先日ちょうど私達の記念日だったので幸次郎と婚姻届を出しに行った。あんまり幸次郎と(事実上)結婚した実感なんてわかないけど私は幸せだった。式は(時間もあまりないので)準備の関係もあるし挙げるかどうか迷った。幸次郎は無理にでも式を挙げたいと言ったがわたしは断ることにした。本当は挙げたかったけど、結婚式の準備に追われて最後の1ヶ月を過ごすのなんていやだったからだ。そう言うと幸次郎も納得してくれた。
幸次郎と2人で歩いていると、突然幸次郎の携帯電話に電話がかかってきたようだ。幸次郎は私にちょっとごめんなと言って私から少し離れた所で電話に出る。遠目から見ても何やら楽しそうに会話していたので私はその間近くのベンチに座り、ぼんやりと空を見つめていた。この空から小惑星が飛んできてそして私達は…なんてことを考えながら。暫くして幸次郎がいつになく上機嫌でこちらに戻ってきたので相当いいことがあったらしいと思った。
「誰だったの?」 「ん?ああ佐久間だ」 「佐久間!?」
私は中学の時一応サッカー部のマネージャーだったので帝国イレブンのことならよく知っている。しかし佐久間は首都圏外の大学にいってしまったためになかなか連絡を取り合う機会がなかった。そんな佐久間と約二年ぶりの会話ならそりゃあ楽しかっただろう。幸次郎も満面の笑みを浮かべるわけだ。
「どんな話したの?てかあたしにも換わってよね。佐久間なんだからさあ」
「悪い、つい楽しくてな。そうだ、急で悪いんだが今日の6時からサッカー部全員で鬼道の家に集まるらしい。勿論ななしもだ。」
「嘘!やったあ!」
「あんまりはしゃぎすぎるなよ。ななしは酒も弱い方なんだから。」
「はいはい。」
帝国イレブン全員と会えるなんて思ってみなかった。私は楽しみで楽しみでたまらなくてさっさと家に帰り、バッチリ身仕度を整えて鬼道くんの家に向かった。足取りは軽かった。
「みんなよく来たな」 そう言ったのは鬼道くん。それにしてもみんな前よりずっと大人っぽくなってしかもかっこよくなっている。佐久間は髪が短くなってるし、咲山はマスクをつけてない。鬼道くんは相変わらずのドレッドヘアーだが髪をおろしてゴーグルは外していた。辺見はやっぱりデコだったけど。
「みんなわかっているだろうが地球が終わるまであと1ヶ月もない。だから今日みんなに集まってもらった。」
さっきまで盛り上がっていた空気から一変、若干しんみりとした空気になった。やっぱりみんな思っているのだ。自分たちの残された時間を。わたしも少し悲しくなってしまった。
「まあみんなそう落ち込むな。今日はみんなで楽しむためにここに呼んだんだから。残された時間が1ヶ月だろうが関係ない。今はみんなでまた集まれたことを喜び、楽しもう。」
そう言ってニッと笑った鬼道くんにつられてみんなもまた笑顔になった。そしてそれを合図にみんなお酒を飲んだりしはじめた。 私は幸次郎の言い付けを守って烏龍茶ばかり飲んでいると、ほろ酔いした佐久間が話しかけてきた。
「久しぶりだなななし」 「久しぶり。」 「お前源田とついに結婚したんだってな。おめでとう。」
私はちょっと恥ずかしくなって控えめにありがとうと言った。
「そういえばよぉ、中学んときから源田がお前にベタ惚れでなのにあいつオクテだから大変だったんだぜ。」
「なになに?ちょっと聞きたいかもその話。」
「あいつさーななしがマネージャーになってすぐにななしの事好きになったらしくて俺に相談してきたんだよ。」
「うん、それで?」
「そん時あいつ俺になんて相談してきたと思う?『つつつ付き合うためにはその…っ…ち、ちゅーしなければならんのだろうか』って大真面目に聞いてくるからまじで笑ったよ。どんだけ純情なんだよって。」
「あっはははは!幸次郎らしい!」
「しかもあいつ赤ちゃんはコウノトリが運んでくるものだと思ってたらしいぜ。中二にもなっ「余計なことを言うな佐久間!」」
「あっはははは!ひーお腹いたい!」
幸次郎が顔を真っ赤にしながら怒るものだから私は余計可笑しくなってしまって暫く佐久間と爆笑していた。
楽しい時間はあっという間でもう時刻は深夜2時になってしまい、お開きになった。昔みたいに騒いだりしてわたしも幸次郎も最近の中で一番笑ったかもしれない。それ位楽しかった。 帰りの電車はもう無いのでタクシーに乗って帰った。帰るまでの間、綺麗にひかるネオンの光を眺めたあと、隣で眠る幸次郎を横目でちらりと見つめ、このまま時が止まってしまえばいいのにと思った。
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