君が好きだと伝えることば
「好きや白石」
言っても、言っても、返ってくるのは、
「ありえへんわ」
いつもそれで。
告げる度に、俺はフラれている。
数週間前、俺は始めて白石に告白した。
長年培ってきた想いを、勇気を出して告げたのに、
『謙也が俺を? ありえへんわ』
……あっさり断られてしまった。
しかも冗談だととられてしまったようで、
『何の罰ゲームなん? めっちゃおもろいんやけど』
笑われてしまった。その疑いは必死に説明して晴らしたけど、白石の反応は変わらなかった。
『アホなこと言うなや。俺とお前が釣り合う訳ないやろ』
キモいと言われなかっただけマシだが、真顔で言われ、俺はかなり凹んだ。
それでも俺はやっぱり白石が好きで……諦めきれなくて、こうして毎日のように告白している。
最初はあんなにどもっていたのに、今では馴れてしまったのか、すんなり言葉が出てくる。
ジャージ姿のまま、白石は今日一日の活動記録を部誌に記していて、俺の方を見向きもせずありえないと先程口にした。
既に制服に着替え終わっている俺は、空いている白石の向かいの椅子に座り、彼をじっと見つめる。
包帯の巻かれた左手で鉛筆を動かすその姿は妙に色っぽい。俺がそういう目で見ているだけかもしれないが、何をしてても白石はエロいと思う。
「……なんでおんねん。さっさと帰れや」
帰る気配のない俺に気付いたのか、白石はほんの少し顔を上げそう言った。
「白石と一緒に帰りたいから待っとうねん」
俺が少し拗ねたように言うと、白石はふーんと感心したように声を上げ、
「――自分、ホンマに俺のこと好きやねんなぁ」
思いもよらない言葉を吐いた。
自分で言うのは慣れっこだが、こうして他人に――しかも好きな相手に言われるのは始めてで、俺は顔を真っ赤にしてそうやっ!と肯定する。声が裏返ってしまい、俺はますます恥ずかくなった。
そんな俺を見て、白石はけらけらと笑い声を立てる。
「俺のどこがええん?」
それが収まった頃、白石のした質問に俺は椅子からズリ落ちるのではないかと思った。
……本人に向かってそれを言えというのか。
「なぁ、答えてぇや」
いつの間に書き終わったのか、白石は部誌を閉じ、頬杖をついて聞いてくる。
他の人間にならともかく、本人に言うとなるとかなり……いや、相当恥ずかしい。
「そ、そんなん、恥ずかしゅうて言われへんわ!」
「なんや……俺への想いてそんなもん?」
白石がわざと言っていることは間違いなかった。完全に俺をからかって遊んでいる。
しかし……こうまで言われると、言わない訳にはいかない。白石への想いは間違いないので、俺はゴクリと息を飲むと躊躇いつつ喋り始めた。流石に面と向かって話すのは恥ずかしいので、視線はやや斜め下にある。
「俺は……白石の全部が好きや」
そう。俺は白石の全てが好きだ。
「何事にも『完璧』目指して、一生懸命努力しとるとこが好き……やし……」
健康オタクの癖に、無理をし過ぎるのではないかと心配だが、それも白石のよさ。努力家な白石が好きだ。
「なんだかんだ言うて、面倒見のええとこも好きやし……」
授業で分からないところがあって聞いたら、しゃあないなぁと言いつつ、丁寧に教えてくれる。面倒見のいい白石が好きだ。
「絶頂(エクスタシー)とか、最初変態とか思たけど……コレ言うてる時の白石………めっちゃ可愛えわ」
言っていることはアレだが、本当に可愛い――かつ、エロい顔で言う。
「ホンマに俺、白石が好き」
自然と口をついていた。
視線を向け見てみれば、白石にしては珍しく、呆気にとられたような間抜けな顔をしていて。しかしそれはほんの少し出来事で、白石は口元を押さえてプッと吹き出すとクスクスと笑い出した。
「な……なに、笑っとーねんっ! お前が聞きたい言うたから答えたんやろっ!」
「すまんすまん……っ、せやけど、こない本気で言われる思てなかったから……っ」
心外だが、白石にとって余程おかしいことだったらしく、笑いは一向に収まらない。腹を抱えながら、目尻に溜まった涙を白石は細長い指で拭い、
「あー……おかし……っ」
そう口にした。
大分落ち着いたらしく、ちゃんとした言葉となって聞こえた。
「……いまさら何言うとうねん。俺はいつも本気や言うとるやろ」
「せやから堪忍やって。お前の気持ちはよう分かったから」
我ながら子供っぽいとは思うが、いじけてしまうのは仕方がない。
「謙也、拗ねてんのかー?」
「……拗ねてへん」
何度想いを告げても、白石は真剣に取り合ってくれない。それをネタにからかってくる。
「謙也」
「なんやねん」
「自分の気持ちは……嬉しいわ」
始めて言われた言葉。
これはもしかしてと、淡い期待を抱いてしまうのは仕方がない。
「でも、やっぱりありえへんなぁ」
……結局、いつもと同じだろうが。まさに天国から地獄。俺はガクリと肩を落とす。
白石はそんな俺を見て、再びおかしそうに笑い声を立てた。笑うなやっ!と言ってみたが、勘忍と言うだけで白石の笑いは止まらない。
笑われていることに恥ずかしさを覚えつつ、白石の笑顔を見ている内に俺は思った。
――やっぱり俺は、白石が好きなんだと。
本気で白石に惚れてるから、ありえないと言われても諦めきれない。
白石が好きで好きで……この恋が報われないとしても、俺は多分、ずっと白石を好きでいる。
「白石」
「…なんや?」
「……好きやで」
想いが届くと信じて、俺は何度だって口にする。
白石は、
「知っとる」
笑いに震える声で言い、俺の大好きな――綺麗な笑みを見せてくれた。
end.