盤上ノ上デ踊ル@



「――白石、俺……お前のこと好きやわ」

 ずっと親友やと思てた男からの告白は、ある日突然やってきた。
 放課後何気なしに――多少違和感は感じたものの、いつも通り喋っとったら、急に真面目な顔されて。突然謙也の雰囲気が変わって、俺が戸惑っとったら、いきなり好きやと言われた。

 ――最初、何言われたか俺は分からんかった。
 だって考えてみ?
 普通に考えてありえへんやろ。男が男に告白されるなんて。
 『ありえへん』と思てたことが、絶対『ない』と思てたことが起こって、俺の頭はついていかれへん。
 しかもそれは、俺がずっと夢見てたことで、俺も――謙也が好きやった。

 友達としての『好き』が、いつの間にか別の『好き』に変わっとって。それが恋愛感情やと気付くんに、そう時間はかからんかった。
 最初は自分の気持ちに驚きもしたけど、同時にしっくりもきた。

 謙也は……太陽みたいに明るい。
 俺が落ち込んどる時、その笑顔見とるだけであったかい気持ちになれる。
 謙也と一緒におるだけで、俺は安心出来る。
 それは下手な薬よりもよく効く、素敵な魔法。
 俺は知らず知らずの内、謙也に依存しとって、謙也に惹かれとった。

 せやけど『完璧』と呼ばれる俺は常識を踏み外すことが出来んで、世間を気にするあまりに謙也に好きやと言われへんかった。
 友達として、一緒におれるだけで俺は幸せやった。そしたらあったかい気持ちになれるし、安心出来る。
 謙也とおれるだけでホンマによかった。
 それ以上は何も望まへん。
 望まへんかったのに……

「え……?」

 望みが叶おうとしている。
 あまりのことに思わず漏らした声。
 謙也はそれを聞こえへんかったと解釈したんか、

「せやから白石……俺はお前が好きやねん……」

 もう一回言うてきた。
 流石に二回目は恥ずかしかったんか、謙也は耳まで顔を真っ赤にしとる。
 二回も聞いたら間違いないやろ……。
 俺と謙也は……両想いやったんや。

「し……白石すまんっ! いきなりこんなこと言われて……びっくりしたよな。キモい、やんな……」

 俺が何も言わんから、謙也はそういう風に取ってしもたみたいで。焦ったように謝り、頭と語尾がどんどん下がっていく。

「今の忘れてくれ……って、無理やんな……。とりあえず言っておきたかったてん。白石がキモい思うんやったら、俺……近寄らんようにするから……」

 俺が断っても気にせんように、無理矢理笑ってごまかす謙也。今の告白をなしにされたみたいで、なにより謙也が近寄らんとか言うたから、

「そんなことあらへんっ!」

 なんて返そか悩んで、閉じとった俺の口は自然と動いとった。
 いきなり声を張り上げた俺を、謙也は目ぇ丸くして見とる。

「俺も……俺も謙也が好きや」

 言わなあかん思て、俺は自分の想いを正直に告げた。
 より一層大きく見開かれる謙也の瞳。
 謙也はバンッと机を叩いて立ち上がり、

「ほほほほんまか白石……っ!」

 動揺しまくりでそう聞いてきた。
 俺がコクンて頷いたら、謙也はゴクリと喉鳴らして、真剣な顔してまた聞いてくる。

「俺の好きの意味……分かっとる?」
「うん」
「白石と……セ、セセセックスとかしたいっちゅー……ことやで?」
「……うん」
「ホンマに……ホンマに?」
「………うん」

 しつこいって言いたなるぐらい謙也は聞いてきて。一個ずつ俺は頷き返す。
 そのやり取りを何回も繰り返して、ようやく謙也は分かってくれたんか静かになった。
 立っとった謙也やけど椅子に腰下ろして、

「あかん……嬉しすぎる……っ」

 顔を片手で覆い、漏らした声は少し震えとった。

「絶対無理や思てたから……せやから俺、嬉しいて……っ」

 そんなん、俺も一緒や。
 そう思たら、体が勝手に動いとった。
 俺は立ち上がり、謙也の前に移動したら、俺の気配に気付いた謙也が顔から手ぇ離して。
 そのお陰で見えた唇に、俺は自分のを――ゆっくり重ねた。謙也は驚いとったみたいやけど、すぐ受け入れてくれて。

 俺の後頭部に手ぇ回し、謙也は口付けをより深いものとする。
 互いの唇を堪能しながら、俺達はこれまで秘めてきた想いを伝えあった。

 これでもかってぐらい、伝えあって……。

 その日は、俺と謙也にとって忘れられへん最高の一日になった――。








「――あァぁ……っ、アカンて謙也ぁ……っ」

 謙也と想いが通じ合ってから、もう半年が経とうとしてた。

 そんで今、誰もおらんようになった部室で、俺らはセックスしとる。

 なんや部活中、汗流しとる俺がエロかったみたいで、謙也は我慢出来んかったらしい。
 最後の一人、副部長の小石川が出ていったらいきなり押し倒されキスされて。
 完璧に発情しきった顔で『ヤりたい』言われたらもう断られへんやろ。ええよて俺が言うたら謙也は嬉しそうに笑て、俺の首筋に顔を埋めてきよった。

 ――謙也に求められたら、とんでもない場所でもない限り、俺は基本OKを出す。
 それは相手が謙也やから。
 好きな相手に求められたら俺だって嬉しいし、そんな気分になってくるからついええよて言うてしまう。

 惚れたモン負けて、つくづくホンマやなぁ……。

 せっかく着替えた制服を全部脱がされ、謙也の手が俺のモンを優しく扱いて、俺は軽くイかされたしもた。
 気持ちようて全身の力が抜けて、その余韻に俺は浸っとったら、謙也の手で体を俯せにさせられた。
 尻を謙也の方に突き出すこの格好は、ちょっと恥ずかしい……。
 そう思とったら、ヌメッとした指やないなんかが入ってきて、反射的に後ろ向いたら、謙也が尻んとこに顔埋めとった。その光景を目の当たりにして、俺は『なんか』の正体を知る。
 謙也は俺の尻を両手でしっかり広げ、その奥にある後孔に……舌を這わせとった。
 始めてされるワケやないけど、流石にこれはいつまで経っても慣れへん。

「なんで? なんでアカンの?」

 俺がアカン言うても、構わず舌入れてくる。

「なんでて、そんなっ、とこぉ……アぁっ、汚、いやんか……っ!」

 女みたいにそこは受け入れる場所やなくて、排泄物を出すとこやから、汚いに決まっとるのに、

「汚くなんかないで。白石のここ、ごっついキレイ……」

 謙也はうっとりしたようにそう言うて、舌を捩込み、ナカの浅い部分を掻き乱してきた。

「ひやぁ……っ、アぁっ、ふぁアァぁっ!」

 こんなとこ舐められて普通やったら気持ち悪い筈やのに、俺のモンは勃ち上がり先走りをポタポタ零す。

 ――謙也やったらええ。

 恥ずかしいんは消えへんけど、そう思っとるから気持ち悪いなんか感じんと、与えられる快感に俺は素直に身を委ねた。

「はぁっ、うぁっ、ヤァぁ……っ!」

 舌の抜き差しが激しなって、俺の口からは引っ切りなしに喘ぎが漏れる。
 体中の血液が沸騰したみたいに熱うて、奥の方がジンジンしてきた。
 ――早くこの熱をなんとかして欲しい。
 もどかしそうに俺の腰は揺れとった。

「あ……っ!」

 今まで後孔をはいずり回っていた舌が、ちゅっとリップ音を立て離れてって。収まるどころかひどくなっとる熱のせいで、俺は寂しそうな声上げてしもた。

「謙也ぁ……っ」

 もう我慢出来んで、俺は縋るように謙也を見た。そしたら謙也は困ったように眉下げて、

「白石……そんな目で見んなや……抑えきかんようなるやろ……っ」

 言いながら、俺から目ぇ逸らした。

 ――謙也は多分、俺の身体んこと気にかけてくれとる。
 確かに足腰立たんようまでヤられて、謙也に文句言うたこともあった。
 せやけど……心はいっつも満たされとった。謙也の想いが――俺をどんだけ好きかって気持ちが、言葉以外で伝わるこの行為が俺は好きや。

 最初は、男としてのプライドが邪魔してなかなか行為に進めんかった。
 本来やったら、突っ込む側の性である自分が掘られるんやで?
 抵抗ないワケがない。
 それやのにいざヤってみたらごっつい気持ちようて。謙也の気持ちが、身体を通じてこれでもかってぐらい伝わって、すごい幸せな気持ちになれた。

 ホンマに好きや、謙也が……。

「えぇ……っ、めちゃくちゃしてくれてえぇからぁっ、はよう挿れて……っ!」

 正直な気持ちを言うたら、謙也は俺の腰をしっかり掴んで、

「どうなっても知らんからな……っ!」

 ばっちりそそり勃った自身をぶち込んできた。

「ひやぁっ、アぁぁっ、謙、也ぁっッ!」
「白石……っ、白石……っ!」

 互いの名前を呼び、求め合う。
 端から見たら、さぞかし滑稽なんやろう。男と男がヤっとる異様な光景。
 せやけど、俺は幸せやった。
 俺のナカに埋まっとる、謙也のは火傷しそうなぐらい熱うて。このまま溶けて、一つになれたらって本気で思う。

「――あっ、ヤぁァっ! ア、カン……っ! もう……っ、出るぅ……ぁあっ!」

 激しい律動にガクガクと身体が揺れ、息する余裕さえなくて。耳元でする謙也の息遣いとか、室内に響く卑猥な音が俺の興奮を煽る。
 そんな状況下で、弱いとこを重点的に攻められたら、俺のモンは限界やった。

「アぁっ、ハぁぁアぁっ!」
「ええで白石……イきぃや」

 そしたら謙也の手が伸びてきて……ピストン運動はそのままで、先端部分を親指の腹で強く擦ってきた。
 その刺激に堪えられんで、

「ふぁァあぁぁっッ!」

 女みたいに甲高い声上げ俺はイった。その衝撃で俺は後孔をきつく締め付けてしもて、

「ぅ……っ!」

 ドクンと脈打って、謙也が俺のナカでほぼ同時にイくんが分かった。
 止まることなく注ぎ込まれる謙也の精液。
 それが熱うて……気持ちようてしゃあない。謙也の精子が、俺の身体の一部になったような、そんな錯覚さえ覚えた。

「謙、也ぁ……」

 荒い息を吐きながら、途切れ途切れに名前を呼べば、謙也は俺を抱き起こして。繋がりはそのままで、俺らはいわゆる後背座位言われる体位になった。
 俺の背中に顔を埋めた謙也が、

「白石……愛しとる……」

 そう口にして。
 俺は胸一杯の幸せを感じた。

「俺、も……俺も好きやで……っ、愛してる……っ」

 後ろ向いて言うたら、次の瞬間、謙也の顔が視界いっぱいに広がって、俺の唇は謙也ので塞がれとった。



 ――好きや……好きや好きや。

 謙也が好きで好きでたまらへん。

 他のヤツが相手やったら死んでも嫌な行為も、謙也が相手やったら何でも許せた。
 謙也やから……許せる。
 謙也が俺のこと好き言うてくれるから、俺のこと優しく抱きしめてくれるから……プライドだって捨てた。
 謙也の前では『完璧』でも『聖書』なくて、ありのままの、弱い自分をさらけ出した。

 謙也やから……
 謙也のことが好きやから……
 全てを捧げた。






 それやのに、


















「――白石……俺ら、もう終いにしようや」

 なんでこないなことになってんねんやろ……?




Aへ続く……

<とっぷ>




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