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「変な薬嗅がされてしもて……抵抗出来ひんくて………ヤられてしもた……」
俺の背中へ回した手に力を込め、白石は服を掴む。
「嫌やったのに……吐き気がする程、嫌やったのに……俺……俺…………」
語尾が震え、吐き出すように白石は告げる。
「感じてしもた……っ」
俺は否定する訳でもなく、ただ『うん』と頷いて白石の話を聞いた。
「気、持ちようて……訳分か、らんくて…………ホンマ俺………」
優しく、慰めるように、後頭部に回した手で、白石の頭を撫でてやる。柔らかい髪は男達の精液によって、少しべたついていた。
「最低や……っ」
白石は被害者で、全然悪くないのに。
悪いのは全部、アイツらなのに。
白石の口から吐き出される言葉は、自分を責めるものと、
「ごめんな……ごめっ、んな、けんやぁ……ごめん……っ」
俺への謝罪ばかりだった。
顔は見えないが、服の湿った感触から白石が泣いていることが分かる。
白石を泣かせてしまった……。
それはなにより俺の胸を苦しめ、あの時白石と分かれていなかったら……という考えても仕方ないことが頭を巡る。
「……白石は悪ない。何も悪ないから……っ」
辛そうに謝り続ける白石に、俺はそう言葉をかけたが、腕の中の彼は小さく首を振った。
「謙也、以外の男にぃ……感じてしもた……っ。あないなこ、とシたなかったのに……
俺は……最低や………っ」
しゃくり上げながら、白石は口にした。こんなに取り乱す白石を見るのは始めてで、彼がいかにショックだったかが伝わる。
おまけに白石は自分が襲われたことよりも、俺に申し訳ないと思っているようだ。
そんなことは気にしなくていいと、俺は言ってやりたくて、
「そないなことない。白石は―、」
「――汚い……っ」
しかし、白石が零した言葉に俺の口は止まった。
「俺は……汚、い……っ、汚い……っ」
自分のことを『汚い』としきりに呟く白石。それを耳にした途端、俺の中で何かが切れた。
口で言っても、白石は聞き入れない。
だったらもう――言葉『以外』で表すしかないと思った。
「け、けんや……っ!」
白石に『汚い』なんて言葉、口にして欲しくなかった。
俺は白石の肩を掴んで自分から引き離すと、そのまま彼を押し倒し、手首を押さえ、逃げられないようにする。
「……んぅっ」
驚きに目を剥く白石に構わず、俺は唇を重ねた。何か言おうとして、白石が口を開いた隙をついて、舌を捩込み口内を余すとこなく蹂躙する。
「んん……っ」
苦しそうに白石が声を漏らしたところで口を離し、潤んだ瞳を俺に向けてきた。口の端から垂れた、銀色の糸が俺と白石を繋ぐ。
「けん、」
「白石が汚い思うんやったら……俺が綺麗にしたる」
――ただ、それだけのことなのだ。
言うや否や、俺は白石の首筋に吸い付いた。そこにはすでに、男達によってつけられた赤い跡がある。
「んぁ……っ」
重なるよう歯を立て、その跡を消すかのように跡を付ける。鎖骨、胸、腹……付けられている全ての場所に、俺は重ねて跡を残した。
そのまま舌を滑らせ、乳首を弄る。
「……けんや、あかんっ。そこはさっき、アイツら…あぁっ!」
――アイツらの精液がかかったところだから汚い。大方白石は、そんなことを言いたかったんだろうけど、俺は構わず舌を這わせた。抵抗の色を示していた白石だが、次第に甘い声を上げ始める。
それを見計らって、俺は押さえていた手を離した。
「……ふぁっ、あっ」
甘噛みしてやったり、押し潰したりしてやると、白石のそこが固くなっていく。白石が感じている証拠だ。
一端口を離し、白石の顔を挟むように手をついて俺は白石を見下ろす。
「白石……気持ちええ?」
分かっていながら、俺は白石に聞いてみた。
白石は潤んだ瞳を俺に向け、
「ええ……気持ちええ……っ」
濡れた声を上げた。
そしてそのまま俺の背中に手を回し、白石は顔を近付け、唇を重ねてきた。俺は入り込んできた舌を丁寧に絡めとり、互いの舌を貪り合わせる。
どちらとも分からない、唾液の糸を引きながら口を離すと、白石は泣き出してしまいそうな顔で、はっきりとこう口にした。
「けん、やぁ……俺んことめちゃくちゃにして……っ」
熱が、一気に集まっていくのが分かった。
「俺んこと、けんやので綺麗にして…っ! 全部、綺麗にして……っ!」
お願い……と、白石は消え入りそうな声で続けた。
「……俺が言うたことやねんから、そんなん当たり前やろ」
――犯されたことを忘れたい。
白石はそう言っているような気がした。
最初からそのつもりだったが、白石が望むならば遠慮することはない。
俺ので目一杯汚して、今日のことを忘れるぐらいの快感を与えてやればいい。白石の体に負担をかけてしまうが、それが俺に出来る精一杯のことだと思えた。
背中に手を回して白石を持ち上げ、彼の体を起こす。目の高さが同じになったところで、軽く口付けし、
「白石、舐めて?」
視線を落として言ってみれば、白石は理解してくれたようで、俺のベルトに手をかけ外し始める。
俺は手を出さず、黙って白石がしてくれるのを待った。
ベルトを引き抜くと、スラックスのボタンを外してファスナーを下ろし、白石は下着をずらして中から俺のモノを取り出した。身を屈め、白石は手で支えて固定し俺のモノをくわえる。いつものことながら白石の口の中はすごく気持ちよくて、俺はすぐにイってしまいそうになった。
「……んぅ」
赤い舌をチラチラと覗かせて、白石は零れ出る先走りを丁寧に舐めとる。俺がどこを攻めれば感じるのか、白石はよく知っているので、裏筋を舐めたり、亀頭部分を吸い上げたりして、俺を絶頂へと誘う。
後少しでイくというところで、白石の口を引きはがし、彼の顔面に白く濁った精液をぶちまけた。びちゃりと卑猥な音と共に、白石の顔に付着する。
「白石、綺麗やで……」
色素の薄いミルクティー色の、白石の髪をかき上げながら、俺は満足気に笑った。顔を上げた白石は、口の端から垂れた精液を拭うことなく、切羽詰まったように口にする。
「けんやぁ……ナカも……今みたいに綺麗にして………けんやので、はよいっぱいにして欲しい……っ」
俺の精液で汚れた白石は最高にエロかった。先程イったばかりだというのに、自身が固くなっていくのを俺は感じた。
俺は再び白石を押し倒すと、白石は自ら大きく足を開き、挿れてと甘い声で誘う。俺は着ていた服を全て脱ぎさり、直ぐさま自身を白石の後孔に宛てがった。白石の足の付け根辺りを持ってしっかりと固定し、
「あァぁぁァーーっ!」
一気に貫いた。
白石はあられもない声を上げて、挿入の衝撃で背中をのけ反らせる。
本当は男達の精液を掻き出してから、挿れてやりたかったのだが、白石の言葉が俺の余裕を奪い去った。皮肉なことだが、男達に慣らされて白石の後孔は広がっており、俺自身をたやすく呑み込んだ。
ナカにはやはり男達の精液が残っているらしく、動く度にぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てる。
「もっとぉ……ぁっ、もっと奥、まで……挿れてぇ…はっ」
喘ぎながら、もっとと強張る白石。
そんな白石が、俺は愛しくて仕方ない。激しく腰を揺らし、白石のナカに突き立てる。
「ひやぁ……っ! あんっ! そこめっちゃぁ、ええ……っ!」
イイところに当たったらしく、白石は一際大きく喘ぎ、ナカを締め付けた。白石が気持ち良さそうに喘ぐから、俺は重点的にそこを攻める。
「はぁっ、やぁ…っ、けんやのぉっ! おっき、くてぇ…っ、熱くて…ぇっ、ごっつ気持ちええ……あぁっ!」
俺の精液なのか、よだれなのか、それを拭う余裕もないぐらい乱れ狂っている白石。
白石はいつもいやらしい言葉を吐いて俺を追い詰めていくが、今日は一段と言葉がいやらしかった。こんな可愛いことを好きな人に言われ、欲情しない人間がいるだろうか。
白石の精器は勃ち上がり、今にもイってしまいそうなぐらい張り詰めている。
かくゆう俺も限界ギリギリで、白石の締め付けに対し、自身が大きくなるのが分かった。
「けん、やぁっ…俺のっ、はぁっ、さわっ、てぇ…っ! イきた、いっ! イかっ、せてぇっ!」
このままでは可哀相だろうと思っていたから、俺は白石の足を掲げて自分の肩に乗せ、空いた手で白石のモノに触れてやった。
「ひぁんっ!」
少し触っただけたのに、ビクビクと白石のモノは反応を示す。先端部分を弄ってやると、ほとんど透明に近い液を止めなく零して、白石はヨガった。その間も腰の動きは止めない。
「あぁんっ、もぉ……もぅ出るっ! イく……っ!」
「…イってええよ」
白石のナカをえぐるように突き、先端部分を強く擦った。
「ひやぁァぁっ!!」
高い声を上げて白石はイき、薄くなった精液を自身の腹の上へ撒き散らす。
イった反動で白石は俺のモノを一際強く締めつけ、後を追うように俺は白石のナカでイった。
「ふぁ……ぁ……」
白石は熱に浮かされたような声を漏らす。
射精は中々止まらず、白石のナカで俺のモノは脈打ち続けた。ドクドクと震えながら、精液を白石のナカに注ぎ込む。
「……謙、也の……めっちゃ熱くてぇ……気持ちええ……」
白石は荒い息を吐きながら俺を煽るようなことを言い、ニコリと微笑む。つられるように俺も笑みを浮かべ、挿入したまま白石に覆いかぶさった。
「…白石のナカ、俺のでいっぱいやな……。俺ので汚れて、ナカも綺麗になったで…」
汗やら俺の精液で、グチャグチャになった白石の頬を撫でてやると、幸せそうに目を細め、
「……嬉しい、謙也」
俺の首に手を回し、顔を引き寄せ触れるだけのキスをした。
先程まで、こっちが苦しくなるぐらい悲しそうな顔をしていたのに、今では笑顔を見せている白石。
白石の笑顔は、彼が見せる表情の中で俺が一番好きなものだった。
「……ぁっ」
体制を調えようと体を動かしたら、俺のモノが白石のイイところを掠めたようで、白石は小さく声を漏らす。ナカの粘膜が絡みつき、射精して萎えていた自身がドクンと大きくなるのを感じた。
「白石…」
「えぇよ……謙也の、好きなようにして……」
白石の体を気遣うなら、ここで止めるべきなのに、俺には自分の欲を抑えることが出来なかった。
――白石をもっとめちゃくちゃにしてやりたい。
そんな感情が沸き起こり、俺は欲望のままに再び腰を動かし始めた。
「あぁっ! あぁン…っ! ひやぁ……っ!」
「しらいし……っ、白石……っ!」
白石は俺の下で可愛い声を上げ続ける。蜜のように甘い白石の声は、俺を狂わせるのに十分だった。
――白石を快感に乱れさせ、こんな風に鳴かせていいのはこの俺だけだ。普段は凛とした白石の、こんな姿を知っているのは俺だけでいい。
白石は……俺だけのものだ。
そんな独占欲が沸き起こり、やはりあの男達は殺してしまおうかと醜い嫉妬に駆られた。
「けんやぁ…っ、あァっ、好、きっ、はぁンっ! めちゃめちゃ、す…っ、きっ!」
しかし、そんなことをしたって何の解決にもならない。
喘ぎながら、必死に俺を好きだという白石。その言葉を耳にした途端、俺は目が覚めるような思いだった。
これからだ。これからが大事なんだ。
「俺も好きやで……っ、愛しとる白石……っ!」
俺がそう口にすれば、白石は快感に顔を歪めながら、幸せそうに笑って。
――この笑顔を守りたい。
俺を突き動かす感情は、ただそれだけなのだ。
その後も俺は、白石のナカで何度もイき、彼が気を失うまで行為は及んだ――。
翌日、白石を襲った先輩達がテニス部を辞めたと顧問づてに聞いた。
幽霊部員である彼らは、ほとんどいないのと同じだったから部員の反応は薄くて。辞めたと聞いてもピンのこない者が多いらしい。
けれども白石にとっては、どれほどの救いだったろう。耳にした時、白石が見せたホッとしたような仕草が目に浮かぶ。
――彼らが部活を辞めたからと言って、白石にしたことが消えたワケじゃない。
白石が受けた傷は大きく、俺は一生彼らを許さないだろう。
しかし、過ぎてしまったことを思っても仕方がない。白石が襲われたことを思い出して涙を流したら、昨日みたいに俺が笑顔にしてやればいい。
体で慰め、精一杯の愛を囁いて……俺の想いを伝えてやればいい。
眩しいぐらい綺麗なキミの笑顔。
キミの笑顔を守る為なら俺は……
なんだって出来る気がした。
end.