はぷにんぐ☆CHANGE


「ん……っ」

 朝。
 ベットの中で身じろいだら、下半身に違和感を感じて……俺は思い出した。

 ――あぁ、そや。
 昨日、白石に突っ込んだまんま寝てしもたんや……。

 大丈夫かなて思いながら腰を引こうとしたら、どんて何かにぶつかって……なんやろと後ろ向いて目ぇ開けた瞬間、俺は驚愕することになった。

「な……っ」

 そっから先は言葉にならんで、俺は目をパチクリさせる。

 やってそら、これはキツイやろ……。

 夢やと思て、目ぇ擦ったり頬を捻ったりしたけど、目の前の現実は変わらへん。

 ――俺の目の前に……『俺』がおった。

 なんなんコレ、冗談キツイわ。
 半ばパニック状態で体起こそうとしたら、下半身にやっぱり違和感があって……おんなじ『違和感』でも、いつもとちゃうことに気付いた。

 まさか……っ

 嫌な予感がして、体を引いたら自分のナカから『何か』が抜けてく感覚。布団をめくってみてみたら、『俺』のモノが……俺のナカに刺さっとった。

 腰を引いて『俺』のモノを抜き去ったら、ドロリと何か液体が出ていく感覚がした。そんなんも気にしてられんで肩肘をついて少し体を起こし、『身嗜みも必要やろ』て白石がくれた壁に掛けてある鏡を俺は慌てて見る。

 自分が見とる筈やのに、そこにおったんは白石で……。鏡の中の白石と目が合うた。

 ぺたぺたと自分の、鏡に映ってんのは白石の顔で、俺は俺やねんけど手が触れるモンは白石の顔やった。
 あ、なんやコレ。訳分からん……。

 訳分からんけど、この現状が、嫌でも俺に分からせてくれた。

 ――俺、白石になっとる……。
 そんで多分白石は……。

 唖然として、鏡に映るマヌケな顔した白石見とったら、隣におる『俺』が『う…っ』と唸って。ゆっくりと目を開き、目を擦った。

「あ……おはよう謙也……」

 寝ぼけてんのかまだ『俺』はこの現状に気付いとらん。
 ――間違いない。

「白石……大変やで」

 白石の声で俺は半笑いに気味に言うて、『俺』としっかり目を合わせた。
 その瞬間見開かれる『俺』の瞳。

「は……? ええええぇえぇぇっ!!」

 一際大きい『俺』の――白石の叫びが響いた。

 ――どうやら俺と白石は、入れ代わってしもたらしい。




はぷにんぐ☆CHANGE




「――え、いや……マジでどないする?」

 とりあえずお互い落ち着こって話になって(主に騒いでたん俺やけど)、裸なんは流石にアレやからシャツとパンツ着て、俺らは向かい合って座った。
 白石(見た目は俺)は胡座かいて座っとるけど、なんでか俺は正座で座ってて、

「足崩しぃや」

 という白石の指摘でようやく足を崩した。
 なんかな、なんか分からんねんけど、白石の体やって思たら大事にせなって思うワケやねん。だからな、なんか体が固くなるというかなんというか……。
 それやったら逆に白石の体が楽なようにしたれっちゅー話やんな。うん、ちゃんと分かっとるで。

「どないするもなにも……どないするん?」
「いや、だからそれを今、考えよーっちゅー話で……」
「そもそも原因はなんやねん。こんな体が入れ替わるなんか……普通ありえへんやろ。いや、今俺らがなってるからありえてんのやけど」

 白石のノリツッコミを聞きながら、俺は心当たりを探す……ちゅーか、そんなん思いつくの一個ぐらいしかないんやけど、これってどうなん?

「俺が……白石に突っ込んだまま寝たからなった……とか?」

 これしか心当たりないけど、あまりにアホらしい原因やから、本気やったけど冗談混じりに言うてみたら、白石(顔は俺やねんけど)の目がカッと見開かれて、

「それや!」

 俺の顔指差してそう言うてきた。
 まぁ……コレしかないよな、原因。他に、変わったことなんか一つもあらへんし。
「謙也、お前のせいやないかっ!」

 分かった途端に俺を攻めてくる白石。
 間違いないって断言出来る程の根拠なんかないのに、それぐらいしかマジで心当たりないから、もうそれが原因と決まったも同然で。
 俺は反射的にすいませんと頭を下げてた。
 いや……でも、ようよう考えてみたらそうやと決まったワケやなくて、

「いやいやいやいや、まだそうやと決まったワケちゃうやん!」

 俺はさっき謝ったことは忘れて、慌てて訂正した。
 軽いノリツッコミになっとんのは気にせんことにしよ。

「じゃあ他になんかあるん? こうなった原因」
「えーっと……」

 そない言われたら、何もないんやけど……。俺は口ごもる。

「ほらないんやろ? せやったら決まりちゃうん?」
「うぅ……っ」

 認めたないけど認めるしかなさそうやな……いやいやいやいやいやいや、でも!

 有り得へん、予期せんことが起こって、俺はどないかなってしまいそうやった。頭ん中ぐちゃぐちゃでさっきからおんなじこど考えとるし、これからどないするかとか考えたら、もう、頭ん中パニックや。

 どないしよどないしよと、わたわたしとる俺とは対照的に白石は冷静そのモンで……流石、ミスターパーフェクト。
 ――やなくて!
 あまりに冷静過ぎ……ひんか?
 白石が驚いとったんは俺(白石にとっちゃ自分自身やったんやろうけど)と目が合うた時だけで、今は冷静そのモンやった。
 それに、なんか……楽しんでるような気ぃしてきた。この事態を。白石は。楽しんでいるような。

 こないな非常事態に流石にそれはないやろーって、思い直したけど、白石のヤツ薄く笑っとって。
 間違いないやろて俺は再び思い直した。 疑ってかかってちゃうかったら俺最悪やから、念のため確かめる。

「白石、俺の間違いやったら、めっちゃごめんなんやけど」
「ん?」
「なんか……楽しんでない?」

 パチパチと、白石が瞬きすること二回。

「ドアホぉォっ! めっちゃ焦っとるっちゅーねんっ!」

 それ、俺のパクリ……。
 俺になった白石が言うてるから、ホンマまんまなんやけどな。
 突っ込む気なんかさらさらない俺はスルーしてあげて、白石の表情を窺った。

 口ではああ言うてても、なんか……楽しそうやねんな……。

「とりあえず……俺が思うに、元に戻りたかったらもっかいヤったらええ思うねん」

 白石が口にした言葉に俺は納得する。あぁ、なるほどもっかい……。

「えっ、せやったら今からやろうやっ!」

 そうや。
 戻れる保証とかそんなんは全然ないけど、可能性があるんやったら、やらんにこしたことはない。
 元に戻れるんやったら……。
 せやけど、

「……今は無理やろ」

 白石の返事はつれへんもんで。
 俺がなんでやと聞き返す前に、その答えは分かってしもた。

「――けんやー、くらのすけくーん、起きとるー?」

 階段の下から聞こえる、俺と白石を呼ぶおかんの声。

 せや。
 パニックでうっかり忘れとったけど、今日は……学校や。
 学校の……ある、普通の日。
 せやから白石に、そのまま俺ん家から学校行けるようにテニスバックやら鞄やら持ってきてもろて、そのつもりで泊まってもらったんや。

「起きとんのやったら返事してー」

 上がってこられるとマズイ思た俺は、返事しよう思たけど、よう考えたら俺白石やんか!
 白石は察してくれたみたいで、

「起きとるよー」

 声張り上げて、代わりに(なんかそれはちゃう気がするけど)言うてくれた。

「せやったらはよ下りてきてー。朝ごはん用意できとるから、食べてしまってやー」
「はーい」

 なんの違和感なく、平然と答える白石。

「白石くんの分もあるから下りてきてなー」

 一方で俺は、自分のおかんやのに今は白石やから、

「あ、ありがとうございますー」

 ぎこちない返事をかえした。






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