「まぁ、余計なお世話やけどな」

 黙っとる俺を見てか、健二郎はこの話は終わりと言わんばかりに、話を締め括った。

 そんなん、分かっとる。
 健二郎に言われんでも、全部、分かっとるんや……。






 ――チャンスなら、いくらでもあった。
 土曜も日曜も部活あって、謙也と何回も顔合わせたから、謝るチャンスならいくらでもあった。

 せやけど……俺はそれをせぇへんかった。

 いざ本人を目の前にしたら、徹底的に俺を無視する謙也に腹立ってしもて、謝ることなんか出来ひんかった。
 健二郎はそんな俺を見て、呆れたように首振ってたんも知ってる。

 つまらん意地ほど、張れば張るほど……引き返せんようになった。

 かれこれ、三日も謙也と喋ってへん。
 健二郎の言う通り、喧嘩した翌日、もっとはよに謝っとったら、こんなことにはならんかったやろう。
 日を追うごとに、謝りにくくなってきた。

 謙也は謙也で、俺が謝るまで無視する気らしい。まるで俺がおらんみたいに振る舞う。

 前はうざったいぐらい俺に構ってきたのに、それがなくなった今、スッとするどころか逆に寂しい。同時に……俺は悲しかった。

 日曜日。
 部活は昼までやったから、2時頃には家に着いた。
 部長として締まりのない練習を見せる訳にはいかんから、人目には分からん程度には頑張ったけど、それでも謙也とのことを考えると集中出来ひんかった。
 その割には精神的にはヘトヘトで、いつもの倍以上疲れた。

「ただいま……」

 それでも、

「おかえりクーちゃんっ」

 妹の友香里はそんなんお構いなしや。
 玄関のドアの音で、俺が帰ってきたことに気付いたんか、タッタッと弾んだ音を立てて廊下を走ってきよった。

「俺……疲れてんねん。後にしてや……」

 俺がこう言うたとしても、友香里は不満げに頬を膨らませるだけで。

「何言うてんねんっ! クーちゃんの為にやったってんやで!」

 俺の腕をとり、強引にリビングに連れていきよった。振りほどくことも出来たけどそれすらもめんどくさくて、玄関に鞄置いて俺は友香里に素直に従った。

「見てみて、コレ」

 ジャジャーンと効果音が着きそうな感じで見せられたそれは、ピンクのリボンでラッピングされた包みで。色違いやったりするけど、似たようなヤツが机の上に何個も並べられとる。

 プレゼントやってのは分かるけど、なんやこれ? と思て、一つ摘んで俺はそれをまじまじと見た。

「かわええやろー? クーちゃんのホワイトデーのお返し、作っといたってんで」

 よう見たら俺がもろたチョコレートの数と、おんなじ数な気がする。

 ……女の子にはめっちゃ申し訳ないけど、俺がもろたチョコレートは、毎年友香里と姉ちゃんとで山分けされとる。せやからお返しは、ご覧の通り俺が用意せんでも二人が用意してくれて、俺が選んだことはない。

「中身はなぁ……コレ、クッキー。手作りっぽい感じするし、ウサギやらクマの形しとるからかわええで」

 余ったヤツなんか、皿の上にのったクッキーを見せてきた。友香里の言う通り、色んな動物の形しとる。

「クーちゃん、また男前度が上がるなぁ」
「……そんなん上がっても困るわ」

 ホンマに困るからやめてほしい。

 俺と謙也が喧嘩した原因とも言えるイベント――ホワイトデー。
 友香里のお陰でそれを改めて実感して、俺は壁に掛けられとるカレンダーを見た。実際のホワイトデーは今日やけど、日曜で学校が休みやから、俺がそれを実感すんのは明日やろう。こんなにもようさん、お返ししなアカンし。

 しばらくカレンダーを見つめとったら……俺はあることに気付いた。

『俺とお前、一年近く誕生日ちゃうねんな』

 別に忘れてた訳やない。
 話したんが随分前やったから、記憶があやふややっただけや。

「どないしたんクーちゃん?」

 余ったクッキーをポリポリ食べながら、呑気そうに聞いてきた友香里は無視して、俺はポケットに入れてた携帯を取り出し、謙也の――アドレス帳を引っ張る。

 俺の記憶通り今週の水曜日、つまりは3月17日。
 その日は……謙也の誕生日やった。

 しかも俺らが付き合い出して、始めて迎える謙也の誕生日やった。

 ――どないしよ……俺らまだ喧嘩しとる……。

 気付かされた瞬間、俺の頭は真っ白になって、

「え、ちょ……クーちゃん!?」

 無言で友香里に包みを返したら、俺は自分の部屋に向かった。友香里がなんか言っとったけど、たいして気にならんかった。

 バタンとドアを閉めて部屋に入った俺は、開いたまんまの携帯を見て、メール画面を表示し受信履歴から謙也のメアドを引っ張った。喧嘩する前やったら謙也の名前は受信履歴の一番最初にほとんどあったのに、今は随分下の方になっとる。
 新規作成の白い画面になって、俺は携帯を打ち始めた。

 ――せっかくの謙也の誕生日やのに、喧嘩したまんまなんか嫌や。

 その感情だけが俺を動かした。
 今までなんやかんや理由をつけて謝ることから逃げてた俺やけど、もうなりふり構ってられへん。

 直接、面と向かって言うことが出来ひんから、俺はメールに頼ることにした。


 
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