俺のナイト!





 今日は俗にいう高校入試模擬テストなワケで。試験会場に選んだ私立高校で、俺はテストを受けてきた。家から結構遠い(ちゅーか市外や)この高校を会場に選んだ理由は、俺の受験候補高校やから。やっぱどうせ行くんやったら、受験校の雰囲気とか知りたいやん? ちゅーワケで試験会場をここにした。まぁそのせいで、電車賃やら時間やらで、近場を選んだ同じ中学のヤツは一人もおらんけど……しゃあないやろ。 男やけど俺の恋人である忍足 謙也は、近場選びやなかってんけど、志望校がちゃうから、本屋には一緒に申し込みに行ったけど、今回はバラバラで受けよてことになった。
 謙也は寂しいとかなんやほざいとったけど、内心俺も寂しかったんは秘密や。恥ずかしいてこんなん絶対、本人には言わんけどな。

 ――そんな状態で受けた試験は、まぁまぁの出来やった。
 こういう試験は自分の実力が分かって有り難い。四天宝寺の中ではかなり上位の成績を誇る俺やけど、府レベルになったらそれは分からへん。なんせ同じ内容の授業を受けて、その内容のテストが出るんやから、四天宝寺っちゅー学校の、ごっつい狭い範囲での順位なんや。学校のレベルがものを言うから、自分のホンマの実力なんか分からへん。
 だからこそこういう模擬テストはえぇ。 塾も行ってへん俺にとって、勉強面において唯一自分の実力を知れる場やった。

 そんで試験が終わって、俺は使いなれとる地下鉄やなくて、上を走っとる私鉄に乗っとった。学校の最寄り駅が私鉄の駅やったからなぁ。いつも地下の黒い景色しか見とらんから、こういうんはなんか新鮮や。
 でも、乗ってから三つ目の駅でかなりの人が電車に乗ってきた。かなりの線が通ってて、でっかい駅で乗り換える人が多いからしゃあないけど、気分は一気に落ち込んだ。

 人がいっぱい入ってきて、自分的におりやすい場所をキープしとった俺も、奥につめざる得ない。開いたドアとは反対のドアの方に寄った。そしたら波のように人が押し寄せてきて、いわゆる『おしくらまんじゅう』状態や。身動きがとられへん。
 ギューッて、ドアに張り付けみたいな形になる。

 知らん人と体が密着して、暑うて、色んな臭いが混じって気分悪うて、なんやもう堪えられへん。

 俺は人込みが嫌いやねん。
 しゃあからこんな状態真っ平ごめんやけど、模試やってんからしゃあない。堪えられへんけど、堪えるしかあらへんやろ。

 はよ終わってくれと願いながら、俺はその来たる時を待った。

 ――『おしくらまんじゅう』状態になってから数分後。

 俺はある違和感を感じた。

 こうやって体が密着してるから、俺の体に誰かの手が触れててもおかしないけど、明らかに……おかしい。そないなとこ、意図的に触らな無理やろ。

 誰かが……俺の尻を撫でとった。
 いやらしい手つきで何度も、何度も。

 振り返ることすら難しいから、目だけを動かして俺の背後におる人間を見た。スーツを着た、サラリーマン風の男。年は20代後半というたところか。

 コイツが……俺の尻を触っとる。

 手の位置から考えて間違いない。

 女の子のやったらまだ分かるけど、男の尻触って何が楽しいねん。
 あんまりええ気はせぇへんけど、ほっといたら飽きるやろと勝手に思て俺は無視することにした。こういうのは無視するに限る。
 触り方にはさむいぼ(鳥肌)立つけど、別にズボンの上から触られてるだけでたいした害ないし。

 あ……でも謙也は。

 謙也がもしこの場を目撃したら、このリーマン多分殴られるやろな……。一発や済まへん。三発は殴られるかな。
 惚気やないけど謙也は俺のことめちゃくちゃ愛してくれてる。そりゃもう女に勝るぐらいに。
 好きや好きやて……なんべんも言うてくれるんや。

 そんな恥ずかしいこと思いながら、俺はなるべく自分の気ぃ反らして、男が飽きてくれんのを待った。

 ――でも、

 男は飽きるどころか、その行動はエスカレートしてきた。

 尻を触るだけやった手が、前にも伸びてきて……

「……っ!」

 股間にも触れてきよった。

 え、ちょ……冗談やろっ!

 謙也以外の男に尻を触られてもただ気持ち悪いだけやけど、流石に股間は……ちょっと感じる。

 こんなん絶対嫌やっ!

 動かせるだけ体を捻ってみるけど、男の手ぇから逃れることは出来ひん。手はバランスを保つ為にドアんとこに手ぇついてるから、とてもやないけど動かされへん。

 ちょ、コイツ……っ
 どんだけ女に飢えてんねん……っ

 かろうじて動かせる目で、男を睨みつける。
 せやけどそんなんで男がやめてくれるワケのうて、男の淫行は続いた。

 やんやりと、俺のモノを揉む。

 ズボンとパンツ越しにやから、与えられる刺激は緩いモンやけど、それでも感じることは感じる。全身に電気が走ったみたいな感覚がした。
 謙也以外の男に触られて、感じるなんか恥ずかしい……。

 男の俺が、騒ぎ立てんのも恥ずかしいて出来んくて、どないしようもなくて。そのまま、乗り換えの駅に着いてくれんのを待った。

 たった今、着いた駅名を見て、俺は自分が降りる駅まで後三つやってことを知る。
 後三つ。時間にして約七分。
 後ちょっと、耐えればえぇんや。

 自分にそう言い聞かして、俺は耐えることにした。

 駅員がアナウンスで、電車が止まった駅名を知らせる。

 ――後二つ。

 一人がバランスを崩せば、その周りの人間も一つの生き物みたいに動く。ぎゅうぎゅうと周りの人間に押されながら、動く景色を見て、俺は次の駅名を目にする。

 ――後一つ。

 俺が下りる駅っちゅーんが、主要駅で。かなりの人が降りると思うから、その流れに乗ってこの空間から抜き出すのは容易やろう。
 やった。ようやく解放される。

 安心して、フッと肩の力を抜きかけたその時、電車がギーッて音立てて変なとこで止まった。

 えっ?

 駅でもなんでもないとこで急停止したんや。びっくりするんのは当然で、俺以外の多くの人も何が起こったんやとキョロキョロ辺りを見渡したり、声を上げたりしてる。事態を飲み込めずにおった。

 そんな俺らに降り注ぐ車内アナウンス。

 ――それは、俺に絶望を与えた。

 どうやら別の線で人身事故があったらしく、今んところ全線停止状態らしい。運行までしばらく時間がかかる、申し訳ないとアナウンスが響く。
 地下鉄乗っとる俺はあんまないんやけど、そういえばこの電車は人身事故が多いことでよう知られとる。

 それが今、俺の乗っとる時間帯に起こった。

 う……嘘やろっ!?

 俺は心の中でそう叫んだ。

 周りも俺と同じ気持ちみたいで、ざわつき始める。

 でも俺にとってそれは、帰りが遅くなるとか、狭い空間が辛いとかそんなんやなくて……

「……ひっ!」

 好都合、といわんばかりに男の指は今にも増して動き始めた。

 俺にとっての問題は、男の存在やった。

 グリグリと力強く揉まれて、俺は顔をしかめる。

 調子に乗った男は俺のシャツん中に手ぇ突っ込んできて、そのまま腹を撫でた。へそまわりを撫でられれば、ビクビクと体が震えんのが分かった。
 しばらくそうした後、満足したんかその手は下がってって……チャックを全開まで下ろして、今度は俺のズボン中に手ぇ突っ込んできよった。

 あ、ありえへん……っ

 男の手は器用に動き、バンツをずらして俺のモンを、

「い、いゃ……」

 直接撫でてきた。

 恐る恐る視線を落とせば、俺のモンは取り出されとって男の手に握られとる。

 こんな公共の場で、自身を曝されて俺は死ぬ程恥ずかしい。幸い、周りは自分のことで頭いっぱいで、俺の異変になんか微塵も気付いてへん。

 男をなんとかしとうて、俺は男の足と思われる黒い靴を、思いっきり踏んだった。せやけどそれが裏目に出たんか、男はその瞬間先端に爪を立ててきて、声にならん叫びが、俺の口から漏れる。

 はぁはぁと荒くなっていく俺の息。

 男は少しずつ硬度を増していく俺のモンを手に感じて、馬鹿にして、笑っとるような気ぃした。

 嫌や、嫌や嫌や嫌やっ!

 俺の意に反して、どんどん高められていく熱。先走りが、床に零れ落ちる。
 いくら生理的な現象やいうても、謙也以外の男に感じるなんか……情けなさすぎる。

 親指の腹で先端部分を弄られ、竿を他の指で握らられ、上下に扱かれる。
 周りの雑音に掻き消されとるけど、俺のモンはクチュクチュと粘着質な音を立てとることやろう。

 アカン……っ。

 顔から汗が滲み出、この快感から耐える為に作った拳は、強く、固く握られとる。
 油断したら、ホンマに出てまうっ!
 嫌や……嫌やこんなとこでっ!

 固く目をつむれば、目に溜まってたらしい涙が零れ落ちて。俺は心の中で叫んだ。
 ――嫌やっ、助けて……謙也っ!

 そん時、信じられんことが起こった。

「白石っ!」

 謙也の声が、した。

 幻聴……やろか?

 でも、

「白石っ!」

 幻聴、やなかった。




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