昨日はいろんな人から電話がかかってきたりして少し忙しい1日だった。電話の内容は皆お別れの内容だった。幼なじみや親友、帝国のサッカー部のみんななどから電話が掛かってきて、懐かしさに浸る分、いよいよなのだと思った。
そんな昨日とはうってかわって今日は街中がしんと静まり返っている。全ての電化製品が止まっていて、まだ4時なのに部屋は少し暗かった。
昨日のニュースによれば今日の七時位に小惑星が衝突するらしい。ということはのこりあと3時間で私達はいなくなる。部屋が薄暗くてなんとなく不気味さを感じ、同時に一週間前のように、少し不安になってきた。幸次郎がそばにいると、何度も自分に言い聞かせたが、やはり言い様のない死に対する恐怖心が生まれて幸次郎にしがみつく。
「あと三時間だな。」 「…うん」 「…やっぱり怖いか?」 「う、ん」
幸次郎は小さくため息をついて、私の頬をつねる。
「…いひゃいよ幸次郎」 「怖いときはな、楽しいことを考えるんだ。」 「たのひいこほ?」 「そうだ。」
そう言うと頬をつねっていた手を離して幸次郎かま再び話始める。
「俺は来世でもまたお前と一緒にいたいと思ってる。」
「地球がなくなっちゃうのに来世なんかあるわけないじゃん。」
「こら、そういうことを言うんじゃない。地球だけが全てじゃないだろう。」
「じゃああたしは火星人で幸次郎は木星人かもしれないよ。」
「だったら俺は火星まで会いに行く。」
「あはは、へんな幸次郎。」
幸次郎は私のおでこに自分のおでこをくっつける。
「…来世がどうであれ、また巡りあって、またななしと結婚してちゃんと式挙げて、みんなに祝ってもらう。そして子供作って今度こそ幸せに暮らす。」
「あたしは料理できるようになっておくよ。」
「ははっ、それもそうだな。」
「子供は男の子がいい」
「俺はどっちでもいいけど必ずサッカーさせる。」
「あたしもサッカーさせたいと思ってた。」
「男の子ならゴールキーパー、女の子ならミッドフィルダーだな。」
「ふふ、やっぱりゴールキーパーはさせたいんだね。」
「ほら、楽しくなってきただろ。」
「うん。」
幸次郎が言う来世の事を考えていたらなんだか死ぬのが楽しみになってきてしまった。こんな私は変なのだろうか。
そんな話ばかりしていたからいつのまにかあと残り一時間となってしまった。空が揺れる。ゴゴゴ、と大きく空気が震える音がした。
「…いよいよだな。」 「…うん。」
空の色が段々明るくなってくる。あんなに綺麗に瞬いていた星が消えていく。私は幸次郎と抱き合った。
「来世でもよろしくな」
「あたしが火星人だったら絶対会いに来てよ。」
「ああ、約束だ。」
「絶対絶対絶対だよ。」
「勿論だ。お前が俺を忘れていてもな。」
私達はどちらからともなくキスをする。
「愛してるよ、ななし」 「あたしも愛してるよ幸次郎」
私達は抱き締める力を強める。私達は笑っていた。それなのになぜか涙が溢れた。幸次郎も泣いていた。私達はもう一度キスをする。少ししょっぱいキスだった。
空が光る。眩しいくらいの光に包まれて、街全体が光に溶けていくようだった。どうしてだろう。やっぱり涙が止まらないや。こころはわくわくしてるのにね。
私達は泣きながら微笑みを交わし、二人で光の中に手を伸ばす。痛みも、苦しみも、何も感じない。感じるのは隣に幸次郎がいるということ。そこにあるのは純粋な幸せ。
ああなんて幸せなのだろう。 私は喜んで死んでゆけるのだ。
目の前が真っ白になる。 私達は光の中に溶けて消えた。
イノセントワールド 10/08/23
|