あの日から更に二週間がたった。つまりこのままいくと地球が終わるまであと1週間。ニュースの内容もいよいよ本格的なものとなる。
ニュースで見た衛星からの写真は前見たときよりも確かに地球に接近していた。このまま1週間後、予定通り地球に衝突して、大気圏を通り抜けたら地球は重力があるから一気に、猛スピードで地球にこの小惑星が落ちてきてしまうのだろう。そうして私たちは死んでいくのだ。それはもう確定した運命であり、何かをして止められるものではない。果たして地球が終わる、その時に私たちはどんな気持ちでいるのだろうか。
1週間前になったからといって、私達の身の回りにこれといった大きな変化はない。いつも通りおなかはすくし、時間は過ぎるし、呼吸もする。ちょっと変わったと言えば外出するひとが減ったことだろう。本当に最後の時を思っているのだろう。あれほどはじめのころこの事実に対して危機感を持っていなかった私だって思うくらいなのだから。
先日の授業を最後に大学の講義には来なくて良いことになった。それは幸次郎も同じらしく、どこかに出掛けたいとも思わないので、私たちは二人して家でくつろいでいた。
テレビで首相が「あと1週間後〜」とかナントカ演説みたいなものをしているけど、全く耳に入ってこない。私はなんだか急に不安になって、クッションを抱きしめる力を強くして、ぎゅっとソファーの上にうずくまった。するとそんな私に気づいた幸次郎が心配して頭を撫でる。
「…不安なのか」
「ん」
「なんだからしくないな。最初の頃のお前を思い出すよ。」
「だってあの時は事実だとわかっていてもなんだか本当の事だって気がしなかったし、それにその時がきてもいつも通りであればいいって思ってたんだもん。」
「そうだったな。でもななしは今だってそう思うだろ?」
「思うけど…やっぱり死ぬのはこわいよ。」
そう言うと幸次郎は私からクッションを奪って隣に置き、今度は私を優しく抱きしめた。
「…仕方ないよ。もう決まってることなんだから。過去は過ぎてしまったし、未来は来ないし…だったら今を大事にするしかないだろ。」
幸次郎はそう言って私にそっとキスをした。そして今度は少し身体を離して私の目を見つめる。
「お前には、俺がいる。俺にはお前がいる。それだって変わらないことだろう?」
私はすこし泣きそうになった。
でもそれをぐっとこらえてかわりに幸次郎に抱きついた。それを幸次郎も抱きしめ返して何も話さないで私たちは暫くの間そのままでいた。私は幸次郎の温もりを感じ、とても心が安らいだ。 そう、私には幸次郎がいる。それはいつだって変わらない。私たちがいたという事実が無くなってしまったとしても。
私は幸次郎に抱きついたまま、いつのまにか眠ってしまったようで、目を覚ますとベッドの上にいた。どうやら幸次郎が運んでくれたようだ。隣には幸次郎がいてなぜかずっと私の顔を見ている。
「…おはよ…っていっても夜中の12時だけど。そんなことよりなんか私の顔についてるの?」
「いや、ななしの寝顔を見てた。」
「へ、ヘンタイ!」
「こら、夫に向かって何を言う。」
そう言ってちょっとわたしの頬をつねる。
「ごめんってば。」
「許してやる。」
そう言い終えた後、幸次郎はふわりと笑った。わたしもつられて笑った。そして幸次郎は私に小さくキスをして、そっと押し倒す。
「…してもいいか?」
優しく微笑む幸次郎に私はすこしどきっとした。 私は返事のかわりに幸次郎の首に手を回し、微笑み返した。
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