ななしとの再会から早くも2週間が過ぎた。あれから一度も再び彼女を見たことはない。彼女が以前住んでいた家にはもう別の家族が住んでおり、彼女の存在を確かめられるような手掛かりすら見つからない。最近ではもはやあの時のことは夢だったんじゃないかとも思い始めた。うん、やっぱり夢かもしれない。いや、でもななしがまた会うかもね。なんて言ってたじゃないか。いや、それすらも夢なんだろうか。ああ、頭の中が混乱してきた。どうせならメールアドレスとか電話番号とか聞いておけばよかった。まぁそれもただの後悔に過ぎないのだが。



今日もいつも通りの日常を過ごし、いつも通り部活をして、いつも通り家に帰った。いつも通り夕食を食べて、毎日の日課であるランニングに出かける。至って普通の1日。


ランニングのために外に出ると、外は少しだけ寒かった。靴紐を少しかために結んでちょっとだけストレッチをし、走り出す。冷たい風を感じる。夜の風が気持ちいい。走っているうちに火照ったからだがあつい。もう少ししたら帰ろうかな、そんなことを思いつつ公園の前に差し掛かると、まわりが暗くてあまりよく見えなかったが、なんだか見覚えのあるような姿があった。



あれは、ななし、だろうか。いや多分ななしだと思う。こんな所で会えるとは思っていなかった。ああやっぱりあれは夢ではなかった。ついでに今度こそメールアドレスとか聞いておこう。それにしてもケータイを弄りながら誰かを待っているのだろうか。というかあんな薄着で寒くないのか?

ななしの所までの距離があと100mくらいになったとき、なんだかよくわからない中年のオジサンがななしに話しかけはじめた。これはやばいだろと思い、走るスピードを上げようとした、しかし自然と足が止まった。


嘘、だろ?


俺は信じがたい光景を目の当たりにした。ななしがオジサンと少し雑談をした後、中年の腕に自分の腕を絡めた。そして歩き出す。そう、ななしは自分から中年のオジサンについていったのだ。意味がわからない。まさか、ななしが "そういう" 仕事をしている、とか…?いや、そんな、まさか。


俺は居ても立ってもいられなくなり、止まった足を再び動かす。そして2人を引き剥がした。2人とも驚いたような目でこちらをみている。オジサンは興奮して息を荒くしながら俺に向かって怒鳴った。


「なんだテメェは!じゃますんじゃねーよ!!」

「邪魔するも何も、これ以上彼女に、ななしに付きまとったら警察に通報しますよ。」

「い、み、わかんねぇ!お前には関係ねぇだろ!」

「本当に、通報しますよ?」


俺はなぜだか怖いぐらい冷静だった。俺がケータイで警察に連絡する振りをすると、そそくさとオジサンはどこかに行ってしまった。そしてななしの方を振り返る。彼女は俺の事をこれでもかというくらい睨んでいた。俺も負けじと睨み返す。睨みあってやや経ってから、彼女がようやく口を開いた。



「…ッなにすんのよ!せっかくいいカモを捕まえたのに!」

「…お前は自分がなにしてたかわかってんのか?」

「そんなことくらいわかってるわよ!これが今のアタシなの。驚いた?そりゃ驚くよね、久々に会った幼なじみが売春やってんだもんね。」


頭の中でなにかがプチンと切れたような感じがして、俺は彼女の両腕を強く握り、もう一度叫んだ。


「お前は自分が何をしてたかわかってんのか!」

「っわかってるよ!!!」


彼女が予想以上に大きな声で反論したところで俺は冷静さを取り戻した。目の前の彼女は息を荒くして、再び俺を睨んだ。そしてうっすら笑みを浮かべる。


「…これは私が選んだ道、私自身でやってることなの。だからもう構わないで。あ、そーだ、」

怖いくらい俺の事を睨み付けていた目が急にあどけない感じにもどった。ななしが高そうなカバンの中をごそごそと探り始め、名刺らしきものを俺につきだす。

「ハイ、これ。私の名刺。指名してくれたらヤッてあげてもいーよ。」

「ふ、ざけんな!」

俺はパシンと彼女の手を弾く。彼女は尚も笑みを崩さない。

「ふふ、照れなくてもいーのにね。じゃあ私は仕事に戻るから。次会うときは、そういうコトする時かもね。なんて。」




彼女は2週間前と同じようにスタスタと歩いていった。彼女の姿が段々遠くなっていく。俺は彼女にかける言葉が何も思い浮かばなかった。というより声が出せなかった。追いかければいいのになぜか足は鉛のように重く感じて動かない。彼女の姿が見えなくなってからすこし経って、俺は彼女が差し出した名刺を拾った。走って暖かくなった体はすっかり冷えて、気づけば俺は涙を流していた。



これこそ夢だったらよかったのに。





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