……やっぱ綺麗やんかぁ」
「いきなりなんやねん」
「痴漢にあってまうぐらい綺麗、やん……」
「いや、それはあのオッサンが特殊やっただけで」
俺が否定しても、謙也はちゃうて首を振る。
「ちゃうねん。ホンマ白石は綺麗やねん。せやから俺、心配で……」
なんとなく、謙也の言いたいことが分かってきた。でも余計な茶々入れんと謙也の話を聞く。
「今日みたいなことが、また起こるような気ぃしてしゃあないわ……」
心配そうに眉を寄せる謙也。
その表情はとても俺を犯してた人間とは思えん程弱々しい。
そんな謙也の心配を取り除くように、俺は謙也の手をとって力強く握りしめて、
「そんなん、謙也が俺んこと守ってくれたらえぇ話やんか」
笑顔でそう言えば、ほんの少しの間の後謙也は顔を真っ赤にして、おぉ……と小さく頷いた。
そうしてギュッと握り返される手。
「俺が……白石を守ったる。今日は出遅れて白石に嫌な思いさせてしもたけど、今度あったら絶対……」
自分に言い聞かせるみたいに謙也はコクコク頷いた。
「何言うてんねん。今日やってちゃんと守ってくれたで? 心の中でな、謙也助けてって願ったら、ホンマに現れるんやもん。ごっつい嬉しかった……っ」
周りに誰もおらんのをえぇことに、俺は謙也に寄り掛かって、甘い声を漏らす。布越しに、謙也の体温が上昇すんのを感じた。
そんで謙也がもっとも気にしてるであろうこと。
「それに俺は謙也以外のヤツにされてもただ気持ち悪いだけやから……感じてても、それは生理的な現象であって、ホンマは嫌やから……謙也しか、俺にとってはありえへんねん……」
……図星か。
謙也の不安を取り除きとうて、俺がそう口にすれば、ビクリと跳ねるその体。
間違いなく当たりや。
しばらく普通に、何事もなく歩いてた俺らやけど、謙也が不意に足を止めたもんやから、つられて俺も足を止めたら、
「――もうアカンやろっ」
ガバッと、いきなり謙也に抱きしめられた。
「かわいすぎてアカンわ……ますます心配なってくる」
もう離さへんってぐらい力強く抱きしめられて、ちょっと苦しいけど何も言わんと俺は笑みを零した。
「安心してや……俺には謙也しか見えてへんから……」
謙也の背中に腕を回して、道のど真ん中や言うのに俺らは熱い抱擁を交わした。
その日から、謙也が俺の登下校のお供になったんはいうまでもない。
end.
エロばっかりに走るのもどうかな……と思い、あまあま展開にしてみました。
リクエストして下さった蒼陽さま、こんなんでよろしいでしょうか……? 助けるとは言い難い展開ですが、精神的に白石は助けられたという形でよろしくお願いします(゜∀゜;ノ)
そして……大変遅れてしまってすいません(>_<)
苦情でもなんでも受けますので、何かあればメールか拍手でよろしくお願いします!